またね
光が、果てなく続いていた。
炎も、氷も、闇も、神々すらも――すべてがこの戦いの果てに崩れ落ちていた。
そこは、あらゆる“未来”の残骸が交わる場所。
時間も存在も意味を失った、最後の戦場。
ワクラ・ユウキと、八世界の王――エラー。
ふたりの戦いは、既に一つの世界に収まるものではなくなっていた。
剣がぶつかるたびに、無数の次元が砕けた。
ひとつの斬撃が、過去を貫き、
ひとつの拳が、未来を砕く。
“超越世界”と“八世界”――
それぞれの理が干渉し、相殺し、そして膨張していく。
エラーは笑っていた。
狂気と歓喜が入り混じった、まるで子供のような笑顔で。
「ハハハハッ! やっぱりお前、最高だなユウキ!
これほどの世界干渉を起こせる奴、他にいねぇ!」
ユウキは血に塗れ、膝をつきながらも剣を握り続ける。
「……まだだ……終わってねぇ……!」
全身の魔力が、限界を超えていた。
しかしその瞳には、まだ“未来”が宿っている。
エラーが一歩、前に進む。
その動きひとつで、空間が軋んだ。
「お前、なんで戦う?」
「……理想の未来のためだ。」
「理想、ねぇ。」
エラーは小さく笑う。
「俺も昔は、そうだったんだよ。」
「……お前が?」
「そう。俺は“ただの人間”だった。
どこかの異世界に転生して、勇者になって、世界を救って……
それで終わるはずだった。」
彼の瞳に、一瞬、哀しみがよぎる。
「でもな、救った後の世界は退屈だった。
戦う理由も、守るものも、もうなかった。
だから俺は次の世界を探した。
戦える相手を、また見つけたくてな。」
「そうやって……八つの世界を壊したのか。」
「壊すつもりなんか、最初はなかった。
でも、気づいたら“全部終わってた”。
戦うたびに、世界は壊れ、
俺だけが生き残る。」
エラーは空を仰ぐ。
「そして気づいた。
“世界の終着点”ってやつは――俺自身だった。」
ユウキは剣を振り上げる。
「だったら、俺がその終着点を越えてやる!」
全身の光が、ひとつの輝きに集約する。
“超越世界”が再び形を成す。
しかし――その瞬間、
エラーの拳がユウキの胸を貫いた。
「――ぐっ……!」
血が散り、ユウキは膝をつく。
剣が砕け、光が散る。
エラーが静かに見下ろす。
「やっぱり、お前は最高だった。」
「……まだ……俺は……」
「いいんだ。」
エラーは微笑む。
その表情は、戦いの狂気とは違う。
どこか、安堵に似たものだった。
「お前は負けた。でも、“心”は折れなかった。
だから――お前の願いを、ひとつだけ叶えてやる。」
エラーは指を鳴らす。
瞬間、無数の光が広がり、崩壊していた世界が再構築されていく。
魔王が倒れた後の荒れ果てた大地が蘇り、
人々が笑い、空が青を取り戻す。
「これは……!」
「お前の戦った世界だ。
滅んだままじゃ、つまらねぇだろ?」
ユウキはその光景を見上げながら、静かに息を吐く。
「……ありがとう。」
エラーは背を向ける。
「礼はいらねぇ。
また“面白ぇ奴”を探しに行くだけだ。」
歩き出す背に、ユウキが声をかける。
「……また会えるのか?」
エラーは振り返らずに答える。
「当然だ。
お前が“俺を超える”その瞬間に――また、遊ぼうぜ。」
ユウキは微笑む。
「次は……負けねぇよ。」
エラーの笑い声が、遠ざかっていく。
「ハハッ、それでこそ“超越者”だ!」
光が消え、静寂が訪れる。
ユウキは空を見上げた。
「……ありがとう、エラー。」
そして呟く。
「いつか――本当に、越えてみせる。」




