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第23話 幻惑と光の剣

その後も伯爵のお屋敷で剣の指導を受けつつ、魔法の指導をしていると年が明け、転生少年は十四歳となった。

子供と大人の間の年齢。

お年頃さ。

中の人の魂は前前世、前世、今世を通じて二百五十年くらい生きてるクソおっさんなんだけどね……


いつものように伯爵様のお屋敷に行くと、ルマリエッタ様の様子が少し違っていた。

なにやらソワソワしておられる。

少し元気もないように見える。


剣の稽古も、魔法の練習もいつもと違う。

なにごとー?


「マリー、どうかしたの?」


この数か月ですっかり仲良くなったヒムエスぼっちゃまは、ルマリエッタ様を愛称で呼ぶ。

うらやましい。

ド下級貴族の少年には入れない領域に行ってしまわれた。

僕もマリーって呼びたいです。


「ん、いや、なんだ、なんでもないぞ」


「そお? なにか様子が変だよ。集中してないような気がする」


「む。やはりわかるのか?」


「そんなのわかるよー。いつも一緒なんだから。どうかしたの?」


「ふむ。実はな……実は、紫苑騎士隊(しおんきしたい)の新隊員選抜試験の日取りが決まったのだ」


「え、そうなんだ! マリーは受けるの?!」


「うむ。迷ったのだが、受けることにした。父や騎士たちにも相談したのだが、受かるかもしれないと言ってくれたからな」


「すごいね! それで、試験はいつなの?」


「一月後だ」


「へーーーーーーー。じゃあさ、僕たちで何か手伝えることはあるかな。それとも試験に備えて、しばらく来るのをお休みする?」


「いや、いつも通り来て欲しいのだ。むしろ来る回数を増やしてもいいかもしれない」


「そうなの?」


「そうなのだ。私は十五の小娘に過ぎないから、剣技や闘気を使った戦闘は、私よりももっと修練を積んだ年上の騎士たちに劣るのだが、近頃覚えた魔法を取り入れた結果、かなり戦えるようになってきたのだ」


「いいね!」


「だから、このまま魔法を教えてもらいたいのだ。だが、できれば、選抜試験に役立つような魔法を教えてもらえればありがたいのだが」


「ねえ、セディ、なんとかならない?」


「セドリック、いかがであろうか」


なるほどね。

選抜試験向けの魔法か。

どういう魔法がいいんだろうね。

そもそも、選抜試験の内容を知らないんだよ。


「ルマリエッタ様、その選抜試験というのは、どのようなものなのでしょうか」


「ああ、そうであったな。それを説明しよう。まずは紫苑騎士隊への参加資格だが、女であること以外には、例えば年齢制限はない。結婚の制限もないが、王宮での住み込みの勤務ができることが、資格といえば資格だな」


年齢制限は無いんだ。意外。


「あとは、武勇、知略に優れたる者で、王家を守ることに命をかける誓いを行うことが出来る者だな」


まあ、それはそうだろうね。

王族の側にいて守るのが仕事なんだから。


「それと、今回は二十数名の貴族の女が参加するようだ。家柄は男爵家以上でなければならないが、実際に男爵家から紫苑騎士隊に入隊した者はいないので、実質、子爵家以上の家柄の女だけとなる」


そこですでに狭き門過ぎるよな。スゴーイ。


「試験の内容は、知力を試す問試と、力を示す試合形式の訓練、それと王族との面接だと聞いている」


ほうほう。


「問試は、プペシュ学舎で基礎をしっかり学んだし、それを専門として教えることが出来る教師を雇って特訓しているのでよいとして、試合と面接がなあ」


「問題があるのでしょうか」


「今回の選抜試験は、前回の選抜から少し間が空いてしまったので、ちょっと強い騎士たちが出てくるようなのだ」


「ルマリエッタ様より強いのですか?」


「そうなのだ。実際の参加者のほとんどは、すでに女騎士として任務を受けていて、力と実績を備えているのだ。中には、私がまだ習得していない『岩斬剣』や『風刃波』などの高位剣技を習得している騎士もいると聞く。不安でなあ……」


そう言ってルマリエッタ様は肩を落とす。


「セディ、なんとかならないの?」


心配顔のおぼっちゃま。

今はもう、仲良しのお姉さんだもんね。

なんとかしろ、か。

なんとかねえ。


そうだね、対騎士との戦闘に役立つ魔法をいくつか教えて差し上げましょうか。

ちょっと難しいけど、ルマリエッタ様はこの数か月でずいぶん魔法が上達したから、覚えることが出来ればひょっとするかもしれない。


「わかりました。では、私が調べてまいりました魔法の中で、特に役に立ちそうな魔法を特訓しましょう」

「なにっ? そんな魔法があるのか?」


「はい。もちろん、今練習していただいている、心や感覚を狂わせる魔法を防ぐ『抵抗(レジステンティア)』と、魔法や衝撃を防ぐ『光の(クートゥム・)(ルーミニス)』の魔法の訓練は、そのまま続けなければいけませんよ。特に『光の盾』は、剣技の『風刃波』を防ぐ効果もありますので」


「うむ、わかった! 必ず修得して見せよう。それで、新たな魔法とは何なのだ。ぜひ教えてくれ!」


「一つ目は、『幻惑(メルー・イーヴァ)』の魔法です」


「むっ、『幻惑』とはどのような魔法なのだ?」


意外そうな顔をするルマリエッタ様。

でもね、派手な魔法よりも、こういう地味なバフ魔法・デバフ魔法こそが効果的なんですよ。


「幻影を生み出して自分の姿を増やし、どれが本体かわからなくする魔法です。少なくとも一人は増えますし、熟達すると数人の分身が現れるので、敵はどれが本体かわからなくなります。もし、敵が幻惑を攻撃すれば空振りになりますから、大きな隙ができて好機となりますよ」


「ふーむ、そんな魔法があるのか。聞いたことが無かったな」


えっ、そうなの?

