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第27話 講座選び

もうプペシュ学舎に通えるのか。

通えるとは思ってなかったし、通えたとしてももっとずっと後かと思ってたよ。


しかもほぼ自由に講座を選んでよくって週四日も通えて、午前と午後で合計八コマも通えるだなんてスゴイ。

ほぼ庶民に近い地方の騎士家の次男でそんなにたくさん受講できるだなんてまずないよ。

これってかなりの厚遇だ。


伯爵様、子爵様に感謝。

ありがたやありがたや。


それにしても十二歳の秋に王都に出てきて、十四歳の秋で、もう学舎へ通い始めることが出来るなんて、かなり順調じゃないか。

順調すぎて上位貴族の子みたいだよ。


これでしっかり勉強して有名講座の証書をもらえれば、目立たないように地方の役人になれるという目標にまた一歩進むことが出来るゾ。


……んんんんん?


よく考えたら、下級貴族の十四歳がプペシュ学舎に通うだなんて注目されたりしないか?

大丈夫?

やばない?


目立たない地方役人になるのに目立ってどうすんだって話だ。

まあ、振る舞いには十分注意しないといけないだろうな。


ともかく、学舎に通えること自体は喜ばしいのは間違いない。

そこは素直に喜んでおこう。


普通、地方の下級貴族が王都の名門学舎に入る場合、後ろ盾となる上位貴族の紹介状を得て、就職に有利な講座を一つか二つ受けられれば御の字だ。

それも基礎講義や補助講座がせいぜいで、有名講師の本講義なんて、まず入れてもらえない。


だが僕は、合計八コマ通っていいって言われたし、しかも伯爵様は、「自由に選んでよい」と仰った。


名だたる貴族デラス・エナ・フロニルウス・クラナス伯爵様のお言葉だ。

娘がなんと紫苑騎士隊に入隊した栄誉ある名門貴族だぜ。

今日は伯爵様直筆の紹介状を持参しております。

えへへ。


そこで問題となるのは……この場合の「自由」とは、どこまでを指すのだろうかということだね。


元・平成生まれ日本人的な謙虚さで考えるなら、身の丈に合った、そこそこの講座を選ぶのが無難なのだろうけど。


もしも、狭き門の超一流講座に入り込んでしまったりしたら……。

すぐに素性が割れ、年の若さと身分の低さへのやっかみに尾ひれ背びれが付き始めるんじゃなかろうか。


『見慣れないヤツだな、どこの家の者だ?』

『若いぞ』

『小さくて女のようなヤツだな』

『伯爵家の縁者らしい』

『いや、子爵の後援だとか』

『なんだと、騎士の次男に過ぎないというのか』

『我らでさえ受講を年単位で待っているのに』

『それをいきなり受講できるとは』

『生意気な奴だ』

『寵童らしいぞ』

『やっちまうか』(憤慨)

『やっちまうか』(楽しみ)


ああ、ありそう。


この場合の「やっちまう」は意味が違う可能性があるから凶悪だ。

魅力度カンスト19、成長途上美少年のわが身がツライ。

それは貴族の嗜み。

こんな心配をしなければならないなんて。


ホントにやられちゃったりなんかしたら、入るつもりもない王都の社交界隈から抹消されている未来が見える。

いや、王都でバリキャリになるつもりじゃないから別にいいんだけど、好んで嫌われる必要はないよね。


目立たず、騒がれず、静かに学び、静かに地方官へ。

その慎ましやかな人生設計が、入学前から若干揺らいでいる気がするのだが。


……いや、待て。

ここで怖気づいてどうする。


せっかく与えられた機会だ。

講座を絞って目立たなくする?

いや、それは違う。


学べるものはすべて学ぶ。

証書も、認可も、評価も、取れるだけ取る。


その上で――


優秀だが野心はないですよ~

地方向きの堅実人材ですよ~


そういう評価を取ればいいのさ。


うん、それだ。

我が得るべきは『有能だが無害』の立ち位置で間違いない。

地方役人ルートには最適解のはず。

迷うな、いざ行け。

そこそこの講座へ行ってそこそこ人生を勝ち取るのだ!



