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トランセンデンス・リアライザー〜理想ノ世界への旅路〜  作者: 由良神零
第一章魔王討伐編

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11/17

〈虚骸の記憶〉 ― 神々の嘘と勇者の終焉

 ――虚骸の王ベルゼナが消滅した後。

 ユウキの周囲は、白い霧に包まれていた。

 時間も空間も意味を失い、ただ意識だけが漂っている。

 (……ここは、どこだ?)

 手も足もない。

 ただ思考だけが、静かに浮かんでいる。

 すると、霧の中から声がした。

 ――《これが、お前の“前任者”の記憶だ。》

 光が走り、映像が流れ込んでくる。

 まるで夢のように――いや、現実そのもののように鮮明だった。

■ 一:かつての異世界転生者 ― ベルゼナ・クロウ

 まだ若かった。

 名前も“ベルゼナ”ではなかった。

 彼の本当の名は、黒羽くろはナオト。

 日本の大学に通っていた普通の青年。

 交通事故で命を落とし、次に目を覚ました時には、白い空間にいた。

 そこで出会ったのが、“神”を名乗る存在。

 「我はこの世界の創造主、イデアル。

  お前を〈転生勇者〉として新世界に遣わす。

  使命は一つ――“理想郷”を築くことだ。」

 ナオトは、何も疑わなかった。

 異世界転生。チート能力。勇者。

 子供の頃に憧れたすべてが現実となったのだから。

 授けられた権能は――

 〈神授世界ディヴィナ・リアライズ〉。

 “神の理想を現実にする”能力。

 そして、彼は新たな世界に降り立った。

■ 二:理想郷の崩壊

 最初は、すべてが順調だった。

 ナオトは多くの人を救い、魔族を討ち、神殿からは“救世主”と呼ばれた。

 世界は平和に近づいていた。

 だが、ある日を境に、彼の心は崩れ始める。

 ある村を魔族の襲撃から救った翌日――

 彼はその村の焼け跡を見た。

 村人たちは、神殿騎士に殺されていた。

 「魔族に汚染された者は“理想郷”にふさわしくない」

 それが神の命令だった。

 彼の“理想”が、神によって歪められていた。

 〈神授世界〉の力は、神の望む“理想”しか現実化できない。

 神が「不要」と決めた命は、救えない。

 「……これが、理想郷か。」

 その日から、ナオトは神を信じるのをやめた。

 そして彼は“理想”を捨て、“虚無”を受け入れた。

■ 三:魔王との契約

 彼が神を拒絶したとき、暗闇が声をかけた。

 「我は、“魔王”。

  神々に切り捨てられた理想の残滓。

  お前の絶望、よくわかる。」

 ナオトは微笑んだ。

 「……なら、俺の理想の“反対”をくれてやる。」

 魔王は応えた。

 「では、お前に名を与えよう。

  虚無の骸を意味する名――〈ベルゼナ〉。」

 その瞬間、神の加護が剥がれ落ち、黒い霧が彼の身体を包んだ。

 神の勇者は死に、虚骸の王が生まれた。

■ 四:虚骸の王の真実

 ユウキの意識が震える。

 ベルゼナの記憶は、途切れることなく流れ続けた。

 神の世界の上層に存在する“転生システム”。

 それは、神々が異世界の魂を呼び寄せ、“理想の実験”を繰り返す装置だった。

 転生者は、神々にとって“理想の器”――

 神の意志を人間世界に浸透させるための“媒介”にすぎなかった。

 そして、失敗した転生者は、“虚骸”として廃棄される。

 だがその一部が、世界の裏側で形を持った。

 それが――〈五大魔帝〉の原型。

 ベルゼナが呟く。

 《俺たちは、神が捨てた理想の亡霊なんだ。》

■ 五:ベルゼナの願い

 映像の最後。

 ベルゼナは荒れ果てた世界の中、ひとりの青年を見つめていた。

 まだ見ぬ誰か――それが、ユウキだった。

 《もし、いつかまた“転生者”が現れたら――》

 《願わくば、俺のように絶望に沈まず、理想を超えてほしい。》

 《俺の終わりは、始まりであってほしい。》

 その言葉と共に、記憶は途切れた。

 ユウキは、静かに目を開けた。

 頬を伝う涙が、熱い。

 「ベルゼナ……お前は、最初から……俺を待ってたんだな。」

 彼の心の奥で、〈超越世界〉の力が静かに波打つ。

 理想も絶望も、すべてを繋ぐ光がそこにあった。

 リリアの声が遠くから届く。

 「ユウキ……? どうしたの?」

 ユウキはゆっくり立ち上がり、微笑んだ。

 「行こう、リリア。

  ベルゼナが残した道の先に――魔王がいる。」

 そして、彼は歩き出した。

 “理想”と“虚無”の狭間を越えて。

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