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第12話 迷宮遭難

「あっ、宝箱だ!」

おぼっちゃまから喜びの声。

嬉しそうなおぼっちゃまにみんなが癒されるよ。

元気な子供の声っていいよね。


転生少年が最後のゴブリンを倒すと、魔石とは別に宝箱がドロップしたのだ。

十階の宝箱ではまあ、たかが知れているが、たまにレアが出ることもある。


小さめの宝箱を開けてみると、『短刀?』だった。


戦闘用のナイフで、刃の長さは15cmくらい。

片刃なので野外作業なんかでも使える便利そうなものだ。

十階産なので質は悪くないはず。


「すごいね!なにかな?!」


「ははっ、後で鑑定にかけで、いいものだったらお前に与えよう」

ここで強パパは優パパに。

「本当?!やった!」

おぼっちゃまは嬉しそうだ。


たしかに、十階産なら何かいい効果の魔法付与が付いてるかもしれない。

おぼっちゃまに最後にお楽しみができてよかった。

とりあえず、荷物持ちである僕がお預かりして、迷宮を出たら鑑定してきます。



それからも索敵と戦闘を続け、夕方前にスケルトンの集団を倒したところでそろそろ今日はおしまい。


これで一か月の訓練が終わりである。

おつかれさーした。

今晩は打ち上げということで、ちょっといいお料理をいただけるとのこと。

迷宮町には命知らずで金遣いの荒い冒険者が集まってるので、酒と料理は王都よりも良かったりする。

楽しみ。


すこし浮ついた雰囲気をかろうじてこらえながら、皆で十階の階段側の紋章を触り、迷宮入り口のへ転移すると、そこには伯爵家の従者が待ち構えていた。


彼は子爵の側へ近寄ると、小声で話しかけてきた。

「ペスナリス子爵、どうかわが主をお助けください!」

尋常ではない剣幕である。


「何事だ?」

「実は、ルマリエッタ様が転移の罠で飛ばされてしまい、捜索の手助けを必要としているのです」

従者は沈痛な面持ち。


「なんだとっ?!何階だ?」

「三十三階です」


「むっ・・・深いな」


そう、三十三階と言えば、かなりの上級冒険者でないと踏み込まない強敵出現階層だ。

あのお嬢様、そんなところまで行っていたのか。


これは子爵でも探しに行くかどうか迷うところだけど・・・

「・・・わかった。すぐに向かおう」


さすが子爵。

即座に捜索へ行く決断を下した。

まぁ、上司のお嬢さんが行方不明で、そのまま放置してたら後で何言われるかわからんだろうし、しゃあないんだろうな。


「し、子爵様!ありがとうございます!」

喜ぶ伯爵家の従者は鞄を差し出す。


「急ではありますが、水と食料、買える限りのポーションを集めました、こちらをお持ちください」

「うむ」

「現地では、わが家の騎士が先行して捜索しておりますので連携していただければ」

「あいわかった」

「ありがとうございます、子爵のお力を得られれば百人力でございます」

「・・・何とか無事にお助けしよう」

「どうぞよろしくお願いいたします」


漢ヨルクは心から感謝している伯爵家の従者を背に向け、家臣たちに指示を出す。


「これより伯爵令嬢の捜索に向かう。ケイロンとタクナスは、我とともに向かうぞ。ルドムとクシウス、セドリックはヒムエスとともに宿へ戻り待機だ。ヒムエスの身をしかと守るように。セドリック、手持ちのポーションを渡してくれ」


