第18話 魔法指導
子爵家の一行は迷宮での訓練遠征を終えて王都に戻ってきた。
帰りの道中、子爵は終始ご機嫌だった。
目的だった息子の修練が上手くいっただけでなく、ルマリエッタ様の救出でクラナス伯爵家に恩を売ることができた上に、元大魔法使いの少年が伯爵令嬢に魔法を教えに行くことになったからだ。
ルマリエッタ嬢はクラナス伯爵が大切にしているともっぱらの噂なので、少年の指導で運良くルマリエッタ様が魔法を習得できるようなことがあればそれはそれは喜んでもらえるだろう。
印象というのはとても大事だ。
サークルでも会社でも貴族社会でも。
もしも戦争が始まって参加するとして、クラナス伯爵のような力のある貴族と仲良くしていれば強い軍に入れてもらえたり、あんまり危険じゃない陣地に入れてもらえたり、食料の配給が他よりも良かったりなど、計り知れない恩恵があるのだ。
「セディ、頼んだぞ」
少年はにっこりとほほ笑みかける子爵様からの圧に負けそうです。
さて。
帰ってきてから自分を魔法で鑑定したら位階が2に上がっていた。
もう上がらないと思ってたのに上がってた。
魂が大きく濃くなって全ステータスが強くなっていた。
転生した時のトラブルで、魂の位階は1に戻ったのに、位階を上げる経験だけを前世の魂から引き継いでしまっていたからもう上がらないと思ってたんだけどなあ。
上がったということは、この遠征で前世でしていない経験を積んだということなんだろうけど、それが何だったのかがよくわからない。
うーん。
ちなみに、第2位階というのはRPGゲームで言うならばレベル15くらいの感覚だと思う。
三つ目の町に行くくらいの進行度。
ちなみに、レベル30相当になる第3位階まで上がる人は冒険者や騎士、修練を積んだ神官や魔法使いなどの中で、かなりの鍛錬を積んだ者だけで、ゲームで言うところの飛空艇を手に入れるレベル相当の第4位階になれるのは本当に稀だ。
もう位階は上がらないと思っていただけに普通に嬉しい。
結果的にはいい遠征だったんだな。
子爵様、おぼっちゃま、ありがとうございました。
あと、ルマリエッタ様も。
ひょっとして、あのクソめんどい出来事で何かクエスト報酬的なボーナス経験値をもらったんじゃないだろうか。
そんなルマリエッタ様とは明後日に会うことになっている。
約束していた魔法の個人レッスンだ。
僕が教えてすぐに魔法スキルが上がるんなら、そんないいことはないんだけど、上手くいくとは思えないなあ。
ウチの遠征チームは今日王都の屋敷に戻ってきたばかりだけど、一日遅れで出発したルマリエッタ様は明日王都に戻るそうだ。
だから、明後日の午後に魔法を教えに来いって、わざわざ伯爵家から使いが来た。
すぐ過ぎない?
早いよね?
ルマリエッタ様の意気込みスゴない?
・・・いや、僕が余裕を持ち過ぎてるのかもしれないな。
前世は魔法の力で二百年くらい生きてたからか、割とのんびりしていたのかもしれない。
周りもエルフやら樹やらヴァンパイアやら長生きな種族ばっかりだったし、人生が長いとせかせかしなくなっちゃうんだよな。
今度こそは普通の人間の人生なんだから慣れないといけないんだ。
この国を取り巻く周囲の状況は、相次ぐ戦争や飢饉で荒れに荒れているから、平均寿命は五十歳あるかないかってとこだしね。
まさに『人間五十年下天の内をくらぶれば』の世界だよ。
織田信長が好んでいたってことで有名な幸若舞の敦盛の一節。
人生は短いんだ。
ちなみに人間はじんかんて読むらしいね。ずっとニンゲンだと思ってたよ。
その読み方は、なんとこの世界の古文書で読んで知った。
嘘みたいだけど本当だよ。
ずっと昔、僕よりも昔の時代のこの異世界に転生してきた日本人が残した日記みたいな文書に書いてあった。この世界は地球から転生した人の痕跡が結構多いよ。
逆に考えると、ひょっとして、知らないだけで令和日本の世界にも異世界転生した人が来てたのかもしれないな、なんて思う。
だってあっちからこっちにこんなに来てるんだから、こっちからあっちに行かないなんておかしいよね。
それにしてもまた魔法を教えるのか。
今度はルマリエッタ様だ。
