第2話 旅立ち
「えっ、将来?」
「そうだ、セディ。おまえももう十二歳なんだ。何かなりたい職はあるのか?」
というのは父上。
この世界は思ったより、早めに進路を決めなくてはならない模様。
大学に行ってネトゲ廃人とかは無理ぽいかー。
王家直参の騎士である父上様は、今は王宮での仕事を長男である兄上に譲って、領地で政務を行って暮らしております。
そして長男の兄ラドルクはすでに騎士の叙任を受けて王都の騎士団でお仕事です。
仕事内容は訓練、パトロール、警備、警護などなど。
年の離れた弟のぼくちんもそろそろお年頃ということで、おまっ仕事どーすんのって話だよね。
普通に考えると、兄上が事故った場合に備えて、同じく騎士を目指して修業を始めるってのもあるんだろうけど、近所でも賢いと評判の次男坊セディ君なので、父上様はわざわざ僕なんかの希望を聞いてくれたんだろうね。
優しーね。
おうちのことを考えるなら、もちろん騎士なんだろうね。
騎士。
騎士か、うーん、騎士かあ。
騎士ねぇ。
われらが住まうローランド王国は、東側にオーク族の国があって、そこがたびたび侵攻してくるのよね。
そいつらからお国を守る東の砦は死亡事故多発の激ヤバ勤務地。
王の直参の騎士といえども、上司に嫌われてその砦に左遷されたりすれば事故確率アップよ。
そして、おうちの長男がすでに騎士になってて、そのスペアの次男なら上司に嫌われることなく、自然に激ヤバブラック勤務地に配属される可能性もある。
あるというか結構高い確率。
そんなのやだよね。
なので騎士はパス。
やっぱり、王都で役人になって、かわいいコをお嫁さんにもらって幸せに過ごしたいよ。
大きな戦争は、今のところなさそうだけど兵隊はパスパス。
十二歳なんでよくわかんないけど。
「計算などが得意なので、国を支える文官になりたいと考えておりました」
「ふむ、そうか。お前は剣の筋もいいから騎士もよいと思っていたのだがな…まあよい。それならばまずは、王都のペスナリス子爵の家に行くがよい」
「ペスナリス子爵でございますか?」
「おまえの母の母の母の姉が嫁いでいるのだ。いわゆる東遠の親戚だ。先方に話はしてある」
「ありがとうございます。それで、わたしは向こうで何をすればよいのでしょうか」
「まずは従卒として雑用だろうな。それから運が良ければ気に入ってもらえて、向こうの子供たちと一緒に教師から上級貴族が受ける教えを得ることができるかもしれん。そうしてさらに運が良ければ王都のプペシュ学舎か神殿の学校に入れてもらえるかもしれない。そこでしっかり勉強すれば役人になるための口利きをしてくれるかもしれない」
「なるほど。そうなりますと、けっこう、運が大事みたいですね」
「ふふっ、なに、お前は賢いからな。運など関係なく、案外と思ってる以上に早く道を開くんじゃないかと考えているぞ」
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫さ、子爵は出来た方で頼れるし、向こうにはラドルクもいる。麦の種まきが終わったら出発しろ」
うっ、早い。
もうすぐやん。
十二歳にして実家暮らしは終わりかよ。
そして住み込みで従卒とかありえんだろーがよ。
転生とか転移とかって軌道に乗るまで地獄すぎるよな。
労働基準法ならびに児童福祉法の成立が待ち遠しいよ。
それにしても、もう就職かー。
貴族のお屋敷で内勤なら、いわゆる冒険者ギルドで獣人のドジっ子ちゃんとペア組んでチートで喜ばせて好きになってもらうような展開はしばらくなさそうだな。
ド貧民で最下層スタートからよりははるかにましだからいいけど。いいけども。
さて、われらがローランド王国は九月から十一月くらいにかけて小麦の種まきをするので出発は秋ということだ。
秋は寒い。
思ってるよりも結構寒い。
令和日本の亜熱帯な気候に慣れた身としてはなかなかにきつい寒さになる。
この星は地球と同じく一年は三百六十五日で、閏年が四年に一度あり、なんとメートル法が採用されている。
古代の偉い学者が、この星の大きさから算出した正確な単位ということで広く使用されている。
地球とおんなじで非常にわかりやすいのはありがたいんだけど、これ、絶対に、昔にだれか転移してきて決めた人がいるよね。
秋の中ごろに父上様と懇意の商人が率いる、王都へ向かう隊商に加えてもらい出発した。
王都への旅といえば途中で襲われている上位貴族の令嬢との出会いがあるかもと多少身構えていたが、それはなかった。
平和でいいよね。
希望通りですよ。
冬の気配を感じる冷たい風に体を震わせながら、ローランド王国のヤルシャワへと到着した。
誤字などありましたらご指摘ください。
つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。




