表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

第20話 基礎魔法が大事

「やはり、騎士であるならば敵を蹴散らす強い魔法を習得したいのだ」


凛々しいお顔で語るルマリエッタ様の隣では、うんうんと首を振るおぼっちゃま。


「例えば、敵陣を穿(うが)つ火球のような。できることなら何とか習得したい。どうだろうか」


じっと少年を見る目は真剣。あと睫毛(まつげ)が長くて、瞳が大きくて美しい。

美人にじっと見られると、どうも落ち着かないんだけど、ここは大事なところなので、ちゃんと説明して正しい道を選んでもらいたい。


ルマリエッタ様は、王国女騎士の中でも最高の部隊である紫苑騎士隊(しおんきしたい)への入隊を目指していた。

紫苑騎士隊は、貴族の女騎士の中でも、武勇・精神ともに極めて優れた者だけが入隊を許されるスーパーエリート部隊だ。

任務は、女性王族や、王宮の中でも特に王族に近い場所の警護であったり、外国の女性賓客の警護も受け持つ。

そこに入ることが出来たなら、自身だけでなく、送り出した生家も大変な尊敬を受ける。


そして、名誉ある紫苑騎士隊員の彼女たちが除隊する時には、ありとあらゆる家から縁談がやってくる。

もちろん、貴族たちが彼女たちを家に迎えたがるのは、彼女たち個人の資質を求めてという理由もあるが、彼女たちが紫苑騎士隊に所属する中で築く、隊員間の特殊な絆と、王族や高位貴族、海外の要人との人脈という無形の財産こそが、地方貴族が最も欲するものであり、それを手に入れるため、貴族たちは手間と金銭を惜しまないのだ。


それだけに、紫苑騎士隊への入隊のハードルは高い。


武勇、知略、家柄、実績、人脈、すべてを揃えた上で、隊員に空きができるという運がなければ、入隊はかなわないのだ。


そんな中で、近頃、一つ噂があった。


紫苑騎士隊の隊長を務める、さる高位貴族の令嬢が婚約したというのだ。

つまり、騎士隊に一人欠員が出るということだ。


高位貴族の婚礼ともなれば、庶民のように明日すぐに式を挙げるということはなく、一年以上の準備期間を持つこともざらである。

早ければ今年、遅くとも再来年には正式に除隊し、それを受けて新規隊員の選抜が行われるだろう。


それゆえに、ルマリエッタ様は、迷宮で武名や功績を上げるべく、焦ったような探索をしていたのだ。


それも、迷宮での遭難騒動で、一度は焦らずに地力と功績を積み上げようと思い直したはずだったのに、つい先日、はからずも魔法使いとなったことで、また紫苑騎士隊入隊の夢を見るようになってしまったのだろう。


そんなに簡単にいくとは思えないんだけどね。


それにしても、『灯火』の魔法の次が、もう『火球』の魔法とはね。

センスないねえ。

美人だから許されるけどさ。

少年が一応、おすすめの魔法修得ルートをご助言申し上げておきましょう。

助言を聞き入れるかどうかは、ルマリエッタ様次第。

聞き入れてくれないようなら、ご指示通り、火球の魔法を教えて差し上げますけどね。


「ルマリエッタ様、紫苑騎士隊を目標とするならば、火球の魔法よりも良い魔法がございます」


「!」


秘めたる思いの核心を少年が口にしたので、驚いたご様子。

わかりますって……あなた様は、とても単純そうですから。いい意味でね。


「若様、近衛騎士を目指すのも同じです。火球よりも良い魔法があるのです」


「ほんとうに?」


「ええ。まず、お考えください。近衛騎士隊や紫苑騎士隊は、どこで仕事をしておりますか?」


「お城だよ」


「そうですとも、お城です。お城で王族の警護をして、王宮の守りを固めるのが仕事なんですよ。実は、お城の仕事で火球を打ち込むような場面は、ほとんど無いのです」


「ふむう」


「騎士隊の彼ら彼女らが、もしも新しい仲間を探すとしたら、選ぶ基準の一つとして、『自分たちの仕事が楽になる人』を考えるとは思いませんか」


「仕事が楽になる?」


「はい、そうです。例えば、夜の巡回で暗いお城の廊下を歩くときに便利な『明かり』の魔法があれば、ランプを持ち歩かなくて済みますので、便利じゃないですか」


「それはそうだね」


「例えば、王様や王子様が喉が渇いたと言った時に、いちいち井戸まで行って水を持ってきて、毒見をしてから渡すのは大変じゃないですか。『創水』の魔法で、目の前で出してしまえば、喜ばれるんじゃないでしょうか」


「むう」


「隊員の重要な仕事は王族の警護ですから、敵を見つけて撃つ攻撃魔法よりも、敵を見つける『悪意の発見』や『危害探知』などの探知の魔法のほうが実用的です。王様を狙う暗殺者が、目の前に来る前に存在を感知することが出来れば、とても便利だと思いますよ」


「そんな魔法があるの?」


「色々な魔法があるようですよ。この本に書いてありました」


そう言って、子爵の家から持参した『魔法の種類』という本を前に出した。


「それに、攻撃魔法の中で本当に役に立つのは、相手の動きを止める魔法だと思います」


「ほう?」


「どんな魔法?」


「この本に書いてあるのは、睡眠、麻痺、束縛などなど、色々あるみたいですよ」


「睡眠か」


おぼっちゃまには、何度かかけさせていただいたことがありますよ。ふふっ。


「例えば、王宮に忍び込んだ怪しい者を捕らえようとした場合、攻撃魔法で相手を殺してしまうより、睡眠や麻痺の魔法でケガをさせずに捕らえることが出来れば、色々と情報を聞き出すこともできますよ。火球を撃ったら、お城が火事になっちゃいますしね」