ウチのおぼっちゃまには偶然うまくいってしまったせいで勘違いされてしまったけど大丈夫だろうか。
旅の荷物を整理しながらため息をついている間に、最初の訪問日になってしまった。
クラナス伯爵令嬢ルマリエッタ様のお住まいは我らが子爵の屋敷からほど近い、さらに王宮に近い場所だ。
歩いても行ける距離なんだけど、格式というものがあるので子爵家の馬車で送ってもらえた。
せっかくなので、ということで当家のヒムエスおぼっちゃまも一緒に伯爵家への表敬訪問を兼ねて魔法の指導に同行することになった。
本当は子爵も行きたかったようだけど、お仕事が溜まっているとのことで今回はお屋敷でお仕事。
到着した先は、さすが武勇で鳴る名門伯爵家のお屋敷という納得のたたずまいで、威圧感たっぷりで豪壮なお屋敷だった。
よく躾けられた召使に案内された部屋には、動きやすい簡素なドレスをまとったルマリエッタ様がいた。
迷宮町で見た鎧姿もカッコよかったし、先日のドレス姿も素晴らしかったけど、こういう普段着というか飾らない服装もいい。
「よくきてくれたな、二人とも」
ルマリエッタ様が機嫌のよい笑顔でお出迎えしてくれた。
ニッコリ微笑む柔らかなたたずまいで少し輝いて見えるような気がする。
健康な少年少女が放つ生命の輝きにおっさんは弱いのよ。
今は自分も少年だけどさ。
思わず見惚れてしまいそうになるのをこらえ、おぼっちゃまと一緒に下位貴族らしくお行儀よくご挨拶。
「帰りの旅は順調であったか?」
「天気が良く、困りませんでした」
「確かに。私もそうであったな、ふふふ、ヒムエス、セドリック、難しい言葉遣いは不要だ。家族のように話すがよい」
貴族の作法にのっとった社交辞令を交わそうとしたところ、彼女はそんなつもりはないらしく打ち解けた雰囲気で楽しくお話をした。
その内に、いよいよ本題の魔法指導の話となった。
「何度も教師を呼んで教えを受けたのだが、会得できなかったのだ」
悲しげにうつむくルマリエッタ様。
まあ、魔法は才能だからね。
素質がなければ何べん練習してもだめなんですよ。
「わたしくも『そしつ』はないと思っていましたが、ルマリエッタ様もきっとだいじょうぶですよ!」と元気よく励ますのは当家のヒムエスおぼっちゃま。
「セドリックがぜったいにできるようにしてくれますよ!」
おぼっちゃまったら、魔法の次は、控えめさとか慎みとかを是非学んで欲しいです。
成功しない場合に備えて保険を掛けるような、ふんわりした表現にしておくというような会話術を早く、すぐに覚えてくださいませ。
貴族にはそういうのって必要だと思うんですよ。
「月の神殿の神官によれば、アステリア様が夢に出てきた人は、魔法にひつような素質を持っていることがおおいそうです。その話がほんとうならば、ちょくせつお会いしたルマリエッタ様はすごく素質があるにちがいありませんよ」
「いままで、何度練習してもダメだったのでもうあきらめてしまっていたのだがなあ。ヒムエスの話を聞いてもう一度挑戦してみる気になったのだ。頼むぞ、セドリック」
ルマリエッタ様が期待と意欲に燃えた眼差しを少年に向けてくる。
おぼっちゃまからの視線も熱い。
いやー。
ちょっともう勘弁してよ。
高い期待は苦しみの種ですよ。
やがて悲しみの芽が出て絶望の花が咲くでしょう。
数時間の練習の結果、夕方近くにルマリエッタ様が『灯火』の魔法を成功させた。
集中したルマリエッタ様が『ともれ、我が指先に!』と魔法の呪文を唱えると見事、指先に小さな火がともったのだ。
「つ、ついた」
「できた!できた!すごいです!」
「これから、これからどうすればいいのだ」
「火をつけたら消すんだよ!」
「消す、どうすればいいのだ!」
「火が消えるように念じて」
「わかった、消えろ!」
「消えた!」
「おめでとうございます」
「やったね!」
「おお、おおっ・・・まさか本当に・・・おおっ」
ルマリエッタ様はじっと自分の手を見つめた。
「ほら、できた!」
「うっ、ううっ、嬉しい、ううっ」
少年は絶望の花ではなく、喜びの花が咲くという結末を予想していませんでした。
・・・まじで、なんで?