今では、もう使う魔法使いが少ないのかな。

前は、魔法使いの定番防御魔法のだったんだけど?

ルマリエッタ様が知らないだけさ。

余計なことは言わんとこ。


「お相手が打つ『岩斬剣』も『風刃波』も、当たらなければ意味がないのです。『幻惑』と『光の盾』を同時に使えば、相手がこちらの幻を攻撃して隙を見せたなら自由に攻撃できますし、こちらの本体に攻撃を受けた場合も魔法の盾で受け止めることが出来ます。どちらに転んでも、安全にその技を受けることが出来ますよ」


「そうか!二つの防御魔法を同時に使うのか、なるほどなあ」


「もちろん、『幻惑』の魔法は攻撃にも使えますからね。攻守両面で優秀な魔法なんです。だそうです」


「なるほどなるほど、それは覚えねばならぬな」


腕を組み、考えるようなしぐさのルマリエッタ様に、もう一つ、追加で魔法をご紹介しよう。


「もう一つ覚えていただくのは、魔法剣です」


「?!」

「まほう剣?!」


魔法剣と聞いて、心を騒がせぬ戦士はおるまい。

あなた達が、ずっと覚えたいと言っていた、あのあれですよ。

案の定お二人とも興奮のご様子。

ミーハーで困る。

まあいいけどさ。

喜んでくれて何よりだよ。


「魔法剣というと、剣身を燃える炎で包み、敵を焼き切るアレか!」

「かみなりが出るやつ?!」


確かに、魔法剣は魔法戦士の華。

そういう効果のある魔法剣が人気だ。

でも、肝心なことを忘れて焼いませんかね。


「ふふっ、いけませんよ、ルマリエッタ様。王宮で火のついた剣を振り回すつもりですか」


「あっ、いや、そういうつもりではないのだが……」


「若様もですよ、王族がいるところで稲妻を出したら危ないじゃないですか」


「う、うん、そうかも……」


「そうですとも。これから試験を受けるのですから、周囲のことを考えて魔法を使う人間だところをきちんと見てもらいましょう。そのために、今から修得してもらうのは『光の(フェッルム・)(ルーミニス)』が一番良いと考えました。では、ご覧ください」


少年は持っていた木剣を構え、呪文を唱える。


ルーメン・フェッルム(光よ、剣を覆え)テギト・アキエム(刃を鋭くし)・アウゲ、ローブル・プラエスタ(強さを与えよ)


すぐに持っていた木剣が白く眩しい光に覆われる。

その光の剣を、二人の前で振る。


ぶんぶん。

ぶんぶん。


振るたびに、二人から感嘆の声が上がるのが心地よい。


「すごい! すごい!」

「ずいぶん眩しいものだな。これにはどんな効果があるのだ」


「相手を眩しくさせます」


「む、自分も眩しいのではないか」


「たしかに。でも、自分は眩しくなくなる魔法をかけておけばよいのですよ。それは簡単な魔法ですので」


「なるほどなあ」


「そして、この魔法は剣を強くし、鋭さを増します。お相手が岩斬剣を打ってきたときに心配なのは、受けて木剣が壊れてしまうことですが、光の剣を使えばそうそう壊れることはないでしょう」


「おおっ」


「この魔法と身体強化の魔法を組み合わせれば、身体の力の弱さを補い、年上の騎士に力負けしづらくなるはずです」


「それはよいなっ!」


「そして、魔法剣は、幽霊のような体を持たぬ思念体を打つことが出来るという魔法の力を持っているのです。そして、『岩斬剣』だけでなく、『風刃波』のような、闘気による衝撃を防ぐこともできるでしょう」


「いいな! それはよいな!」


「いま練習中の『抵抗』と『光の盾』に加えて、『幻惑』と『光の剣』も覚えるとなると、一月では厳しいかもしれませんが、もし修めることが出来たなら、試験で大いに役立つと思いますが、いかがでしょうか」


「いかがもなにも、素晴らしい魔法だ! どれも聞いたことが無い魔法ばかりだ! すごいぞ! なんとしても覚えようではないか。セドリック、ヒムエス、どうか手伝ってくれ」


「うん! 頑張ろう!」


実際、お二人の今の魔法スキルレベルでは、ちょっと難しい魔法なんだけど、それを承知で教えちゃったよ。


・・・希望があると違うからね。


それにルマリエッタ様は魔法のセンスがいいから、ひょっとしたら覚えることが出来るかもだし。


「どうした、セドリック。さっそく教えてくれ! まずは魔法剣からだ!」

「魔法剣! はやく! セディ!」


ああ、あなた方は、そうでしょうね。

すぐそう。

派手で強い魔法が大好き。

いつか、いつでもいいんで、『抵抗』とか『幻惑』とか、身を守る魔法から覚えたい、というようになって下さいね・・・


「はっ、かしこまりました。では詠唱から……」


もちろん、雇用主のご命令には絶対服従です。

すぐ教えますとも。

頑張ってくださいね。



ルマリエッタ様の試験は一月後か。

受かるといいな。




誤字などありましたらご指摘ください。

つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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