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第33話 リシェの魔法

僕はリシェが書き込んだ手帳のページをもう一度眺めた。

呪文だけがずらっと並んでいる。

もちろん、全部わかる。

しかし、わかるということを知られてはいけない。

うーん、めんどくさっ。


さて、これからどうしたもんかな。


僕はふと思った疑問を口にした。


「そういえば、こういう依頼って、よくあるんですか?」


「依頼?」

リシェが少し首をかしげた。


「ええ、近衛騎士隊が魔法を募集するっていう話ですけど」


僕がそう続けると、リシェは少し考えてから答えた。


「うーん……どうなんだろう。私、プペシュ学舎に来たばかりだから、そういうのはよくわからないのよ」


そうだった。


リシェは聖教国から来たばかりだって言ってたな。

ならば、この学舎の事情なんて、まだほとんど知らないはずだ。


「なんだ、知らないのか?」


なんだよチャラ男。

お前には聞いてないぞ。


「この件は紫苑騎士隊の影響だろ」


「紫苑騎士隊?」


エドは頷く。


「ああ。今、騎士の間じゃ有名な話だぞ」


リシェが首をかしげる。


「どんな話?知らないわ。そもそも紫苑騎士隊ってなに?」


「ああ、そこからか」


エドはそう言って、ベンチの背にもたれた。


「紫苑騎士隊ってのは、王国の女騎士だけが入れる最強の部隊で、王国騎士団の中では、同じく最強とされる近衛騎士隊と何かと比較されるんだ。どっちも最強って言って張り合ってるからな。んで、先月選抜試験があって、紫苑騎士隊に新しい女騎士が入ったんだ」


僕は少しだけ嫌な予感がした。


「その娘ってのがまだ十五歳なのに、魔法剣を使って、他の騎士たちをばたばた倒して、選抜試験史上、最年少合格」


……なんと。


エドは面白そうに笑った。


「その選抜試験で彼女が倒した騎士の中に、さる高位貴族の娘がいて、それが闘気法を身につけた、騎士の中でも指折りの強さを持っていたヤツだったらしいんだよね」


「まあ!」


「その女騎士は、騎士隊で修業を積んだわけでもなく、素質と魔法の力で勝ち上がったらしいんだ。んで、使った魔法ってのが騎士がよく使う火や水なんかの攻撃魔法じゃなかったんだってさ」


…………。


「剣に光を宿す魔法剣だってさ。しかも分身魔法まで使ったらしい」


リシェが目を丸くする。


「分身魔法?」


「そうそう」


使ってる魔法に心当たりがある。

あと、身の上も当てはまっているような気がする。


僕は黙って聞いていたけど動揺してしまった。


それはたぶん……ルマリエッタ様の話じゃないかしら。


いや、まだだ。

ちがう誰かかもしれない!可能性をあきらめるな!


「その子、弾き飛ばされた剣を、魔法で手元にびゅん!って引き寄せて危機を脱したらしい。そんなことが出来るのは闘気法の熟練者でもないと難しいのに、魔法で簡単にやったらしいんだよ」


完全に引き寄せの魔法ですね。

ルマリエッタ様です。

ありがとうございました。


なんだよ、あの子。教えた魔法を全部出し切ったのか。

それはそれで嬉しいんだけど、いや、まあ。

はあ。

目立ってるなあ。


というか、光の剣と幻惑魔法はともかくとして、引き寄せも話題になっちゃうんだ。まじかよ。

今の時代にないの?引き寄せで目立っちゃうの?引き寄せだよ?なんで?初歩じゃん。





それに、あの幻惑魔法って、みんな使ってる一般的な魔法じゃなかったの?


……あれ?

これはもしや、僕また何かやっちゃいましたをやっちゃったのかな……


「それで、その女騎士が王族とか隊長に面と向かって提言したらしいんだ」


エドは少し声を低くした。

「今の魔法は攻撃魔法に偏りすぎてるってな。もっと役に立つ魔法を覚えたほうがいいって」


「よくぞ言ったわ。確かにそう思う。みんな馬鹿の一つ覚えみたいに攻撃魔法ばかり覚えてるのは確かにそう」


リシェは喰いつくようにそう言った。

現在の魔法学の状況に思うところがあるらしい。


「それはすごいですね」


僕は驚いた顔で当たり障りのないコメントをしたけど、内心はびっくりしちゃってるよ。

まじかよ。

あの礼儀正しくて優しい美少女ルマリエッタちゃんがそんな言い方するとは思えないんだけど。

何か誤解があるんじゃないかなあ?


