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第8話 ラドルク

「灯火」の魔法に成功したのがよほど嬉しかったのだろう。

おぼっちゃまはいま感情が爆発中で、どのお稽古にもいい影響が出ている。

魔法の練習はもちろん、他の学びにも意欲的に取り組むようになった。


本日も朝ご飯を食べたら、すぐにお庭へゴー。

お供はもちろん転生少年よ。


「えいっ!やあっ!」


勢いよく飛び込んでくる。

まだ腕力は足りず打ち込みも軽いが、その気迫は堂々たるものだ。


「若様、気合が入っていますね」

「うん!近衛騎士になるんだ!がんばる!」


ぼっちゃまの目標が「とうさまみたいな騎士」から、騎士の中から選抜されるエリート部隊の『近衛騎士隊』への入隊に変わっていた。

騎士としての技量だけでなく、家柄、素行、そして魔法に優れたものだけが選ばれる、騎士の中の騎士が近衛騎士だ。

ぼっちゃまなら、魔法が使えれば、その夢がかなう可能性はある。

目標は高く。

素晴らしいです。


おぼっちゃまとともに魔法能力が発現したことになっている僕も、目標設定の変更を打診されていて、子爵には真剣に騎士団への入団を検討するように言われている。



そんなセドリック少年のステータス、どん。


名前:セドリック・マルタン

性別:男

年齢:13歳(+1)

職業:見習い従士

状態:健康


位階:1


能力値

HP:18/18(+11)

MP:15/15(+3)

STR:6(+1)

VIT:5(+1)

AGI:7(+1)

DEX:8(+1)

INT:18

LUK:18

CHA:18


スキル(戦闘)

魔法:20(レジェエンド)

神聖魔法:0(素人)

精霊:20(レジェエンド)

格闘:3(初級者)

剣術:6(中級者)

槍術:3(+1)(初級者)

弓術:2(+1)(素人)


スキル(非戦闘)

鑑定:20(レジェエンド)

商売:11(上級者)

政治:14(専門家)

祈り:1(+1)(素人)

医術:14(専門家)

動物:5(+1)(初級者)

料理:1(素人)

建築:20(レジェエンド)

栽培:12(上級者)

採掘:0(素人)

工芸:20(レジェエンド)

芸術:20(レジェエンド)

研究:20(レジェエンド)

古代語:20(レジェエンド)

外国語:12(上級者)

社交:8(中級者)


背が少し伸びて体が大きくなったので、それに合わせてHPやらなにやらステータスが上がってきたよ。

このまま体を鍛えつつ、体格もよくなれば騎士でやっていけるくらいのHPは確保できるかもしれないんだけど。

騎士。

騎士ねえ。


なんといっても戦乱の時代だからね。

危ないことはしたくないんですよ。

後方勤務で頑張りたいんです。


「セドリック、騎士は嫌か?」

と聞くのは子爵様。火の玉ストレート。


はい、嫌です。と即答するほど愚かではないけど、嫌ではないですと噓を言うのもまた違う。


「わたくしは体がさほど強くないのもあるのですが、計算などが得意なので文官の仕事で貢献できればと考えております」


「うーむ。教師たちによれば、お前は物覚えもよく、機転もきくそうだな。その上、魔法もできるのであれば魔導士として仕官するという道も選べるかもしれない。だが、この国の周りは敵国ばかりだ。体を張って国を守る戦士が大いに不足しているのだ。ヒムエスとともに騎士となってくれれば嬉しいのだがなあ」


すみませんね、子爵様。

嫌なんですよ。今世こそは何とか穏やかに暮らしたいんですよ。

出来れば後方勤務で。


「考えておきます・・・」


「頼むぞ。セドリック。そなたには期待している」


「はっ、ありがたきお言葉」


「そうだ、そなたの兄が巡回遠征から戻ってきているぞ。顔を見てきてはどうだ?」


「ラドルク兄がですか」


「うむ。北方の巡回が終わって昨日から城に戻ってきているはずだ。手土産を用意するから持って行ってはどうだ」


「ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます!」


ラドルク兄は十歳上の二十三歳。

父上によく似て真面目なイケメンだ。

王の直属の騎士として騎士団で勤務中。未婚。


僕が王都に来たときは、ちょうど国内の巡回遠征に出かけていてお留守でした。

帰ってきたのか。


数日後、午後にお休みをもらうと、子爵が準備してくれたお土産をもってお城にある騎士団の詰め所へレッツゴー。


先方へ訪問予定の連絡は入れてあるので、「ラドルク・マルタンに面会に来た弟のセドリックです」と門番に告げてお城の奥へと進む。

前世で来た時と建物の配置がちょっと配置が変わってるような気がする。

いまいち場所がわからないと思いつつ先へ進むと、騎士に声をかけられたので、訪問のことを告げると、親切に兄の元まで案内してくれるという。


イケメン騎士が「よく来たな、兄に面会とは感心だ。詰所はこっちだぞ、案内しよう」と優しく言ってくれてありがたかったが、その後、彼に肩を抱くようにされて歩いていくのは恥ずかしかったし、そういうアレではないかと疑ってしまって気が気じゃなかった。


