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トランセンデンス・リアライザー〜理想ノ世界への旅路〜  作者: 由良神零
第二章スタンピード編

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ブルーオーシャン

 ――世界の南端、〈ブルーオーシャン〉。

 かつては人間たちの海上交易の要だった海域。

 だが今、そのすべてが沈みかけている。

 波は荒れ、空は裂け、

 海そのものが“意志”を持って荒れ狂っていた。

 「……これが、E級のダンジョンボス――〈大海の主〉。」

 リリスは風に揺れる黒髪を押さえながら、目を細めた。

 彼女の視線の先、海上に浮かぶ“巨大な影”。

 まるで島そのものが動いているように見えた。

 その影がゆっくりと海面を割る。

 水柱が天を衝き、光が反射して目が焼ける。

 ――現れたのは、鯨のようであり、竜のようでもある存在。

 全身を覆う蒼鱗は光を弾き、眼光は嵐を宿していた。

 「……我ハ、“大海ヲ統ベル者”。

  この世ノ命脈ハ、海ト共ニ在ル。」

 その声が響いた瞬間、海が唸る。

 波が裂け、潮が巻き上がり、海流が狂い出す。

 まるで、世界そのものが怒っているかのように。


 背後では、避難船が必死に港を離れていた。

 ユウキはそこにいない。

 彼は今、北方の“未知の門”へ向かっている。

 「……ユウキ、あなたは前に進んで。

  私が、この海を守る。」

 リリスの手の中で、黒い双剣が唸る。

 かつて魔族だった彼女の魔力が迸り、海風が刃の形を取る。

 大海の主が低く唸った。

 「小サキ者ヨ。汝、海ノ理ニ挑ムカ。」

 「理だろうと、運命だろうと――私は折れない!」

 海が咆哮した。

 リリスの身体が吹き飛ばされそうになるが、彼女は翼を広げる。

 魔力が逆巻き、海上に黒い魔法陣が幾重にも展開される。

 「――堕天ノ剣技・『黒閃連華こくせんれんげ』!!」

 十重の斬撃が奔流となって襲いかかる。

 しかし、大海の主の鱗はそれを“飲み込んだ”。

 波が蠢き、斬撃が“潮流に溶かされる”。

 「斬れない……海が、盾になってるの!?」

 リリスの額に汗が滲む。

 相手の力は“海そのもの”。

 攻撃を吸収し、形を変え、己の武器とする。

 「リリス=ノクターン。汝ハ、己ノ力ヲ誇ル。

  然レド――海ハ、万象ノ母ナリ。」

 その瞬間、無数の水柱が一斉に立ち上がった。

 それぞれが“竜の形”を成し、リリスへと殺到する。

 彼女は空へと舞い上がり、

 黒翼を広げながら詠唱を続けた。

 「――漆黒よ、私の血を媒介に、海を呑み尽くせ!」

 翼が裂け、血が飛ぶ。

 その血が魔力と混ざり、黒き海流を形成する。

 赤と黒が交じり合う暴風――それはリリスの禁呪。

 「堕天禁術――『血潮ノ終海ちしおのついかい』!」

 黒き波が海を覆う。

 その瞬間、蒼と紅がぶつかり、

 天が、割れた。


 リリスの攻撃が海面を抉り、

 数キロ先まで波が吹き飛ぶ。

 だが、大海の主はただ一言、呟いた。

 「――深淵ヨ、還セ。」

 海が、沈黙した。

 黒い波が吸い込まれるように静まり返り、

 次の瞬間、逆流。

 黒潮が逆にリリスを呑み込もうと襲いかかる。

 「ぐっ……! この……っ!」

 海の重圧が骨を砕く。

 魔族である彼女でさえ、呼吸ができない。

 視界が歪み、光が遠のく。

 ――その時、耳に届いた。

 ユウキの声。

 『リリス、信じろ。道は、まだ続いている。』

 リリスは微笑んだ。

 「そうね……あなたが切り拓いた道だもの。」

 翼が再び広がり、黒い魔力が逆流を断ち切る。

 海を割り、嵐を裂き、

 リリスの剣が再び光を宿す。

 「私は、あなたの“未来”を守る――!」

 黒翼が蒼空を裂き、

 リリスは大海の主の額を貫いた。

 水柱が立ち、光が溢れ、海が静まる。

 リリスは膝をつき、息を吐いた。

 「……やった、の……?」

 波間で、蒼光が微かに瞬く。

 ――“まだ、終わっていない”。


 一方、北方の氷原。

 雪嵐の中、ユウキはひとり歩いていた。

 風が凍てつくほど冷たい。

 だが彼の眼前には、薄く輝く“第七のゲート”が浮かんでいる。

 「……ここが、まだ誰も知らない“最後の門”か。」

 門の表面に、何かが刻まれていた。

 古代文字――いや、見覚えがある。

 それは、エラーの世界で見た“八世界の紋章”。

 ユウキは、ゆっくりと呟いた。

 「……まさか、この世界には、もう一人――

  “世界を超えた存在”がいるのか?」

 風が吹き、ゲートが淡く脈動する。

 ユウキは一歩、踏み出した。

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