八世界の王
――その日、世界が“震えた”。
空が裂け、大地が軋み、
時間が逆流し、空間が悲鳴を上げる。
誰も理解できない。
なぜかも、何が起きているのかも。
だが、確かに“何か”が来ていた。
その存在は、神々の創った因果を嘲笑うかのように、
八重の光輪を背負って、虚空より現れた。
――八世界の王。
無数にある並行世界のうち、八つの世界を滅ぼし、
その覇権を“遊戯”のように奪い取った存在。
彼は創造主ではなく、破壊神でもない。
ただ――“戦うこと”だけを愉しむ、永劫の放浪者。
崩壊した〈超越世界〉の残骸。
そこに、ひとりの男が立っていた。
ワクラ・ユウキ。
神も魔王も超えた“理想の勇者”は、
いまや灰となり、記憶も欠け落ちている。
しかし――魂だけは、まだ燃えていた。
そんな彼の前に、静かに光が降り立つ。
「やぁ。」
その声は軽かった。
まるで、散歩の途中で出会ったかのように。
ユウキが振り向くと、そこに男が立っていた。
黒衣に身を包み、八重の光輪を背に浮かべる。
瞳は金と赤の二重螺旋。
笑みを浮かべたその表情は、人間的で――恐ろしく“楽しそう”だった。
「……お前、何者だ?」
男は指を鳴らす。
瞬間、空間がひび割れ、八つの異なる世界の光景が現れた。
ひとつは天が燃え、
ひとつは氷に覆われ、
ひとつは剣と魔法が交差し、
ひとつは科学が神を殺す未来世界――
「俺か? 名乗るほどのもんでもないが……」
男は口元を歪め、愉悦の笑みを浮かべる。
「この八つの世界を征した王――八世界の王。」
「……王、だと?」
ユウキの問いに、エラーは軽く肩をすくめた。
「王って言ってもなぁ、俺は支配なんか興味ねぇ。
退屈が嫌いなだけだ。」
「退屈……?」
「そう。
この“無限の世界”ってやつは、どれも似たり寄ったりなんだ。
神がいて、人間がいて、誰かが勇者になって、
誰かが“正義”を名乗って死ぬ。
何万回も見てきた。」
彼の瞳が、楽しげに光る。
「でもな――たまにいるんだよ。
“面白ぇ奴”が。
この俺をワクワクさせてくれる奴が。」
エラーは笑う。
狂気と純粋が入り混じったその笑顔は、まるで子供のようだった。
「お前も、そうだったんだよ――ワクラ・ユウキ。」
ユウキの心臓が強く跳ねた。
「俺を……知っているのか。」
「当たり前だろ?
お前の世界、俺が“観てた”んだ。
魔王を倒して、神を超えて、理想を掴んだ。
いやぁ、あれは最高だったな。」
その声音は、賞賛でもあり――捕食者のそれでもあった。
エラーは空中に八つの球体を浮かべる。
それぞれが、別の世界の断片。
彼が征した“八世界”そのものだった。
「退屈なんだ、ユウキ。
だから――“遊ぼうぜ”。」
ユウキが剣を構える。
「……遊びって言葉にしちゃ、世界を壊すには軽すぎるだろ。」
「違う違う。壊すだけじゃつまらねぇ。
勝つ奴を、俺はこの手で祝福する。
“次の王”としてな。」
「つまり……試すってことか。」
「そういうこと。」
エラーが指を鳴らす。
瞬間、ユウキの足元に転送陣が広がる。
「お前の力――“超越世界”。
あれは、神の理想を越えた力だったな。
だが、俺の“戦い”に耐えられるか?」
ユウキの周囲に、八重の幻影が立ち上がる。
八つのユウキ。
八つの異なる“未来の可能性”。
エラーが嗤う。
「お前自身と戦え。
それが“王”への第一試練だ。」
剣が抜かれた。
八人のユウキが、同時に構える。
それぞれが異なる力を放つ。
「炎の未来」
「氷の未来」
「神を討つ未来」
「魔に堕ちた未来」
――すべてが、“あり得た自分”たち。
エラーが玉座のように空間に座り、笑いながら呟く。
「退屈しねぇ……!
さぁ、踊れ。超越者。
俺を楽しませろ――この“八世界の舞台”で!」
そして、世界が裂けた。
八つの現実が重なり、ひとつの“戦場”を形成する。
ユウキは剣を構え、低く呟く。
「上等だ……エラー。
お前が望むなら、全力で見せてやるよ。
“超越世界”の、本当の意味を!」
光と闇が交差し、無数の世界が同時に震えた。
この瞬間、すべての次元が――戦場と化した。




