第4話:事後の翌朝。
忌まわしく長い長い夜が明けた。
清々しく晴れ渡る朝のスッキリとした青空には雲一つなく、これまで暗雲立ち込めるがごとくどんよりと重暗く湿った空気の城内に、キラキラとした朝陽が窓から差し込んでいる。
わたしの部屋にも等しく虹色に輝く朝日が注がれ、美しい鳥のさえずりさえ聞こえていた。
わたしは、わたしには絶対に訪れることがないと思っていた、この荘厳な景色の中での爽やかな目覚めに、ドキドキと早鐘を打つ胸を最高潮にまで昂ぶらせ、そっと目を開ける。
『そう、だってわたしの隣には……』
背後から静かな寝息が聞こえてくる。
振り向いて、すぐにでも愛しく美しいルカの寝顔が見たい。
でも……。
昨晩の熱いキスが頭の中に蘇り、また体の芯が熱くなってくる。
下腹部がなんだかキュンと切なくなってきて……もっと触れてほしいと全身があなたを求めるような……。
でも、なんだったのかしら、あの体中が痺れる感覚。
何も考えられなくなるほど、触れられたところが熱くなり、まるで溶けてしまうかのような。
もっともっと、激しく荒々しく、ルカに身体の隅々までくまなく触れてほしいと思ってしまった。
いやだわ、わたしったら、なんてふしだらな女なのかしら……。
そんなことを考えていると、恥ずかしさにルカの顔を見ることができない。
もじもじとした時間をすごしたのち、深呼吸をし、気持ちを整え、わたしは思い切って振り返った。
「おはよう、ルカ」
「ぎ」
「ぎ」
「ぎ」
「ぎぃいゃあああああああああああああ……」
人生二度目のわたしの雄叫びは、爽やかな朝の空気が流れる城中へと響き渡った。
そこにいたのは……あの禍々しくも毒々しい青くて不気味なカエルだった。
カエルの寝ている部分のシーツは、なにかの粘液で濡れているようだった。
『こ…… このふてぶてしい両生類め…… どおりで朝方うすら寒くて目が覚めちゃったわけよ……』
わたしは怒りと悲しみと絶望に震え、青いカエルをむんずと掴む。
「おまえぇぇぇーーー!!! やっぱりルカを喰ってルカの皮でなりすました妖怪ガエルだったんだなーーー(大泣き)!!!!!」
そう叫ぶと、壁に思いっ切り投げつけた。
ぶぉっ!バンッ!!!
カエルが壁にめり込んで貼り付いている。
昨晩ならここで七色に発光してカエルがルカに変わった。
「も…… 戻らない!? どうして……」
壁にめり込み、ボロボロになったカエルがつぶやく。
「カ、カリン…… 落ち着け…… 私だ、私がルカなのだ……」
そんなこと信じられるか!
「ならば、元に戻るまで何度でもやってやるーーーーー!!!!!」
わたしは再度カエルを掴み、思いっ切り壁に投げつける。
ぶぉっ!バンッ!!!
ぶぉっ!バンッ!!!
ぶぉっ!バンッ!!!
ぶぉっ!バンッ!!!
ぶぉっ!バンッ!!!
……
はぁっ はぁっ はぁっ……さすがのわたしも心も身体も疲れてしまい、投げるのをやめてしまった。
半ば虫の息のカエルが、無様に壁から床にベチャッと落ちた。
息も絶え絶えにカエルは言った。
「昨日…… やはり『最後まで』しなかったのが原因だと思うゲロ」
「魔女との契約を解くには、キスだけでは『乙女との契り』の効果はまだまだ薄いようだ……ゲロ」
「? 最後までって…… キスをして共寝をして、わたしたちは立派に夫婦として契ったではありませんか」
「これ以上なにが……?」
「そ、それは……ゲロ」
「私の体内にある『毒素』を体外に排出しなくてはならないのだが……ゲロ」
「ならば今すぐ『ソレ』を行えばよいではないですか!?」
「いや……あの……その…… それは『清き乙女』の身体に注ぎ込まねばならなくてだな……ゲロ」
「ならば今すぐ致しましょう!? わたしはどうすればいいのです!?」
「カリン…… それは昨晩のようにだな…… やっぱりそこに至るにはシチュエーションが……ゲロゲロ」
なぜかカエルは赤面して、もじもじとしバツが悪そうにもにゃもにゃと話している
実にまどろっこしい。
「と、ともかくだな、まずは『禁忌の森』の魔女に会いに行き、この状況に対する対処法を聞きに行った方が早いかもしれない……ゲロ」
「わかりました、ならば支度をして早々に向かいましょう」
「それと…… カエルだからっていちいちゲロってつけるのやめてくださる?」
カエルの姿をしてはいるけど、確かにこの声は、昨晩情熱的に絡み愛し合ったルカの声なのだ。
昨晩一時的にしろ、ルカは人間のルカの姿で現れた。
なにかしら手立てがあるはずなのだ。
城の外へ出るなんて、10年ぶりのこと。
『なにかが変わる予感はする……』
不安もあるが、今わたしの心の中には期待や興奮も感じられ、少しわくわくはしていた。
わたしたち(たち?)は森へ出かける支度をし、カエルは肩に乗せ、部屋の扉を開けた。
がーー。
なんと、わたしの部屋の外は衛兵が取り囲んでおり、わたしたちに向けて長い槍を突き付けていた。
そしてその中心にいたのは国王、わたしのお父さまだった。