しばらく進むと兄発見。

向こうも気づいたようで片手を上げてこっちへ来る。


「よう、セドリック、よく来たな!」


「兄上!お久しぶりです」


「・・・ところで、おいゲスラー、なんでお前が一緒にいるんだ。俺の弟の肩を抱くな、離れろ」


「いや、なに、案内しただけだろうに」


「お前は危ないからな。セドリック。こいつには近づかないようにしろよ。見境のない男だからな」


「おいおい、ラドルク、ずいぶんな言いようではないか」


「事実だろうが。セドリック、気を付けるんだぞ。ゲスラー、案内ありがとう、もう行ってくれ」


「兄弟水入らずってやつだな。実にいいな」


「そうなんだが、お前に言われるとなんだか品がないような気がして不愉快だ。さあ!さっさとどっか行け!」


なにやら冗談のダシに使われているようだが、笑いながらゲスラーという名の騎士が去ると、ラドルクは改めて抱擁してきた。


「ずいぶん久しぶりだな、セディ、いくつになったんだ?」


「十三歳です、兄上」


「だいぶ大きくなったが、まだまだ細いな」


「はい、もっと大きくなりたいのですが」


「俺は十五くらいに背がぐっと伸びたな。お前ぐらいの年のころは同じくらいだったと思うぞ。焦らずとも大丈夫だ」


「そうだといいんですが。兄上、これは手土産です。子爵が持たせてくれました」


「ほう!酒と干果か。ありがたいなあ。喜んで頂戴しよう。子爵によろしく伝えてくれよ」


「はい!」


「子爵にはよくしてもらっているようだな」


などと、旧交をあためつついろいろと話をした。

近況報告から話は進み、愚弟の将来の話へと進む。


「・・・すると、今のところ騎士になるつもりはないのか」


「はい。あまり体が強くないので、得意な計算を生かして文官になろうかと」


「魔法も使えるようになったのに?」


「ええ、まあ・・・」


「まあ、お前の道だからな。だが、俺の希望を言わせてもらうなら、やはり、お前には騎士になってもらいたいんだよ」


「どうしてですか?」


ラドルクはぐっと顔を近づけてささやき声となった。


「実はな、周辺国がきな臭いんだ」


「なにかあるのですか?」


「いや、まだ無い。ないが、なにやら動きがあるんだ」


「と、いいますと・・・聞いてもいいのですか」


「まだ噂の域だがな。オークとゴブリンが兵を集めてるようなんだ」


「それはいつものことではないのですか?」


「どうも、もうちょっと本格的に集めているようなんだ。エルフ達からの情報らしいがな」


「エルフですか。エルフは信用できるのですか?八十年前までは、オークやゴブリンと連合して人間を攻めていたではありませんか」


「うーん、今は信頼できる、というのが首脳陣の意見だ。だが俺達はそうは思っていない」


「どういうことですか?」


「エルフが、人間を守るように動いているのは、それはそうなんだが、相変わらず人間族を見下してやがる。本当に味方なのか怪しいんだ」


「何か目的があるとか?」


「それだよ。どうも何か探しているらしいんだ」


「探し物ですか?」


「物ではなくて人間を探しているらしい」


「人間?」


「なんだと思う?」


「なんでしょうか、想像もつきません」


「どうも、大魔導士ヒロキを探しているらしいんだ」


昔、大事な出張の集合場所の羽田と成田を間違えて到着した時くらい衝撃を受けた。

まじかよ。


「大魔導士ヒロキはずっと昔に死んだんじゃないんですか?」


「それがどうも、生まれ変わっているとかなんとか」


「そんなまさか」


「どうも、そう信じているらしい。伝説の大魔導士様がもしも人間に生まれ変わっている場合、まだ見つからないうちに死なれては困るから、見つかるまで人間が滅びないように味方をしているのではないか、そういう風に言うやつがいるんだ。あくまでも噂だ。言いふらさないようにな」


「生まれ変わりなんて・・・信じがたいですが」


「真偽はわからん。だが、エルフだけでなくゴブリンやオーク、ドワーフもノームも様子がおかしいのは事実だ。国境へ出てくる部隊も数だけじゃなく、体の大きいエリートが増えてきて質も上がっている。実際、今回の巡回でも何度か交戦したんだ」


「生まれ変わりを探してるんでしょうか?」


「オークたちはわからんが、エルフ達はそうかもしれない。最近、王都にもエルフの姿が増えたのはわかるか?」


「たしかに。でも、そういう理由なんでしょうか。商売の交流が増えたのかと思ってました」


「わからん、わからんが、国境ではオークやゴブリン共の出没が増えて軍の出撃が増えてるんだ。つまり、俺が死ぬ確率が増えてるってことだ」


「・・・」


「いつどうなるかわからんのだ。セディ。俺が子供を残さずに死んだらお前が領地の跡継ぎなんだ。好き嫌いは置いといて、領民のために騎士の修行だけはしておいて欲しいんだよ」


「兄上・・・」


「そんな顔するなって、もしもの話だ。俺はそう簡単には死なない。だがもしもの時には、お前に頼らなきゃならんかもしれないってことさ」


「そうなって欲しくないです」


「ははっ、そりゃあそうさ。俺だって死にたくない。だが、俺が結婚して子供ができるまではお前が俺の次の跡継ぎなのは変わらん。頼むぞ」


「は、はい・・・」


「あと、お前も早く結婚して子供を作れば、その子を後継にしてもいいんだからな」


「えっ!」


「俺達が死んでもどっちかの子がいれば、まだ親父も若いから、何とかなるだろうさ。だから、騎士の訓練か、子づくりか、その両方ともか」


「・・・兄上」


「もしもの話だ。戦争なんて起きないかもしれない。でも備えはしないといけないだろ。俺も早く結婚しなきゃならんな。まあ考えといてくれよ」





騎士団の詰め所を後にしたとき、色々な話を聞いたせいかとても疲れを感じてしまった。

それにしても、兄は真面目だ。真面目に家のことだけでなく、領民やみんなのことを考えて一生懸命だ。


それに比べて、僕は人生に対して真剣さが薄いようだ。


兄は二十三歳。

前世から続く僕の魂の年齢は二百歳以上。


それなのにそれなのに、自分が幼く感じてしまった。

誤字などありましたらご指摘ください。

つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです

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