……で、どの講座を選ぶかだけどさ。

とにかく、目立たないように気を付けよう。


~~~



さっそく訪れたのは、王都の中心市街からやや離れた場所にそびえるプペシュ学舎敷地の中央塔。

学舎の事務を司る部署が置かれている。

いわば、大学でいう学生課のようなところ。


前世と変わっていなければ、ここに講座一覧があるんだ。

今受講できる、すべての講座名と講師名が掲載されている表だ。


ここで講座を選んで登録するんだけど、人気講座は大体定員いっぱいなのがあたりまえ。

そういう場合は、お金かコネを使う必要がある。

受付のおねーさんに要確認ですよ。


この中のどれが就職に向いてる優良講座かはわかんないけど、昔と変わっていないなら大体わかるはず。


まずは今の時代の講座確認だ。


どれどれ、一覧表どーん。


プペシュ魔法学。魔法理論基礎。現代騎士道。王国戦術史。王国法制論。会計学初級。騎士道倫理学。古典文学論。元素魔法序論。強化術基礎。治癒魔法入門。結界構築法。魔力制御演習。東部王国紋章学。各国系譜学。宮廷礼法。封建契約実務。カナン流剣術。租税制度研究。古代史研究。対多人数近接戦闘演習。数学。領地経営概論。野戦論。香水選定心理学。現代国語。攻城論。剣術基礎理論。集団戦術指揮法。城塞攻防学。闘気法研究。馬上戦闘技法。部隊運用論。魔獣学。地理学。近代史。要塞戦闘法。神学概論。優雅な扇子操作法。亜人論。重装機動戦闘実習。聖典解釈学。ガスタ流槍術。魔物生態観察学。異端審問制度史。反乱を生まない敵地徴発学。迷宮学。沈黙の社交術。魔力でお絵かき。経済迷宮学。行政論。流行語創作講座。堅守野戦陣地論。錬金術基礎。第一印象演出論。占星術講座。薬草学。冷酷にならない戦時徴発。東部考古学。現代指揮論。王国文学史。毒物識別法。鉱物資源学。冶金学。天体観測学。暦法計算。航海術理論。地図作成実習。現代修辞学。弁論術。書簡作法。外交儀礼。日常で使う闘気。落馬即応戦闘訓練。舞踏実技。兵站論。古典音楽史。酒鑑定基礎。調合学。対魔物防衛計画論。笑顔の心理学。服飾意匠史。賭博統計学。恋愛書簡実習。仮面舞踏会立ち振る舞い。社交界危機管理論。魔導具設計基礎。魔力刻印工学。呪文詠唱音律学。魔法災害対策論。精霊交渉術。契約魔法法務。使い魔調教学。召喚媒介素材学。古代言語基礎。農地魔法活用論。大陸気象学。ユシュ魔法学。都市防衛結界運用…………etc


相変わらず、ピンキリだな……

そして相変わらず見づらい。

目がパチパチしちゃうよ。


……ん?

おおっ!

歴史と伝統ある『沈黙の社交術講座』がまだ残っていて嬉しいわ。


教師がほとんど口を開かない、伝説の講座だ。

もちろん就職に有利にはならないけど、前世ではなんでかしらんが意外と人気があって受講できなかった。

……今はどうなっているのかな。

気になるぜ。


……おっと、でたー!

『恋愛書簡実習』もあったー!残ってたか!


実技で、実際に見ず知らずの男女が書簡を送り合うという実習があって、そこから真実の愛が生まれることもある……。

そういうのが好きな男女から熱い支持を受けている、当時は大人気講座だった。


……前世では、妻たちのガードがきつくて受けられなかったからな。


やべえな、気になる。


いやいや、気になってる場合じゃないわ。

今世は時間と予算は有限、ちゃんと選ばないとな。


八コマか。


騎士になるための講座はきちんととれと言われたから、そうだな、そっち系を最低でも三コマくらいはとらないとまずいだろうな。


うーん、そこそこの騎士系講座かあ。

こんなに講座があるとわからんなこれ。

しかも、この表ときたら、相変わらず分類されないであらゆる種類の講座がバラバラに書いてあるからまーわからん。ほんとわからん。この伝統まだ続いてたのか。


それっぽい、剣術基礎論なんかどうだろうかと思って、サービスカウンターのお姉さんに聞いてみた。

するとそれは、騎士を目指す庶民が受ける講座で、貴族の家に生まれ、すでに実地訓練を積んでいる者には物足りない内容だそうだ。


となると、どうすりゃいいんだろうか。

さすがに自分一人で選ぶのは難しい。


仕方ないので、お姉さんにアドバイスを求めてみると、おすすめされたのはこちら。


「騎士志望でしたら、このあたりが定番ですね」


現代騎士道。

重装機動戦闘実習。

部隊運用論。


……おお、いかにもそれっぽい。


『現代騎士道』は希望者が多いが受け入れも多くて定員制限がないのでまず入れるらしい。

騎士になる者は大体受けてるとのこと。

じゃあ、これは入れよう。


「『重装機動戦闘実習』は、実際にフルプレートを着用しての機動訓練になります。

走行、持久、転倒復帰、武装維持……騎士としての基礎体力と装備適応を鍛える講座ですね」


ああ、なるほど。

鎧を着て戦う前提の身体づくりか。

確かに実地訓練する機会は少ない。


悪くない。

目立たず堅実に強くなれる感じがする。

鎧着てれば目立たなそうだし。


