第6話 魔法で解決
おあつらえ向きに、今晩はちょうど満月の日だ。
夢を見るにはちょうど良い夜ですよ。
シナリオはできている~。
それでは奥様を月の女神の神官に治療してもらう作戦スタート。
真夜中、ベッドを抜け出す。
目指すはぼっちゃまの寝室だ。
念のため自分のステータス確認、どん。
名前:セドリック・マルタン
性別:男
年齢:12歳
職業:見習い従士
状態:健康
位階:1
能力値
HP:7/7
MP:6/6
MPは6しかない。
ミスは許されないぜ。
まずは第一位階の魔法「影隠」を使って気配を小さくする。消費MPは1。
陰に潜み気配を消し、存在を感じにくくする、暗闇では特に効果的な魔法。
なかなかコスパのいい魔法の一つだ。
気配を消した状態で、すすっと屋敷の廊下を進むと子爵たちご家族が住むあたりについた。
今晩の当直はマークぱいせん。
真面目だからちゃんと子爵の部屋の前で見張りをしている。
今回用事があるのはその先の奥様の部屋のさらに先、おぼっちゃまの部屋だ。
気配を消したとはいえ、うっかり物音をたてたりすると気づかれてしまうこともある。
抜きあし、差しあし、すすすのすっと。
そしてまずはマークぱいせんを処理。
つつつっと、音をたてず暗闇の中から近寄る。
睡眠の魔法だ。
睡眠の魔法は第一位階にしては絶大な効果をもつ最強コスパの大便利魔法。
大便じゃないよ。大・便利魔法。わざわざ誤解を生む表現する必要なかったな。
これをぱいせんにおみまい。えい。
魔法スキル20の驚異の技術力。
魔法抵抗できず、睡眠にかかったぱいせんが倒れこむのをすっと抱きかかえ、音をたてないようにゆっくりと床に下ろし、背中を壁にたてかける。
これも消費は1。
コスパいいよなー。
そして今回の目的地、おぼっちゃまのお部屋の前に到着。
お部屋をのドアを音が立たないよう、静かに開ける。
寝ているお坊ちゃまに近づき、そっと起こす。
ゆさゆさゆさゆさ。
あれ、起きないな。
ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。
くっ。
子供って一生起きないときあるよな。
ゆささささささ。
起きて!ぼっちゃん!
「うーん」
起きた。
目をこすりながら上半身を起こすぼっちゃん。
いまだ。
『起きなさい、ヒムエス。目を覚ますのです』
「うーん、あっ。あなた誰?」
第三位階の「虚影」の魔法だ。
対象者に偽りの姿と音を聞かせることができる。
普通の魔法使いはその存在すら知らないちょっとレアな魔法。
まあ、とっても悪用しやすい魔法だから、門外不出の秘伝にしている魔法の一種だろうね。
第三位階の魔法を第一位階の僕が使うに当たっては、練習をした。
自分の位階以上の位階の魔法は失敗確率が跳ね上がるんだけど、魔法のスキルレベル20の補正が効いたのか、第三位階の魔法は体感、八割くらいの確率で使用することができた。
成功してよかったよ。
失敗したらここで撤退だった。
さて、続きだ。
『わたくしは月の女神のセレーネーの妹、アステリアです』
美しい女性の幻影を見せて、話しかける。
第三位階の魔法だから姿も声も高品質だ。
「アステリアさま?」
『ヒムエス・ルドナタよ、おまえが、母の病気が治るようにたくさん祈ったのでやってきました』
「ほんとうですか!?どうかおかあさまを治してください!おねがいします!」
『治すには、月の祈りが必要です。だからおまえはおまえの父とともに月の神殿に行き、神官に祈りを捧げるようにお願いするのです』
「月の神殿ですか」
『そうです、月の女神セレーネーの神官でなくては、おまえの母を救うことはできません。必ず月の神殿に行くのです、いいですね』
「はい!月の神殿に行きます!」
『明日の朝、一番におまえの父に言うのですよ』
と、いったところで睡眠の魔法をポン。消費MP1。
「ふぁっ・・・」
あっという間にベッドの上に倒れこむぼっちゃま。
なんか姿勢悪いな。
寝違えそうだけど直してる暇はない。ごめんね。
外のぱいせんが起きちゃうと面倒だからさ。
これで「虚影」劇場は終幕。
撤収に入ります。
これで消費MP3。
ギリギリ予算内に収まった。
魔法スキルが低かったらヤバかったな。
ぼっちゃまのお部屋をすっと出て、壁にもたれかかるぱいせんをそのままにお部屋へ帰還です。
ごめんね、ぱいせんも。
サボってないのにサボらせちゃってさ。
怒られちゃうから早めに起きてね。
ちゃんとうまくいくといいな。
~~~
ちゅんちゅんちゅん
翌朝のルドナタ家は大騒ぎ。
おぼっちゃまは目覚めとともに父上に突撃を敢行したらしく、子爵は朝もはよから月の神殿へ行こうとせがまれていたようだ。
この世界では、夢のお告げというものはよくあるもの。
時に重要な示唆を行うこともあると認知されているので、子爵も息子の言葉を無下にはしなかった。
結局、愛する息子の言う通り、すぐに馬車を出して月の神殿へ向かい、そのまま強引に頼み込んで治癒の神官を連れて帰ってきた。
後で聞いたところによると、高位の貴族とはいえ、特に強い縁のない子爵の言葉に従って神官を派遣したのは、子息が見たという夢のお告げを行ったのはアステリアだったからだそうだ。
月の女神セレーネーが敬虔なる信徒に夢でお告げを授ける際、自らではなく妹アステリアを遣わすという事実は、神官や神殿の関係者の間においてさえ秘められた秘密。だったはず。
今回、おぼっちゃまが月の神殿で言ったのは「月の女神さまが夢に出た」ではなく「アステリアさまからのお告げだった」とうことで、お告げに信憑性を与え、神官を動かすきっかけとなったのだろう。
もちろん知っていたさ。ふふっ。
オレを誰だと思ってんだ。
連れてこられた月の神官は、屋敷につくとすぐに奥様を診察し、『大きな病で難しいが、治すことができる』と確約した。
それから数日のうちに月の神殿から数人の高位神官がやってきて、そこそこに大掛かりな祈りの儀式を行うと、無事、奥様の病は快癒した。
すげーよな。
白血病も一発完治なんだぜ。
異世界マジックおそるべし。
それを大いに喜んだ子爵は、月の神殿に多額の喜捨をおこなった。
そして、みんな大好き優しい奥様は元気になり、屋敷に明るさが戻ってきた。
よかったよかった。
と、よいことばかりと思いきや、神様から夢のお告げを受けたとされるヒムエスおぼっちゃまは魔法の才能があるのでは?ということになり、魔法使いの家庭教師がつくことになったのだ。
そうなると、おぼっちゃまのご指名で、一緒に先生のお話を聞くことが多い元大魔導士の転生少年は、もう知っている、クソつまらん話を延々と聞かされることが増えてしまうのであった。
ひん。
誤字などありましたらご指摘ください。
つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。