エドは続けた。


「で、それがきっかけで騎士たちの間でさ、今までの魔法を見直したほうがいいんじゃないかって話になってたらしいんだけど、今回の依頼ってまさにこれじゃない?」


「なるほど……そういうことね」


リシェが小さく頷く。


「それでこの依頼の文言、『近衛騎士隊にふさわしい魔法』なんて表現にしたのね。そうなると、彼らが欲しがっているのは、これまでの攻撃一辺倒だった魔法とは違う視点の魔法を求めているんでしょうね」


攻撃魔法ではなくて、もっと実用的な魔法。


リシェがふと気づいたように言った。


「でも、その話、どこで聞いたの?」


エドはあっさり答えた。


「騎士の知り合いから」


「騎士?」


「授業とかで一緒になるとき、そういう噂話とか教えてくれるじゃん」


そう言って、逆に不思議そうな顔をした。


……なるほど。

こいつは陽キャだ。

人と話すのがうまいし、誰とでもすぐ仲良くなる。

そういうやつなら、騎士から噂話を聞くこともあるのかもしれない。


僕みたいな陰の者は知らない他人との交流なんてないからな。

羨ましくなんてないけど、こういう風に役に立つのは間違いない。


「ありがとう、エド。とても参考になったわ」


「いいえ、どういたしまして。お役に立てて嬉しいですよ、お嬢さん」


そう言ってエドはにっこり笑って決め顔。

こいつ。


「お嬢さんはやめてね!ちゃんと先生って呼びなさい!」


「はい、せんせい」


こういうやり取りができるコミュ強者が正直羨ましい。


でもいいんだ、今世は静かに生きていくんだから、関係ないさ。

でも、地方役人はよくないって教えられたからなあ。

地方は荒れてて小競り合いや盗賊団がいっぱいいるとかなんとか。

そうなると、地方の役人は安全でも何でもないな、確かに。ブラック職場になりそうな気がする。

だめかー。

じゃあ、どうしよう。

穏やかで幸せな生活はどこにあるんだろうか。

教師なんかどうだろうか?

そうか、教師もいいな。貴族の子弟に勉強や魔法を教えたり、ぶつぶつぶつぶつ…………


「……ねえ、セディ、聞いてる?」


「え、あ、聞いてます!どの魔法にするかですよね。そもそも、その手帳にどんな魔法が書いてるんですか?」


僕は手帳に目を落とした。

この中から、騎士に役立つ魔法を探すわけか。


~~~


講座の教室に移動して近衛騎士隊の依頼に提案する魔法を検討することにした。

どうでもいいけど、この教室遠すぎだよ。


「なるべくいい魔法の呪文を持ってこようと思ってたんだけど、時間が無かったから……。もっとたくさん持ってこれればよかったんだけど」

そう言ってリシェに、手帳に書いて持ってきた魔法を説明してもらった。

その内、半分は書いてきただけで、まだ習得していないそうだ。


火の矢を放つ魔法

雷を放つ魔法

衝撃を放つ魔法

氷の破片をばらまく魔法

小石を高速射出する魔法

空気圧の塊を飛ばして敵を吹き飛ばす魔法

とても熱い小さな火を起こす魔法

少量の水の汚れや毒を取り除く魔法

濡れた衣服や物を乾かす魔法

身体や衣服の汚れを落とす魔法

寒冷環境で体温を保つ魔法

小さな光の精霊を呼び出す魔法

虫や小動物を近づけない結界を作る魔法

体を軽くして跳躍や移動を助ける魔法

足音や装備の音を抑える魔法

暗闇でもよく見える魔法

疲労の進行を遅らせる魔法

周囲の立体構造を感知する魔法

魔力の流れや結界を視認できる魔法

自分や物を浮遊させる魔法


おおっ!


なかなかいいの持ってきてるじゃん!

誤字などありましたらご指摘ください。

つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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