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第9話 魔法の迷宮へ

おぼっちゃまは七歳になって騎士となるための訓練を少しずつ始めている。


剣術はもちろんだが、馬術や礼法など、上級騎士の後継者として必要な学びに日々励んでいた。

おぼっちゃまのお気に入りの従者である転生少年ももちろんお付き合い学習。

そういえば馬術は前世でもやったことがなかったから新鮮な学びだ。

そのうちスキルも生えてくるだろう。

そうすれば優秀な騎士になれるー・・・。

だけどもやっぱり騎士にはなりたくないんだよね。兄にはああ言われたけども。

今世は平和に暮らしたいんだよ。


心ならずも騎士の訓練を続ける転生少年に、迷宮鍛錬のお誘いが来た。

騎士は、戦闘訓練の一環で迷宮に潜ることがよくある。


騎士見習いの僕は十三歳。

参加するには少し早いくらいなのだけれど、同年代より華奢な体つきにもかかわらず、剣の腕はそこそこ。

加えて落ち着いて冷静な性格であることを評価した子爵が、次の魔法の迷宮訓練部隊に参加できるよう手はずを整えてくれたのだ。


「セディ。お前ならまあ、間違いは起こらんだろう。しっかり鍛錬してこい」とのこと。

いやぁー。まいったね。


普通であれば大喜びではしゃいじゃうはず。

でもそうはならないのが転生少年。


今更、迷宮でモンスターを倒しても位階は上がらないと思うんだよ。

この世界では、雑魚敵を倒してもレベル上がらないシステムだしさあ。

前世で強い敵を倒しまくったカウントが今世の魂に残ってるみたいで、位階は初期の1なんだけど、少々強いくらいの敵では経験値が増えないのは昔に確認したんだよ。

何とかならんかな、マジで。


とはいえ、上司の命令を拒否するわけにはいかないので、ひと月ほどの遠征に同行することになった。


このファンタジーな異世界には迷宮がある。

不思議な存在で、何のためにあるのかわからないが、世界各地に散らばって、結構な数の迷宮がある。

いまでもたまに新しい迷宮が生まれることもある。


ずっと昔の偉い学者が調べたところによると、魔法の迷宮はどうやら半魔法生物なのだという。

地脈の流れがある場所に生まれるようで、地脈から力を吸収し年々成長し大きくなる。

魔法の迷宮の最下層には迷宮の心臓があり、それを破壊すると迷宮も破壊される。

破壊されるときに珍しい魔法のアイテムや大きな魔石を残すことがあるのでそれを目的に迷宮にもぐる冒険者も多い。


だが、迷宮の場所によっては領主に管理されていて、心臓の破壊が禁じられていることがある。

それは、迷宮に現れる魔物から魔石とアイテムが生み出されるからだ。


魔石は、電気で動く機械技術がないこの世界で、魔道具を動かすための電池のような扱いになっている。

魔石で作動する魔導器を作る技師たちが作り出した、明かりや料理用の加熱器、冷蔵保管庫、遠距離通話器など、便利な器具を動かすためになくてはならないものだ。


魔石は、地上では限られた入手方法でしか手に入らない。


珍しい宝石として掘り出されたり、人里離れた奥地に隠れ住む魔獣の体内から取り出すなどだ。

ところが魔法の迷宮では、第一階層の低レベルモンスターですら倒すといくらでも手に入れることができる、ごくありふれた資源だ。

ようは、領主たちが管理する魔法の迷宮は、電池を掘り出す鉱山のような位置づけとなっている。


それに、迷宮では魔法のアイテムが出現する。

魔法の効果が付いた強力な武器も出るし、珍しい魔導器や、たちどころに傷や病気を治すポーションまで出る。

昔の偉い学者の調べでは、「魔法の迷宮は、地脈から力を吸い取り、魔石やアイテムを作り出す、生きているかのような動きをする、とても大きな魔道器」と言えるらしい。