どういうこと?
なんでできた?なんで?
ルマリエッタ様は、さらに何度か魔法が発動するかどうか試し、自在に灯火の魔法が使えることを確認してから、おぼっちゃまと少年を連れて家族のもとへ走り、指先にともる小さな火を皆に見せて回った。
父君である伯爵はたいそう喜んだ。
結果、その日、おぼっちゃまと少年は伯爵からたっての願いで豪華な夕食をご馳走になり、たっての願いでご宿泊することになった。
伯爵様は騎士の次男というだけの下位貴族である少年を「セドリック殿」と呼んで、下にも置かないもてなしをして、明日からも通って魔法を教えて欲しいと頼み込んできたので、子爵様に許可を得て返事すると答えることとなった。
子爵が断わるわけはないので、確実に伯爵家に通うことになる。
その夜、少年はおぼっちゃま同様に良い個室をあてがわれ休むことになった。
子爵のご令息であるヒムエスぼっちゃまは当然として、普通、僕ランクの下位貴族の従者は、お屋敷の雑魚寝部屋にぶち込まれるんだけど、怖いくらいに待遇がいい。
従者というよりは、魔法使いの師匠待遇なんだろうか。
見回すと、調度品もよいのでそれなりの部屋ということがわかる。
目立ちたくないんだけど、良くない流れだ。
でもまあ、こうなってしまったからにはしょうがない、とあきらめて、こんなに清潔な部屋で眠るのは転生して初めてだなあと思いながら、そして月を眺めていた。
改めて考えてみよう。
なんで教えた人が確実に魔法を習得することが出来たんだ?
どうなってるんだ?
魔法は素質がないと覚えられないはずじゃなかったのか?
そんなことってあるのか?
あまりにも不自然なので何か見逃していることが無いかと自分に鑑定をかけた。
名前:セドリック・マルタン
種族:人間族
性別:男
年齢:13歳
職業:見習い従士
状態:健康
位階:1
能力値
HP:33/33(+3)
MP:20/20 (+2)
STR:9(+1)
VIT:8(+1)
AGI:10(+1)
DEX:10(+1)
INT:19(+1)
LUK:19(+1)
CHA:19(+1)
スキル(戦闘)
魔法:20(レジェンド)
神聖魔法:0(素人)
精霊:20(レジェンド)
格闘:3(初級者)
剣術:8(中級者)
槍術:4(初級者)
弓術:3(初級者)
スキル(非戦闘)
鑑定:20(レジェンド)
商売:11(上級者)
政治:14(専門家)
祈り:2(素人)
医術:14(専門家)
動物:5(初級者)
料理:1(初心者)
建築:20(レジェンド)
栽培:12(上級者)
採掘:0(素人)
工芸:20(レジェンド)
芸術:20(レジェンド)
研究:20(レジェンド)
古代語:20(レジェンド)
外国語:12(上級者)
社交:8(中級者)
うーん。
迷宮に行って剣術と槍術のスキレベが上がってて、あと位階が上がったからステータスが上がってるけど、おかしなところはないなあ。
しばし考える。
・・・
・・・
・・・
ひょっとして、この鑑定で見えていない何かの能力があるのだろうか。
誰かに何かを教えることにボーナスのある、教育とか育成とか指導とか、そんな隠しスキルがあるのだろうか。
あるかないかわからないけど、ちょっと真面目に調べてみよう。
いつものような簡易鑑定じゃなくて、自分にそんな力があるかどうかを調べる魔法だ。
MPはギリ足りるかな。。。
ずっと昔にいた、今はもうこの世界から去ってしまった神様にお願いする、『知りたいことを知るための呪文』だ。
ルー様、お願いします。
『万能の光、すべての技を束ねし者。
ルー・ラーヴァハ、サミルダーナハ。
フェーアハ・オルム、ア・ルー。
ノハト・アン・フィーリンネ・イナム。
偽りを退け、あるがままを示せ。
我が力、我が名、我が可能性を。
レ・ソラス・イス・レ・キアル。
かくあれ』
魔法の光が僕の体を包む。
するとどうでしょう、頭の中に文字が浮かんできた。
『指導:20(レジェンド)』
あるんかい!
指導なんていうスキルがあったのか!
そんなのこれまでに読んだどの本にも書いてなかったぞ!
まじかよ。
誤字などありましたらご指摘ください。
つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。




