第19話 剣術稽古と魔法指導
おぼっちゃまと共に伯爵家から帰ると、待ち受けていた子爵夫妻に、事情を根掘り葉掘り説明することとなった。
「本当か!ルマリエッタ様が魔法を習得したというのか!しかも一日目で!」
「うん!夕方にはできるようになってたんだよ、ねっ、セディ」
「はっ」
「まあ、素敵!」
「そうかそうか、それでルマリエッタ様と、クラナス伯爵はなんと言っていたんだ?」
「ふたりとも、すっごく喜んでたよ!祝いだ!祝いだって!それで夜はすごいご馳走だった!すごかったよ!ねっ、セディ」
「はっ」
「突然、お前たちを泊めるという知らせが来たから何事かと思ったが、そうかそうかあ、いやーよかったよかった」
「本当にすごいわね、まさか一日で魔法を教えちゃうなんて」
「やはり、ヒムエスの件は偶然ではなかったのだなあ」
「屋敷中が大騒ぎだったんだよ。それで、これからも来て欲しいってさ!ぼくも一緒にって。セディから魔法を教えてもらうから、かわりにぼくたちに剣を教えてくれるんだって。ねっ」
「はっ」
「ほう、剣術か。誰が教えてくれるんだい?」
「ルマリエッタ様がおしえてくれるんだ。あと、カサナリスって騎士もおしえてくれるって」
「なに?カサナリスか!伯爵家でも武勇の誉れ高い騎士だぞ、それは凄いなあ」
「だから、ふたりでルマリエッタ様のお屋敷に行くときは、剣の稽古をしてから魔法の勉強するんだってさ。ねっ、セディ」
「はっ」
「ルマリエッタ様は紫苑騎士隊に入りたいから魔法戦士になるんだって。ぼくも魔法戦士になって近衛騎士になるよ!」
「そうかそうか、そんな高い目標があるならば、頑張らなくちゃいけないな、ヒムエス、しかと励めよ!」
「はい!父上!」
「うむ、そしてセドリックよ、伯爵からこれほどの厚遇を受けるのは、お前のおかげだな。魔法の指導も、ヒムエスのこともしかと頼むぞ!セドリック!」
「はっ」
「剣の稽古について言えば、ルマリエッタ様はかなりの腕前と聞いているが、話に出た騎士カサナリスは昔、騎士団の教官をしていたこともある実力者で私もよく知っているんだ。彼に教えを受ければさらに剣の腕が上がるだろう。実に幸運なことだぞ。お前も魔法戦士となり近衛騎士になれるかもしれないな」
「はっ」
「よかったではないか」
「はっ」
「それで、これからの予定はどうなっている?」
「はっ」
「ん?予定だ、予定」
「はっ、あっ、失礼いたしました。ルマリエッタ様が王立の学校に行く手続きをしているそうなのですが、学校が始まるまでは一日おきに来て欲しいとのことでした。学校に通うようになったら週に二回とのことで」
「なるほどな。わかった。お前には我が家での従士としての仕事と訓練があるが、これは大事だから調整しよう。マークに言っておくから相談するように。しっかり頼むぞ」
「はっ」
「次行くのはいつなんだ?」
「はっ、明日はお休みで明後日からです。一か月ほど来て欲しいとのことでした」
「そうかそうか、よし、それで、何か必要なものはあるか?欲しいものがあれば言ってみるがよい」
「はっ、ありがとうございます。もしお許しいただけるのであれば、屋敷の書庫で魔法書を読む許可をいただきたいのです。わたくしは魔法を覚えたばかりでありますので、教えることが出来るのはわたくしが先生に教えていただいたことだけでございますので、すぐに教えることが無くなってしまうと心配しています」
「なるほどな。確かにそうだ。お前はヒムエスと共に、ついこの前、初めて魔法の教えを受けたばかりだったのだな。信じられないことだが、確かにそうであった。よろしい、この屋敷の書庫への立ち入りを許可しよう」
「はっ、ありがとうございます。同様のこと、伯爵様にもお許しいただけるか申し上げてもよろしいでしょうか」
「ふむ。他家の者に書庫を見せるというのはあまりよくないことだろうがな。だが、お前が頼むのであれば許されるかもしれないな。頼むのであればルマリエッタ様に頼むがよい。クラナス伯爵はルマリエッタ様を大切にしていると聞いているからな。娘のためとなれれば、書庫の鍵を渡すかもしれぬ」
「はっ」
「それにしても二人ともよくやったな。これからもしかと励めよ」
「はい!」
「はっ」
こうなっちまったぜ。
完全に目立っちまったよ。
見習い従士が、魔法を教えに上位貴族の屋敷に招かれて一日おきに通うなんて誰も聞いたことないってマークぱいせんが言ってたし、屋敷のみんなも驚いてるよ。
