表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

先代王妃は静かに見ているだけ

作者: カルリン

「サラ!お前との婚約は破棄する。何故ならお前はクソ女だし、私はシモーヌを愛しているからだ!」



 こんな宣言を貴族学校の卒業式にしてしまったのは私の孫である王太子二コラ。



 おやおやお盛んなことだけど、お盛んが過ぎて、私の息子である陛下などがいる前で公式行事でこんなことをしちゃうなんてどうなることだか……




「二コラ様、このような場でそのようなことを言うのは非常識ではありませんか?さらに浮気を堂々と宣言されるなど、私への侮辱にもほどがあります!」




 おやおや、サラも負けずにちゃんと言い返すものね。これはどうなることやら……





「黙れ!お前のそういうクソ生意気な態度がクソ女なんだ!お前ごときが私と対等ぶるなど100年早いわ!」




「いいえ、対等ではありません、こんな失態をするアホ王太子様と私が対等のわけあるわけないでしょう!」





 2人の若者の言い合いに立ち上がったのは、私の息子である陛下……





「二コラ!お前は王家の恥さらしなことをしたいのか!サラの言う通りではないか!王族の恥さらしをしたいのか!」




 さらに息子の妻である王妃も言う。




「そうよ、貴方はサラさんの気持ちも考えないで、そんなものが王になどなれません!」



 むしろ王妃のほうが怒っていますわね……





「そんな父上、何故そうも弱気なのです!おじい様……先代国王はもっと強い王だったじゃないですか!私もそれを目指しているのです!」





 ……二コラ貴方が私の亡き夫である先代国王に憧れているのは知ってますけどね、明らかに貴方は浮気と言う自分の欲望のダシにするために、それを言っていますよね?




「黙れ!今は時代が違う!」




「そうよ、陛下の仰る通りだわ、今は貴族と協調する時代なのです」




 王妃のこの価値観と、息子の父へのコンプレックスが一致して、2人とも貴族との協調路線になったのでしょうね……




「陛下、王妃様ありがとうございます、私の正当性を認めて頂いて……」




「父上は何故家臣ごときにそこまで卑屈になるのです!王失格です!ということで、私は堂々とシモーヌを王妃にすることにします!」




「たわけが!お前のような奴は廃嫡だ!」




「え?陛下それは待っていただけませんか?」




 おやおや、二コラは王妃の唯一の息子だから、ここで意見が割れるのですか。




 なるほど色々混乱してるわね……




「え?だってこんな奴を王太子にしておくわけにはいかぬぞ」




「二コラだって反省できるはずです、だからそれは待ってください!」





 ……王妃も自分の私利私欲で動くようではまだまだ……





「……だがこれではサラやサラの実家の公爵家に申し訳がたたないぞ」





「だからそこは二コラに謝らせて婚約破棄をやめさせれば問題無いはずですわ!」




「いいや私は謝らないぞ!何故ならシモーヌこそ王妃に相応しい!サラみたいなクソ女と一緒に王などやっていけぬ!」




「私だってこのような屈辱の中王妃なんてやってられませんわ!二コラ様との婚約破棄の慰謝料たくさん頂きますからね!」





「サラよ……王家だって潤沢な財政はしておらぬ、二コラに処罰は与えるから慰謝料はあまり出せぬぞ……」




「陛下!それでは私の無念は晴れませんし、お父様だって許さないと思いますわ!」





 なんてことでしょう、それぞれ言い分が違いすぎて、四者バラバラ……




「サラ!もう一度二コラのことを許してあげるのよ、私がもうこんなことを許さないから!」




「いくら王妃様に言われたって無理なものは無理です、私はこんな屈辱の中折れませんわ!」





「何が屈辱だ!貴様ごとき臣下の身でありながら不遜にもほどがある!母上はこんなクソ女との関係をまた続けろと言うのですか?」





 あまりに収まらない事態を見て、私はつい素朴な疑問が浮かんだ……





「おほん、私1つ疑問があるのですが、よろしいかしら?」




 滅多に発言をしない私にみなびっくりする……




「母上一体疑問とは?」




 4人とも困惑そうに私を見る……





「……そのシモーヌさんはこの現状について、どうしたいとかはどう思っているので?」




 私は疑問だったのだ、何故なら私ならばこんなすっちゃかめっちゃかな状況の王妃に、

 好き好んで飛び込みたくはない。


 しかし二コラを心底愛しているのなら別であろう。それならば覚悟が決まるはず。



 ということで、シモーヌがどう思っているのか純粋に気になったのだ……


 余計なお世話かしら?