だけど、僕、プレートアーマーなんて持ってないからこれはダメだな。

高いんだよ、全身鎧って。

価格は高級車一台分くらいの感覚。

今は無理。


王国騎士になると、貴族は自前で用意するのが普通だけど、下級貴族や庶民出身で鎧が自前で準備できない場合は、なんと給料天引きで支給されます。

支給とは。

いや、今その件はいい。


部隊運用論はどんな感じっすか?


「こちらは、騎士個人の戦闘能力ではなく、部隊単位での戦力運用を学ぶ講座になります。

小隊規模から中隊規模までを想定し、配置、役割分担、損耗管理、補給判断などを体系的に扱います」


なるほど、個人技ではなく“集団の使い方”か。


「具体的には、前衛・後衛の配置、予備戦力の温存、負傷者後送の判断、撤退線の確保……

そういった実戦時の指揮判断を机上演習で学びます」


……それは大事だな。

受講したら伯爵たちにも好印象を与えるかな。


一騎当千も大事だけど、十人を生かして帰す方が知性と判断力ももちろん評価される。

地方官ルートを目指すならなおさら、無謀突撃型はまずいしね。


「どちらも貴族子弟の受講が多く、基礎講座より一段上の内容になりますが……」


お姉さんはそこで一度言葉を区切り、ちらりとこちらを見る。


「拝見したご紹介状の格から見て、受講は問題ないかと」


……あ、やっぱりそこ見られるんだ。


自由選択とは言われたが、完全な自由市場ではないらしい。

見えない入場券がちゃんと存在している。


「ちなみに、人気講座ですので、通常は定員締切されますがクラナス伯爵の紹介状なら」


一覧表の紙の端を指先で示される。

小さく、赤い印は推薦受講可の印。


……出た。

貴族社会おなじみの見えない優先入場券。


「いかがなさいますか?」


どうするもなにも。

この場合何でもいいんだ。

どうせ騎士にはならないんだからさ。

人気があって評判がよければ何でも。


「では、まず、この現代騎士道と部隊運用論の二つをお願いします」

「かしこまりました~」

にっこり微笑むお姉さん。

ご請求はクラナス伯爵家へお願いしますね。


騎士系であと一つくらいか。

あとは……もうなんでもいいな。

楽そうなのにしよう。


とはいえ『楽そうなのを』とお姉さんに聞くわけにもいかないので、一覧表に再び目を通す。


…………うーん。

ありすぎて選べないな。

どれがいいんだ。


対多人数近接戦闘演習。

これはいけない。

きっときつそう。


堅守野戦陣地論。

確実に実技があるな。

何がきついって塹壕掘りの訓練がやばい。

朝、穴を掘り、同じ穴を午後埋める。

訓練とはいえ意味あるのか?

心が受け付けないから無理。


攻城論。

座学なのか実地なのかが重要。

実地の場合は、そびえ立つ城壁をどうにかするんだろ、これ。

乗り越えたり壊したりするんだろうな。

高い高い梯子をみんなで持ち上げたり、大きな丸太で城門を叩いたりもするだろうし。

わいにはわかる。

きっときつそう。

これもだめ。


冷酷にならない戦時徴発。

これ、座学だよね?

戦地では物資を現地で徴発が当たり前ではあるけれども、冷酷にならないなんてあるか?

ないよな?

そもそもそ、まさかだけど実地訓練ないよね?

戦時強制徴発の練習ってどこでやるつもりなんだ?

なんだこれ、どういう講座?

興味はあるけど、変なの取るなって言われたし、こんなの受けたら子爵に怒られそうだね。

これもだめだ。


集団戦術指揮法。

これは指揮官になることが確定している貴族用だろうな。

下級貴族が講座を受けて、同じグループに上級貴族がいたらどうなるだろうか。

考えるまでもなく悲惨な結末が目に浮かぶ。

下級貴族の騎士次男には不要だろう。


いいのないなあ。

うーん。

無難に剣術にしておくか……。

闘気法はまだ習得してないし、ひょっとしたらステータス上がるかもしれないからね。


えーと、剣術、剣術……

あれ、トナラタ流剣術講座がないな。

昔は人気だったんだけどなあ。

絶えてしまったのか?


かわりにカナン流剣術というのがある。


受付のお姉さんにカナン流剣術のことを聞くと、なかなか評判の良い講座とのこと。

騎士を目指す者の中でも特に若い男性の人気が高く、多くの騎士希望者が受講しているそうだ。


じゃあ、これにしとうこかな。


「かしこまりました~」

笑顔のお姉さんに手続きを依頼。

くどいようですけど請求書はクラナス伯爵へお願いします。

本当に、これ、選ぶ講座によっては私立大学の学費と同じかそれ以上だからさ。



ともかく、これで、八コマのうち三つが埋まった。


……残り五コマ。


あとは、一番の目的、文官になるための講座だな。






誤字などありましたらご指摘ください。

つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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