こういう噂は、結構、すーっと貴族家界隈に広まるのよ。
やだねぇ。
はあ。
まあ、ちょっと魔法を教えるのが上手い少年がいたからって、それが何だって話なんだけど、エルフ達が大魔導士ヒロキの生まれ変わりを探してるっていうのが本当ならば、そういうのってとても危険だと思うんだ。
はあ。
それから、魔法の指導はどうしようかなあ。
もちろん、魔法を教えることはできるけどさ。
設定を守るために、魔法を覚えたばかりの少年として振舞わなければならないのが面倒なんだよ。
ちゃんと教えないこともできるけど、それはそれでなんか嫌だし。
とりあえず、自分の身の内に知識があるとバレるのを防ぐため、なにか初級の魔法書を探しとこう。
テキスト通りに教えるならば、そういうもんだと言い訳がつくかもしれない。
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日が沈んだら、また日が昇って沈み、また昇って二回目のクラナス伯爵邸に行く朝になった。
取り決め通り、まずは剣の稽古となる。
指導してくれるというカサナリスという名の騎士は、すごい騎士だと聞いていたのに会ってみると小柄で温厚なおじさんだった。
ちょっと拍子抜け。
でも、こういう人がめちゃ強いという設定は物語の数より多く存在するからオレは油断しないんだぜ。
彼はルマリエッタ様とは打ち合いをしていたが、少年とおぼっちゃまは脇でずっと素振りをさせられた。
二人とも腕がプルプルになるくらいずっと振らされているのに、何も指導的なことは言われずにその日の稽古は終わってしまった。
なんだこのおっさんと思っていたら、不審に思う気持ちを見抜いたのかルマリエッタ様が顔を寄せてきてこっそりと声をかけてくれた。
「カサナリスは見極める目を持っているのだ。彼の指導に間違いはない。私も最初はずっと素振りだけだったのだよ。頑張って続けるのだぞ」
ルマリエッタ様の稽古で汗ばんだ白く美しいお肌が近くてハートがビートしてしまい話の内容がすぐに入ってこなかった。
身体が若いから、本能的にそうなってしまうのだろうか。
ドキドキ。
それはともかく、なるほどね。
あんまり声をかけない感じか。
そういう達人コーチ、よく映画とか小説に出てくるよね。
いいね。
今日、僕たちの前に出て欲しくなかったけど。
やっぱり、短期的に成果が出て褒めて伸ばして欲しいのが全男性の願いだと思うんだ。
僕だったらそうするな!
剣のお稽古でかいた汗を流した後、お昼に軽く何かを食べて、昼寝の時間をとってから魔法の授業の開始です。
魔法の指導は今日で二回目。
初回は、灯火の魔法を成功させるために簡単な説明しかしてなかったから、今日はちゃんと理論の話をしよう。
まずは、顧客との打ち合わせが大事さ。
ルマリエッタ様は魔法を得てどこへ行くつもりなんでしょうか。
「紫苑騎士隊に入れるような魔法を覚えたいのだが、どうだろうか」
「ぼくは近衛騎士!」
「なるほど、目標はかしこまりました。それではヒムエス様は先にいくつかの魔法を覚えておりますが、ルマリエッタ様は魔法を覚えたばかりですから、まずは基礎から固めてまいりましょう」
目標を聞いても聞かなくてもまずは基礎からです。
じゃ、聞かなくてもよかったじゃんかと思うあなた。話すという姿勢が大事なんですよ。
「基礎か」
「剣術に素振りが大切なように、魔法にも基礎が大切なのです。まずは素振りからですよ」
「うむ・・・」
「魔法には大きく分けて二つの種類がございます」
「自力と他力のことか?」
「そうです。ご存じでしたか。つまり、自分の魔力で結果を発生させる魔法と、魔力を使って誰かにお願いして結果を発生させる魔法です」
「以前聞いたことがある」
「まずは、自分の魔力で結果を発生させる魔法の中から、すぐに使える魔法を覚えていきましょう。前回覚えたのは灯火ですが、次は『明かり』『創水』がよいと書物に書いてありました」
「まあ、そうなのだがなあ」
「何かお考えがございますか?」
これはあれだな。
きっとド派手な火炎魔法とかを早く覚えたいとか考えてるんじゃないかな。
あまい、あまいぞ。
僕は今日、腕がプルプルするくらい素振りさせられたんだから。
短期目標の達成でほめて伸ばすとか言ったのはウソだ。
誤字などありましたらご指摘ください
つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。