 隅のほうで顔を引きつらせていたシモーヌ男爵令嬢は言う……




「あ……あのですね、恐れながら、私二コラ様から口説かれて浮かれていただけで、こんなことになるなんて何も分かっていない頭の悪い令嬢でした、申し訳ありません……」





 そういえばシモーヌさんは元平民でしたが、男爵が平民との間に作った子供で、母の死後認知されたっていう子でしたわね……



 なるほど、だから単純に王太子様に口説かれちゃった、嬉しいし家にとってもいいみたいな単純な見方をしてしまったのですね……





「申し訳ないで済むか!おかげで二コラがお前に惑わされただろうが!」



 陛下は激怒していますが、私はシモーヌさんにそこまで別に腹も立たない。




「男爵令嬢ごときが関われる世界じゃないって分からなかったのかしら?弁えなさい!」



 王妃はこのように言いますけどね、貴方は王妃と言う身分をはき違えていますね……




「貴女が二コラ様を誘惑したのがすべての原因よ恥を知りなさい!」



 サラは一見正論を言ってるようですけど、やはり婚約者が他の男に惹かれたことが許せないって感情があったみたいですね……




「そんなシモーヌ、私の事は愛していないのか?」




「……ごめんなさい、単に浮かれていただけだと思います、こんな中王妃になりますって言えるほど、私は強くないみたいです」



 ……私は個人的に思う、陛下も王妃も二コラもサラも問題だらけだ、それを思えばこの庶民的な正直さがあるシモーヌが一番マシにすら思えるのである。



 単に無知なだけだったのだから。



 その辺り根本的にあの4人は勘違いをしている……




「ええい!こうなったらシモーヌを処刑にして丸く収めるしかないのではないか?」




「それがいいですわ、シモーヌのせいで二コラは騙されていた、それでサラさんも納得して下さるかしら?」




「……不本意だけどそれで私の不名誉が回復するのなら、譲歩は考えますわ」




「ふん、私についてこないのならシモーヌなどいらぬわ!」





「……どうかどうかお許しください……」




 泣いて謝罪をするシモーヌが可哀そうだったとかは無い。


 この世界無知だからって許されるわけはないのだから。



 しかし無知じゃないにも関わらずはき違えた上に、シモーヌ1人を人身御供にする4人に、私はついに静かにしていられなくなった……





「シモーヌを処刑して丸く収める何て本気で思っているのですか?」





「母上どうしました?シモーヌなど別に処刑して構わないでしょう。それで丸く収まるのなら……」




「だまらっしゃい!」




 私の剣幕に会場にいたすべての人が震えあがる……




「まず陛下何ですか?貴方のそのいくじのない様は!」





「母上、私は国王です、このような場でそのような振る舞いは許されませんよ」





「見せかけだけの権威しかないから、貴族などに舐められて協調路線なんて寝言を言うのです!」




「……しかし貴族との協調は大事ではないか、王たるもの貴族の支持なしには何もできない!」





「お黙りなさい!私も年寄りじみたことは言いたくなかったから今まで言って来ませんでしたけどね、私の夫はそれはそれは王としての覚悟がある方、そのせいで私は何度も泣きましたけど、それは王であるため故だと分かっていた、その先代国王は、王家のために貴族と協力することはあっても、貴族のために妥協をしなかった!貴方は目的と手段をはき違えている!」





「だから母上そういう時代じゃないのです」




「そういう時代とかではなく、あなたが情けないだけでしょう!次!」




 私の剣幕にみなは震えあがっているようだ。




「王妃!貴女にも問題があります!」




「ええ?私ですか!?」



 急に名指しされた王妃は明らかに動揺した顔をしている。




「貴女は所詮は貴族の女なのよ、王妃でも何でも無い!」




「……お義母様、仰る意味が分かりませんわ」




「貴女は二重の意味で貴族の女、王というのは目的のためなら貴族を弾圧してでも達成するのが王なのです、貴方は先代王を貴族いじめをするみたいな風にしか見ていなかったのでしょう?幸い国外国内共に現状問題が無いから助かっているだけ!それもこれも先代王が外敵を打ち破り、国内の悪を取り締まったからでは無いか!」




「さらにもう1つ、貴女は自分の息子を王太子にしたいという欲望を王家の事情よりも優先させている、これも貴族の女止まりである理由よ、王妃ならば一番有能な子が自分の子じゃなくても支援するくらいじゃないと駄目なのよ!」




「……ですが……」




「ですが?」



「いえ、何でもありません……」




「次、サラ!」




「は……はい……」




「貴女は浮気されたのを怒るのは分かるわ、でもね、その感情をさも正論ぶって貴族の論理で王家に文句を言うとは何様です!貴女は所詮子供なのよ発想が!」




「そ……そんなことありませんわ……」




「じゃあ何故自称王妃になるのに相応しいらしい貴女が、自分の家のことばかり考えた慰謝料などとほざいているの!二コラとはやっていけない、そう思うのは女の心境として分からなくはないわ、でも王家なんてのは後継者が必要なものだから、王妃の論理ならば愛人だって受け入れないといけないことを、貴女忘れてないですか?」