「むむっ、確かに」


「ほかにも、ちょっと離れた場所にいる仲間に声を伝える『遠話』魔法があれば、連携をとることが簡単になりますし、目の前に地図を出す『地図』の魔法があれば、作戦を立てることが簡単になりますよ」


『遠話』と『地図』の魔法のことを説明するときに、あえて『迷宮で迷わなくなる』ということは言わなかったのだが、ルマリエッタ様はそのことに思い当たったようで、真剣な表情となった。


「他にはどうだ?」

「どんな魔法があるの?」


二人とも、例え話の効果があったようで、地味だけど便利な魔法に興味を持ってくれたようだ。


魔法は、魔法を使うことが目的ではなく、問題解決のための手段の一つに過ぎないということを、ちゃんと理解してくれればいいんだけどなあ。


そして、魔法を上手く使うためには、どうすれば、もしくはどうなったら問題が解決するのかという結末と、そこに至る道筋を考えることが重要だということをね。


魔法は、可能性を増やすための技術に過ぎないんですよ。


「他に、この本に載っている魔法の中では、そうですね、『音消し』の魔法があれば、重い鎧を着ていても静かになるので、敵に忍び寄ることが出来ますし、王様が寝ているのを邪魔しなくなりそうですね」


「地味だが、便利そうだな」


「他にも、身体強化名の魔法を使えば、早く走れたり、重い荷物を運べたりできます」


「おお。戦場で活躍できそうだな」


「それもありますが、護衛対象を抱いて逃げたり、普段は飛び越えることが出来ない壁を飛び越えたり、色々な恩恵があると思います」


「なるほど!」


「この本には載っていませんが、神様にお願いする魔法には、部隊の仲間全員を魔法や弓矢から守る魔法や、傷を癒す魔法がありますね。そういう魔法を得られれば、聖騎士と呼ばれます」


「そうだな、聖騎士か!紫苑騎士隊にもいる」

「近衛騎士隊にも!」


「王族が傷を受けることに備え、癒す魔法を使うことが出来る騎士が近く控えていれば、安心ではないでしょうか」


「それは間違いないことだな」

うんうんと頷く二人。

もういいかな。


「いかがでしょうか、お二人とも。まずは便利で喜ばれる魔法の中から、簡単なものを選んで覚えていってはいかがでしょうか。そういった魔法こそが、王城を守るために必要だと思いますし、そういうことに考えを巡らすことが出来る、謙虚で知恵ある騎士であることは、高位の騎士になるために重要ではないかと思います」


にっこりと美少年スマイル。

どやっ。

社交スキルは8レべ。中級者。悪くないよ。


「なるほど、確かにその通りだ。そなたの言葉は腑に落ちた」


そう言うと、ルマリエッタ様は一度首を振ってから、よく整ったお顔に真摯なまなざしをのせ、少年に言葉をかけた。


「これからは師と弟子として、そなたの言葉に従おう。セドリックよ、よろしく頼むぞ」

「セドリックが先生だね。よろしくお願いします!」


おお、交渉成功!

素直でよかった。

いい結果だ。


それにしても二人ともええ子やなあ。


騎士の息子なんかに『師として扱う』と言ってくれたか。


そこまで言われてしまうならば、なんかちょっとやる気が出ちゃうな。

教えるからには、良い魔法使いになって欲しいからね。


……


師と弟子かあ。


そういえば、大魔法使いヒロキだった前世で、とった弟子は一人だけだったな。


彼は寿命で死んでしまったけど、彼の弟子たちはまだ残っているのかな。


みんな、あの戦争の後、どうなったんだろう。


あの子たちが残っていれば、この国の医術も魔術も、もうちょっとマシだと思うんだけど。

医術は特に、昔より衰えているように感じたな。

何かあったのかな。


「ねえ、セディ、早く教えてよ! 魔法を!」


あっと、そうでしたそうでした。


ふと昔のことを思い出してしまった。

今は、騎士の次男、セドリック・マルタンだった。

前世の妻たちから身を隠しつつ地方役人を目指す、騎士にはなりたくない目立ちたがらずの十三歳だった。


お仕事に集中せねば。


「はっ、若様、かしこまりました。ではまずは、明かりの魔法から始めましょう。これを覚えれば、もうランプは不要になりますよ」


そう言って、部屋のカーテンを閉めて薄暗くしてから、魔法の言葉を唱える。


『理の光よ、闇に生じて照らせ』


目の前に、すっと光が生じる。

直視すると、なかなかまぶしいので、一瞬の目くらましにも使える、本当に便利な魔法だ。


「おおっ」

「ほー」


最初で最後だった前世の弟子は、世紀の大天才魔導士だったけど、今世の弟子は、本当の素人の二人とはね。


「お二人とも、いま見ている光を思い描きながら、『明かり』の魔法と同じようにやってみてください。詠唱は『ことわりの ひかりよ やみに しょうじて てらせ』です」


「どういう意味?」


おっ、聞いてくれるのか。

いいね。

おぼっちゃまは、魔法使いに必要な好奇心と探求心を持っているのかも。


「宇宙、世界を(つかさど)る大法則の中の『光』という純粋な存在を、全く『無い』状態の中から、自分の魔力だけを使って生み出すぞ。あたりを照らすくらいの大きさでね、という意味なんです」


「……ずいぶん難しいこと言うんだね」


「そうですね、すみません。もう少ししたら、しっかり学びましょう。今日のところは、詠唱の言葉をしっかり覚えて、やってみてください」


「うん、わかったよ!」


「やってみよう」


そして、素直だ。


素直という意味では、ルマリエッタ様もいいね。


それも、魔法使いの素質の一つ。





誤字などありましたらご指摘ください。

つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