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トランセンデンス・リアライザー〜理想ノ世界への旅路〜  作者: 由良神零
第一章魔王討伐編

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5/17

崩れゆく理想と、神の使徒

戦いの後。

 精霊都市アルセリアは再び光を取り戻していた。

 空には自由を得た精霊たちが舞い、風が優しく街を包み込む。

 ユウキとリリアは、都市中央の神樹〈アルセル〉の前に立っていた。

 その根元には、淡く光る魔石――蒼天のグラディウスが遺した“魂の欠片”が静かに輝いている。

 「……彼も、本当は敵じゃなかったのかもしれない。」

 ユウキが呟く。

 リリアは目を閉じ、静かに頷いた。

 「グラディウスは天界から堕ちた者。

  本来は、この世界を護るために戦っていたのよ。

  でも、神々の理を壊したことで、魔王に利用されたの。」

 「神々の理、か……。」

 ユウキは空を見上げた。

 “理想”を描くたびに感じる痛み――その根源に、何か大きな“枠組み”がある気がしていた。

 夜。

 風が止まり、街の灯が静まりかえる。

 ユウキが眠りにつこうとしたその時、

 ――空気が裂けた。

 「ッ……!」

 反射的に剣を抜く。

 だが、敵意はなかった。

 そこに立っていたのは、白い外套を纏う人物。

 銀の髪、無機質な瞳。背には六枚の光の翼。

 「……初めまして、ワクラ・ユウキ。」

 その声は静かで、神秘的な響きを持っていた。

 「我は〈神界〉の使徒、セレスティア=ノア。

  “神”より命を受け、この世界の歪みを正す者。」

 ユウキは構えを崩さない。

 「歪み、ね。……俺を消しに来たのか?」

 「いいえ。確認に来たの。」

 ノアの瞳が、淡く輝く。

 「貴方の権能〈超越世界〉――それは本来、“神の権能”に属する力。

  世界を繋ぎ、可能性を具現化する“神創の欠片”よ。」

 「神の……欠片?」

 「貴方が転生した時、その欠片が宿った。

  それが、貴方をこの世界に呼び寄せた“真の理由”。」

 ユウキは息を飲んだ。

 「じゃあ……俺は偶然じゃなくて、“選ばれた”のか?」

 ノアは首を横に振る。

 「いいえ。“利用された”の。」

 「……何だと?」

 「この世界の創造主、“原初の神ルシェル”は、かつて魔王を創った。

  そして、魔王を止めるために、対となる存在――“超越者”を創造したの。

  貴方は、その器。」

 リリアが息を呑む。

 「まさか……魔王とユウキは――」

 「表裏一体。」

 ノアの声が静かに響く。

 「魔王とは、貴方の“もう一つの魂”よ。」

 「……嘘だろ。」

 ユウキの手が震える。

 頭の奥で、何かがざわめいた。

 遠い記憶――黒い翼、紅の瞳、そして“理想を拒む声”。

 “理想は、滅びの始まりだ。”

 その言葉を思い出した瞬間、ユウキの胸が激しく痛んだ。

 「うっ……!」

 ノアは表情を変えずに言葉を続けた。

 「やがて、魔王は完全に覚醒する。

  そして、貴方の“理想の道”が続く限り、世界は崩壊へと進む。」

 リリアが叫ぶ。

 「そんな理屈、認めない! ユウキはこの世界を救うために戦ってるのよ!」

 「だからこそ危ういの。」

 ノアは目を伏せる。

 「理想のために現実を壊す――それが、超越者の宿命。」

 夜風が吹く。

 ユウキは剣を地に突き立て、歯を食いしばった。

 「じゃあ、どうすればいい。

  理想を捨てろっていうのか?」

 「それが最も確実な方法。」

 ノアの瞳が一瞬だけ揺らぐ。

 「けれど――貴方が選ぶなら、私たち〈神界〉は見届ける。

  神も、人も、魔も、理想の結末を。」

 彼女の姿が光の粒となって消えていく。

 静寂の中に残されたのは、ユウキとリリアの二人だけ。

 「ユウキ……。」

 ユウキは小さく笑った。

 「……やっぱりな。俺がこの力を得た時から、どこかでわかってたんだ。

  “理想には、代償がある”って。」

 リリアはその手を握る。

 「でも、あなたは一人じゃない。

  理想を貫くなら――私が、支える。」

 ユウキはその言葉に、かすかに笑みを浮かべた。

 「ありがとう。……俺は、まだ進む。

  たとえ、魔王が俺自身だとしても――」

 夜空に浮かぶ月が、静かに輝く。

 その光の下で、ユウキの瞳が蒼く燃えた。

 「俺は、俺の理想を超えてみせる。」

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