「はっ!」

すぐにマジックバックを手渡す転生少年。今できるのは素早いお手伝いだけだ。


子爵はそれを開けると、ポーションを抜き取り自分の鞄へと移す。


「もしものために、少し残してある。判断して使え」

「かしこまりました、どうかご無事でお戻りください」

「うむ。ヒムエスを頼むぞ」


そう言い残すと子爵と騎士たちは紋章に触れて消えた。


さすが子爵ともなると、決断も指示も的確で速い。

行くなら早いほうがいいだろう。


しかし、三十三階か。

手練れの冒険者でないと難しい階層だ。

子爵と騎士でも油断できない。

大丈夫だろうか。



さえ、留守組の我々はおぼっちゃまを宿に連れて行き、ひとまず待機。


「セディ、父上は大丈夫かな」

心配そうなおぼっちゃま。

迷宮用の運動着から部屋着に着替えてもまだ落ち着かないご様子。

そりゃあ気になりますよね。


「もちろんですとも、旦那様はお強いので大丈夫に決まってますよ」

元気づけるために、転生少年がカンスト魅力度でにっこり微笑んでもおぼっちゃまは心配顔。


そうだ、気分転換をしてもらおう。

「若様、今日、十階の宝箱に入っていたあの短刀を鑑定してまいります。ひょっとしたら良い物かもしれません」

心配なんかしてても何も変わらないからね。


「そうかな、そうだといいけど・・・」

「きっといいものですよ、では行ってまいります」

そう言って部屋を出る。

出かける前にお仲間の従士のぱいせんたちと警護の時間と順番を打ち合わせ。


すると先輩から「商店に行くなら、ちょっと買い物頼まれてくれない?」

迷宮都市には国中からうまい酒や食べ物が集まっているので、訓練の終わりに屋敷の連中から頼まれたお土産フードを買う予定だったとのこと。

見張りをしているので、お前、行ってきてお願い的な感じだ。

まあ、そんな場合ではないような気がするけど、案外、すぐに戻ってくるかもしれないしね。

まあいいでしょう。


ぱいせんからお土産リストが書かれたメモ紙をあずかり、町へゴー。


ちなみに鑑定は、お店に行かずに自前で済ますタイプです。

あるからね、鑑定スキル。

カンストのレベル20。間違いなく世界最高精度さ。


こそこそと宿屋外の人気のない路地裏で、『短刀?』に鑑定スキルをつかう。

使うと光るから周りに人がいないのを確認して、えいっ。


名称:素早さの短刀+1

攻撃力:6

効果:魔法剣、装備時DEX+1


おお、良品だ。

十階産にしてはいい効果ついてるじゃんか。

魔法剣効果があるから、霊体や幽体にも攻撃効果あるし、素早さが上がるのも良い。売るなら金貨三枚枚、買うなら金貨五、六枚くらいかな。

金貨一枚が日本円で十万円くらいの感覚だから、まぁ五、六十万円程度の価値ってとこだと思う。昔と相場が変わってなければね。

迷宮ではよく出るものだけど、庶民にはなかなか手が出ないクラスのアイテムだ。

片刃だから野外でも使いやすいし、貴族の子供が初めて装備する護身用兼、普段使いの武器にはちょうどいいと思う。


おぼっちゃま、喜ぶだろうな。


それから、メモに書かれた帝国産の香草入り燻製腸詰やら、燻製卵、蒸留酒につけた干果がたっぷり入った焼き菓子やらを買い込みお宿へ帰還。


戻りましたと皆に告げ、状況を聞くと、子爵様はまだお戻りでないとのこと。

迷宮の入り口で別れてから一時間くらいか。

まあ、そんな簡単には見つからないよね。


心配そうなおぼっちゃまのフォローのために、剣の練習や、カードゲームなどをお誘いするも、気もそぞろ。

ぜんぜん集中できてないご様子。

それもそうだろう。

かわいそうに。


結局、夕食の時間が過ぎても子爵は戻ってこなかった。

おいしいお料理は、一度下げてもらうことにした。


あれから三時間か。

ちょっと遅いよね。

従士たちも心配してるけど、おぼっちゃまを安心させるためにそんな素振りを見せないように打ち合わせ。元気にふるまう。

それから従士たち三人は三時間交代で、おぼっちゃまのお部屋の前で当直するように決めた。


おやすみ前のおぼっちゃまから直々に「父上が戻ってきたら起こしてね」とのこと。

けなげやのう。


当直一番手は僕。

お部屋の前で真面目に警備。

それから三時間たっても子爵は戻らずで、自分の番を終えた。

あれから六時間経過ってことだね。うーん。遅い。


こっそりおぼっちゃまの部屋をのぞくと、やっぱりまだ起きていた。

子供って、疲れると結構寝ちゃうもんなんだけど今日は全然寝れないご様子。

それを次の従士に伝えて交代。


待機の時間。

自問自答の時間。


うーむ。

どうする?

目立つようなことはできないけど、どうする?


悩む。

悩むということは、やるべきことは知っているのにやりたくないということだ。

この場合は、そう、転生少年が知識と経験を使って、迷宮で遭難中の伯爵令嬢と、令嬢を助けに行って二次遭難している疑惑がある我が主を助けに行けばいいのに、目立つことをしたくない、という二つの思いの狭間で悩んでいるのだ。


うーん。

まあ・・・行くか・・・行くしかないよな。

バレないように何とかやろう。

誤字などありましたらご指摘ください。

つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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