プロローグ
週末にゆっくり書いています。
高橋広樹は普通の会社員だったが、あるとき異世界に転生した。
急に放り出された新しい世界の文化や風習になじむことができず、大変な苦労をしたが、やがて魔法を習得し、周りの者にも恵まれ幸せに過ごすことができるようになった。
彼は魔術を極め、普通の人間よりも長い人生を生きることになった。
彼が転移した世界では、彼と同じ人間族は、彼の元の世界とは違い大きな勢力ではなかった。
竜族や魔獣など人間を餌とする強い生き物だけではなく、同じ人類でもオーク族や獣人族をはじめとした強い力を持った上位の人類が跋扈していたのだ。
あるとき、その世界の北の大陸の真ん中でとても大きな火山の噴火が起こった。
それは、その地域を火の海にして多くの生き物の命を奪っただけでなく、噴き上げた大量の塵が幕のように星を覆った。
星の地表に降り注ぐ、命をはぐくむ光が遮られ温まらず、それまで沢山の生き物の命を支えてきた植物の実りが大きく減ってしまった。
それは一年では終わらず、二年、三年と続いたため、ほとんどの生き物は飢えることになった。
竜も魔獣も自分たちより小さな生き物を襲い、血を啜った。
魔族や獣人族と人間族は、それまで多少の争いはあったものの、平和を保っていた。
個の力で勝る獣人達と、数で勝る人間族が本格的に争うことになれば、あっという間に勢力を失い、竜族や魔獣に対抗することができなくなってしまうことが分かっていたからだ。
しかし、未曽有の食糧不足を受け、魔族と獣人族の王たちは連合して、自らの民を救うため、最も数が多く、最も広い領地をもっていて、そして最も弱い人間族の土地に攻め込むことを決めた。
五十万の軍勢が食を求めて人間の領土へ向かって進んだ。
それはオーク族もゴブリン族も、犬人族もエルフ族もみな一族全員が兵士となって、全員が死に絶えなければ止まらない行軍であった。
北の大陸の西部の東のエピラネ平原で両軍が対峙した時、敵軍に対する人間の軍勢は、相手の半分以下の二十万にすぎなかった。
人間族は個で勝る敵軍に、数でも劣る軍勢しか集めることができなかった。
人間族は、この未曽有の食糧危機に対し、愚かにも人間族同士で食料を求め争い、すでに自らの兵士を減らしていたのだ。
その時、地球から来たヒロキは人間の寿命をはるかに超えて生きていた。
彼は既知の魔法を極めた後は、古代の魔術を復活させ、その恐るべき魔法技術で空に浮かべた城の中で、美しい后たちとともに、魔法の研究に没頭して過ごしていた。
彼は、この決戦の時まで戦いからは距離を置いていた。
彼が空の城で静かに暮らす中、情報の魔法で知らされる各地からの報せは悲惨なものばかりだった。
人間の村は焼かれ、食料を奪われた。その食糧には当然、人間も含まれていた。
彼らの軍が通った後には人も動物も何も残るものはなかった。
彼は悩みに悩み、人間族の全滅がかかった決戦の最中、まさしく土壇場で、ついに自らが作り上げた空飛ぶ城を両軍が激しく争う戦場に移動させ、中央に陣取る、最も勇猛なオーク軍の真ん中に城を降下させた。
戦場に現れた大魔道士ヒロキは、星が震えるほどの雷を呼び、オーク軍の進軍を止めた。
彼の城からは幾万のゴーレム兵が現れ敵軍に襲いかかり、彼の妻で強力な魔術師として名高い四后は空を駆け、見たこともない魔術で敵軍を吹き飛ばした。
大魔道ヒロキの援軍で、劣勢だった人間族の軍は息を吹き返し状況は拮抗した。
そして互いを殺し合う死闘は三日続き、ついに、王や族長をすべて失った連合軍はちりぢりに逃げ去った。
勝利した人間族は、危機を脱したが、多くの犠牲を出し、今よりもその生存領域をずっと狭めることになった。
そして、その戦いで、大魔導士ヒロキは命を失った。
ゴブリン族の大神官達とエルフ族の女王を打ち破るためにすべての力を使い切り最早、息をする力さえも残していなかったからだ。
ヒロキは、戦場から逃げ去る敵軍を見た後、これまで自分を支え、最後までともに戦った愛する四人の妻に、感謝の言葉と財産を与えてから、静かに息を引き取った。
彼の心臓が鼓動を止めると、その魂は光に包まれ天へのぼった。
四人の妻はそれを見て涙した。
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つたない文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。