魔物の大暴走スタンピード
――世界が、再び悲鳴を上げた。
それは、誰も予期しない形で訪れた。
空が曇り、地が震え、
魔力の流れが“逆流”する。
人々はまだ、その異常の意味を知らない。
だが、各地の冒険者ギルドでは、
同じ言葉が次々と報告に記されていた。
> 「群れが、統率されている……!」
> 「知性を持つ魔物が、数万単位で動いている!」
> 「これは――ただの暴走じゃない!」
ギルドマスターたちが震えた。
彼らが恐れた“禁句”が、現実になったのだ。
――〈魔物大暴走〉。
ユウキは、王都の高塔から異変を見下ろしていた。
地平線の向こう、海の彼方、
空にも大地にも、黒い渦のような光が揺らめいている。
「あれは……転移門?」
ギルド本部からの報告が届く。
「報告! 確認されたのは計六つ!
それぞれが未知の魔力波を放っています!」
ユウキは低く呟く。
「六つの門――群れを統べる“王”がいるってことか。」
地図の上に浮かび上がった、六つの名。
『ブルーオーシャン』
『空虚の塔』
『世界樹』
『最強ダンジョン』
『羅生門』
――そしてもうひとつ、未確認の第六のゲートが北方氷原で脈動していた。
ギルドの観測士たちが震える声で報告を上げる。
「各地のゲート内で確認された魔物の群れ数、
およそ――三十万体以上!」
「……三十万!?」
「しかも群れを率いている存在の魔力値、
既存のランク測定器が反応不能……!
ギルド規格外の“E級”と認定されました!」
場が凍りつく。
S級の冒険者ですら“災厄級”と呼ばれる。
その上――“測定不能”。
“人間の理解を超えた存在”という意味だ。
それぞれのダンジョンの奥底で、
“何か”が目を覚ます。
――〈ブルーオーシャン〉。
深海の底で、海を割るような咆哮が響く。
巨大な鱗が蠢き、波が空へと昇る。
「……我ハ、大海ヲ統ベル者ナリ。」
名を、大海の主。
海そのものが、その体。
――〈空虚の塔〉。
無限に続く螺旋の上で、風が渦を巻く。
空気が震え、声なき声が囁く。
「虚ろこそ、我が存在。」
名を、虚空の御霊。
形を持たぬ、概念の魔。
――〈世界樹〉。
大陸中央に聳える樹海が、突如として動き出す。
根が地を裂き、枝が雲を貫く。
「芽吹きは滅びをも孕む。」
名を、災害樹。
生と死の循環を司る、世界の代弁者。
――〈最強ダンジョン〉。
死の気配が漂う闇の底で、鎌が擦れる音が響く。
「オイ、退屈してたんだよ。」
名を、死神君。
その笑いは、命を断つ鎮魂歌。
――〈羅生門〉。
地獄の門が軋み、紅蓮の炎が噴き上がる。
「六道を巡り、修羅を極める。」
名を、修羅婆。
戦のために生まれ、戦うために存在する鬼神。
その報告を聞いたユウキは、拳を握りしめた。
「六体のE級……この世界が試されてる。」
リリアが問いかける。
「ユウキ……どうするの?」
彼は静かに答えた。
「行くさ。
俺たちが生きるこの世界を――もう二度と失わないために。」
風が吹く。
夜空に光る六つのゲートが、まるで天の瞳のように輝いた。
そして、その光を見上げる“誰か”がいた。
遠い異空間、八重の光輪を背負う存在――エラー。
「……へぇ。
やっぱり退屈は続かねぇな、ユウキ。」
彼の唇が歪む。
「この戦い、見せてもらうぜ――
“世界を護る者”としての本当の姿を。」




