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トランセンデンス・リアライザー〜理想ノ世界への旅路〜  作者: 由良神零
第一章魔王討伐編

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導きの光と代償の影

紅翼の魔帝アスモデウスを討ち倒したその日から、ワクラ・ユウキの名は小さな街〈ルーベル〉の人々に広まりはじめた。

 「異界の勇者」「紅翼を討った者」――称賛と畏怖、両方の声が彼に向けられる。

 だが、当の本人は静かに宿のベッドに身を沈めていた。

 「……やっぱり、使いすぎたな。」

 全身に走る鈍い痛み。

 “超越世界”を発動するたび、身体の内側から命が削られるような感覚が襲う。

 理想を描きすぎれば、現実の理が耐えられなくなる――そんな“歪み”が、確かに存在していた。

 翌朝。

 ユウキは街の中心にある〈冒険者ギルド〉を訪れた。

 木造の大きな建物には、武器を背負った戦士や魔導士が行き交い、活気に溢れている。

 受付に立つ金髪の女性が、穏やかに微笑んだ。

 「初めての登録ですね? お名前をどうぞ。」

 「ワクラ・ユウキ。……一応異世界から来たらしい。」

 女性は一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに柔らかく頷いた。

 「異界の来訪者……噂は聞いています。

  アスモデウスを倒したという――あなたですね?」

 「……まぁ、運が良かっただけだ。」

 「運だけで魔帝を討てる人はいませんよ。」

 女性は名を名乗った。「私はセラ。ギルドの副受付です。よろしくお願いします。」

 登録を終えると、背後から軽い声が飛んできた。

 「おーい、そこの兄ちゃん! 噂の“紅翼殺し”ってお前か?」

 振り返ると、銀色の髪を持つ獣人の青年が立っていた。腰には双剣。瞳は金に輝いている。

 「俺はライガ・フェンリス。獣人族の冒険者だ。強いやつと組むのが好きでな。」

 「俺と組みたいってことか?」

 「ああ。お前の戦い、見てみたい。」

 軽口のようで、その瞳には戦士としての誇りが宿っていた。

 ユウキは少し笑い、手を差し出す。

 「いいだろう、ライガ。俺はユウキ。……魔王討伐を目指してる。」

 「ほう……でっかい夢だな。面白ぇ!」

 数日後、ユウキとライガは初任務として、近郊の“黒哭の森”に向かう。

 そこには魔族の残党が潜んでいるとの情報があった。

 森の奥は、昼でも薄暗い。木々の間を抜けるたび、冷気が肌を刺す。

 ユウキは慎重に進みながらも、頭の片隅にある違和感を拭えなかった。

 ――なぜ、あの時アスモデウスの力を“見通せた”んだ?

 彼の能力〈超越世界〉は“理想の未来への道を切り拓く”力。

 だが、戦闘の最中、ユウキは確かに“敵の死の瞬間”を見た。

 まるで未来そのものを覗き見たように。

 その瞬間――脳裏に閃光が走る。

 「うっ……!」

 頭痛。視界が歪む。

 見えた。

 ――ライガの背後に迫る、黒い影。

 「ライガ、伏せろッ!!」

 叫ぶよりも早く、ユウキの身体が勝手に動いた。

 光が弾け、黒い槍が彼の肩を貫く。

 血が舞い、時間が止まったように感じた。

 「ユウキッ!? 何してやがる、てめぇ!」

 「……くそ、また勝手に“道”が……!」

 目の前に立つのは、黒いローブを纏った魔族。

 その額には魔紋が刻まれ、周囲の魔力を吸い上げている。

 「人間……まさか、貴様がアスモデウスを……?」

 「そうだ。……次はお前か?」

 「我は五大魔帝の一人、“虚骸きょがいのベルゼナ”。」

 重圧が空気を押し潰す。

 五大魔帝――魔王直下の存在。

 その一人が、なぜここに。

 ユウキは立ち上がる。

 肩から流れる血を抑え、ゆっくりと剣を構えた。

 「……“理想の未来”は、まだ折れてない。」

 光が走る。再び、〈超越世界〉が発動する。

 だがその瞬間、彼の脳裏にもう一つの声が響いた。

 『――その力を使えば、君の“存在”が削れる。』

 視界に現れる“もう一人の自分”。

 白い光の中で、淡く微笑んでいた。

 「お前は……誰だ?」

 『君自身だよ。未来を創りすぎた結果、分岐した“もう一つの可能性”――

  君が理想を描くたび、現実は一つずつ壊れていく。』

 「そんなもの、知ったことか。俺は……俺の理想を貫く!」

 ユウキの叫びと共に、世界が再び光に包まれた。

 光と闇が交錯し、虚骸の魔帝ベルゼナが咆哮を上げる。

 「ならば証明してみせよ! 貴様の理想とやらを――!」

 そして、光が弾けた。

 森全体が爆ぜ、空を裂くような閃光が走る。

 遠くルーベルの街からも、その光は見えたという。

 だが――その夜、ユウキの姿はどこにもなかった。

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