「でも私は婚約破棄されたのですよ?」




「だからその怒りは分かるわ、だからって調子に乗って王家にまで仇なそうとするとか何様ですか!貴女が怒っていいのは二コラの愚かな振る舞いだけよ!」




「……」




「流石お婆様だ、どいつもこいつも先代陛下の考えを理解しない馬鹿者だったからな、やはり私が王太子に相応しいのだ」




「だまらっしゃい!」




「え?」




「二コラ……貴方が一番論外よ、私の夫を浅い考えで侮辱するの、やめて頂けないかしら?」




「そんなお婆様どういうことですか?」




「貴方は所詮は王太子としてやりたい放題したくて、見せかけだけ私の夫の真似をしているだけ」




「そんなことはありません」




「では貴方は先代王のように、兵士と共に苦労を厭わずに、民の生活が苦しまないようにしようとか考えたことが一度でもありましたか?無いでしょう!陛下が貴族に時に容赦が無かったのも、戦い兵や税を納める民の大事さを理解していたから!」





「でも……」




「でもではありません!そんなことが理解できないから、自分達の都合だけでシモーヌを処刑して丸く収めようってので4人が同意しているのです」




「お婆様はあんな身分の低いものを庇うのですか?」





「言っておきますけどね、シモーヌさんが無知だから許されるなんてのは王の世界では無いんです。でも知っていながら間抜けなことをしている貴方達4人のほうが罪が大きいと言ってるのです!」




「……では母上どうしたらいいのですか?」




「あら?普段私を年寄り扱いしておきながらこういう時だけ頼るので?意地悪を言いたくはないけど、私も自分で小言を言うのは年寄りだからと避けていましたけどね、ならば私の言うことに全部従えるのです?」




「そんなお母様無理を言わないで下さい……」




「ならば貴方は王でしょう!貴方が一番情けないから、今回二コラは問題を起こしたそう思いなさい!」




「申し訳ありません……!」




「それから王妃にサラ、貴女達は王家に関わるのなら貴族の価値観は捨てなさい!私もはっきりいって、先代陛下の容赦の無さには散々泣きましたわ。嫌ならば辞退なさい、それくらいの覚悟をなさい!」





「……申し訳ありません」




「それから二コラ、貴方は潔く王太子を返上なさい、無能が王になっていいものではありません!」





「そんなお婆様!私だけ酷くないですか?」





「では聞きます、貴方はこんな婚約破棄の仕方をして上手く行くと思っていたのですか?」




「私は王太子だから通るはずです!」





「その程度の見識の馬鹿が王になったらこの国の終わりですわ」




 私の意見に皆も納得の顔だ……




「え?え?そんな!?私はただおじい様の真似をしただけで……」





「夫がそんな馬鹿なことをするわけないでしょう!馬鹿なことってのは貴族の常識に反するって意味ではなく、成功もしないアホなことはしないって意味です、王の世界で無能は罪なのです、貴方は庶民にでもなったほうがマシね!」





「……私が庶民なんて嫌ですよ」




「……私も孫はいじめたくないわ……でも貴方は政治にかかわるほうがむしろみんなが不幸になるの、貴方自身もね。だから野心は捨てなさい……」





「うう……」




「でも母上、ならば王太子とかどうすればいいのです?」




「貴方さっき廃嫡とか言っておきながらそんなことも考えていなかったの?」




「……すみません」




「……私が第五王子のトーマスを可愛がっているのは知っているでしょう?あの子はまだ5歳にも拘らず、賢い子よ、あの子が順調に成長するのであれば、後継者にするといいわ……」





「トーマスですか?5歳ですよ?」





「……王になるのなら人を見る目を養っておきなさい……あの子はきっと良き王になれる資質があるわ、幼いながらに難しいことに疑問を持てる子なのだから……」





 こうして二コラは廃嫡となり、トーマスが暫定的に王太子になった……




 私はトーマスが亡き夫の雰囲気に一番近かったから可愛かっただけなのだが、



 まさかこんなことになるなんて、二コラがこれも問題を起こしてくれたおかげかしら?





 後私が反省しないといけないのは、もう年だからってことで任せる気になっていたけど、


 至らないと分かっているのなら、もっと言うべきでしたわね……


 まだまだ4人とも子供だったのだから……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあまあ丸く収まったようだけど、シモーヌ嬢はどうなったのだろう。まさか処刑などとはならないと思いたいけど、国王夫妻に嫌われたわけだしな。あんまり良いことはなさそうで気の毒だな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