運命を超える者
――眩しい光が、全てを包み込んだ。
気づけば、ワクラ・ユウキは真白な空間の中に立っていた。
記憶の断片が、ゆらりと浮かんでは消える。交通事故の音、悲鳴、そして――静寂。
「……俺、死んだのか。」
呟いた声が、虚空に吸い込まれていく。
その瞬間、世界に響くような声がユウキの頭の中に直接届いた。
『汝、選ばれし魂よ。新たなる世界にて、己が理想を証明せよ。』
「誰だ……? 理想を、証明……?」
『授けよう、権能《超越世界》を。
その力、想い描く未来を現実に繋ぐ力。』
ユウキの胸の奥で、熱が燃え上がった。
次の瞬間、光が弾け、視界が反転する。
目を開けると、そこは緑豊かな大地だった。
青空の下、風が頬を撫でる。遠くに城壁都市が見え、人々の声が響いていた。
「……本当に、異世界転生ってやつか。」
手を握ると、確かに力が宿っているのを感じる。
だが、その力の正体は曖昧だった。
心の奥で思う――“超越世界”とは何か。
試しに、ユウキは目を閉じ、心の中で一つの理想を思い描いた。
――この世界で、生きるための道を示せ。
刹那、足元の大地が淡く光り、小さな光の線が道のように伸びていく。
まるで未来へと導くかのように。
「これが……“超越世界”の力か。」
その時、空を覆うように暗雲が広がった。
突如として鳴り響く轟音、地平線の彼方に現れる巨大な影。
黒い翼を持ち、空を裂くように飛ぶ存在――魔族。
そして人々の叫び声が、風に乗って届く。
「魔族が――来たぞ!!」
ユウキは無意識に駆け出していた。
光の道が彼を導く。
街の門前では、すでに戦士たちが必死に抗っていた。
だが相手は圧倒的だった。闇の魔力を纏うその存在――魔帝の一角、「紅翼のアスモデウス」。
「人間ごときが、我ら魔帝に抗うか……。」
その圧力に誰もが膝を折る。
ユウキの心にも恐怖が走った。
だが同時に、胸の奥で何かが囁く。
――“理想の未来を思い描け”。
ユウキは拳を握り、目を閉じた。
「俺は……負けない。この世界を、守りたい。」
次の瞬間、彼の身体を光が包み、周囲の時間が止まった。
世界が静止し、ただ一人、ユウキだけが動ける。
光の中で、道が見える――“勝利への道”。
彼はその道を、一歩ずつ進む。
次に目を開けた時、彼の手には光の刃が握られていた。
「行くぞ――“超越世界”、発動!」
閃光が走り、世界が再び動き出す。
ユウキの斬撃が、紅翼のアスモデウスの胸を貫いた。
戦いの後、彼は地に膝をつく。
息は荒く、視界が滲む。
だが確かに、道は繋がった。
――魔王討伐への、第一歩。
その先に待つのは、五大魔帝と魔王。
それぞれが、世界の理に干渉するほどの強者たち。
だがユウキは迷わない。
「この力で、理想の未来を創る。
たとえ、世界のすべてを敵に回しても。」