そんな素晴らしい魔法の迷宮は、魔石と宝をもたらすだけではない。


地脈から力を吸い取っているせいか、魔法の迷宮の周囲の大地の力が弱まるという調査結果がある。

具体的には、迷宮の周りには精霊が寄り付かないし、生き物が生まれる数が減る。

それは人間だけでなく家畜も、植物も、子供ができにくくなるのだ。


なので、魔法の迷宮は街や畑の周りにはないし、もしも人里の近くに発生した場合は速やかに討伐される。

そういった理由で魔法の迷宮の多くは、人里から離れた岩山などに発生したもの魔石鉱山として利用し、管理している。


そんな、なくてはならない、不思議な存在である迷宮は、だれが何のために生み出したのか、いまだに解明されていない。


不思議なことに迷宮にはモンスターが生まれてくる。

内部で種が繁殖しているのではなく、突然、床から発生するのだ。


それらは、地上にいる生き物を模した形のものもいるし、迷宮にしかいない特別な種もいる。

そしてそれらは、地上に住む一般的な生き物と違い、迷宮に訪れた侵入者を攻撃し排除しようとする。

見た目は知性ある生き物であっても、いかに戦況が不利になっても逃げることはほとんどなく、死ぬまで戦おうとする。

人間や、それに近い種のモンスターもいれば、地上で見かける魔獣や竜のモンスターも存在し、それらは元になっている種とはまるで違う思考をする。


冒険者に討伐されて死んだモンスターたちの死体や衣服はすぐに床に消え、魔石と、時にはアイテムや宝箱だけを残す。

地上に住む生き物は、魔獣も含めてそんなことはない。死ねば死体を残す。

死体が消えるのは魔法の迷宮だけの特別な現象だ。


魔法の迷宮では、無限に湧き出る敵が現れ、魔石や財宝を残すだけでなく、死体の処理が不要である。

中で生まれ出るモンスターを数多く倒すと魂が成長する魔法の迷宮は、冒険者だけでなく、騎士や兵士の訓練にもうってつけだ。

王家はもちろん、貴族たちも実利のある訓練として自らの兵を定期的に送りこんでいる。


来週から子爵の騎士たちと行く迷宮は王都から二日ほど離れた山の中にある古い迷宮で、実は前世で潜ったことのあるところだ。


ローランド王国最大の迷宮ナナス。

懐かしいね。ひさびさや。


まあ、どうせ僕の位階は上がらないから騎士のアニキたちや従士のぱいせんを頼って適当に過ごそう。


そう思っていたら事件発生。

ぼっちゃまから突然の参戦表明だ。


「セディが行くならぼくも行きたい!」

普段は素直なぼっちゃまが、ここへきて七歳児らしい駄々っ子に大変身。

今回は子爵や奥様がなだめても絶対行くと言ってきかない。

泣いて騒いで大暴れだ。


困り果てた子爵に転生少年から「ここは、わたくしが参加を控えまして、屋敷に残ってはいかがでしょうか」と申し出るも、あえなく却下。


「それはいかん、お前は迷宮に行って鍛錬せねばならん」


あっ、さよでっか。

ちぇっ。心の中で舌打ちである。


じゃーどうすんのよって思ってたら結局、ぼっちゃん参加決定で、急遽、子爵も参加するとのこと。


「わがままはいかんのだが、覇気があってよい。まだ七歳だが見どころがある。直々に指導してやろう」

子爵からは明らかな親バカコメントをいただきました、ありがとうございます。


そうと決まればさっそく出発。


騎士と従士と召使からなるペスナリス子爵のご一行は迷宮町ナナスへ。

僕は見習い従士とはいえ、一応、子爵のご一族という枠で子爵とおぼっちゃまと一緒に馬車に同乗させていただいた。


まだ乗馬が未熟だったという理由もあるかもだけど。

誤字などありましたらご指摘ください。

つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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