64 新たなる旅路
四年が経った。
セレスは今も変わらず、制御室の黒い金属製の椅子に座ったまま、塔の制御デバイスとして稼働し続けている。
“セレスとして”の再起動の目処は、いまだ立っていない。
けれどハルトは、迷いなく言った。
「風は止まらない。だから、きっとまた目覚めるよ」
彼女の頬にそっと手を当て、その温もりを確かめる。
──そのとき、たしかに彼女が、こう囁いた気がした。
「……そのとき、わたしは……“命令に従うだけの機械”じゃなくなっているでしょうか?」
「もうなってるよ。だって、セレスは大切なこの街の“仲間”だ」
ハルトの答えに応えるように、セレスの閉じた瞳が──ほんの一瞬、かすかに震えたように見えた。
外套を翻しながら、発掘隊の指揮を取るハルト。目指すは東の大遺跡。
その為に、発掘隊を育てあげ、北の遺跡を肩慣らしに、実力をつけてきた。
もし道中、生き残った人間の集落を見つけたなら、経済圏への加入の打診と通商路の開拓へ。
セレスが遺していた、膨大なデータログ。
そこに記された記録を、一流の技術者たちが読み解きながら、塔の管理維持に努め、壊れたコンピュータの復旧へと挑んでいた。
ハルト自身も、この四年の間で科学への理解を深め、今ではその技術者たちと肩を並べて働くようにもなっていた。
ハルトが大遺跡で探しているもの──それは、失われた制御基盤。
必ず見つけ出し、彼女ともう一度、話すために。
技術者たちに見送られながら、一団は塔を後にする。
ジノーとヴィータの幼馴染カップルは無事に結婚し、一人の男の子が生まれた。
名前は──なんと「ハルト」だ。
今やウィンドリムの新生児が「ハルト」だらけという有様で、笑い話にもなっている。
ルウォンも最近、料理の上手な彼女ができたと浮かれている。
彼によく似た、恰幅のいい、優しい女性だ。
ラヤと僕は、男女の関係になった。
とはいえお互い、恋愛に関しては不器用で……今回の旅も「危険だから行かないでほしい」と、彼女に泣きつかれて、少し喧嘩になってしまった。
──四年前には「行ってこい」なんて、言っていたくせに。
暫く帰れない旅だから、喧嘩したまま出発は嫌だなと思うけど、そういうところも、彼女らしいと微笑ましくも思う。
けれど彼女は、ちゃんと──見送りに来てくれていた。
南の大通り。
荷馬車が行き交う大きな門の前に、彼女は立っていた。
こちらに気がついて、駆け寄ってくる彼女を、片膝をついてぎゅっと抱きしめる。
「行ってくるよ」
耳元で囁いて、そっとキスをする。
涙を浮かべた彼女の頬に手を伸ばし、そっと涙をぬぐい、安心させるように微笑む。
「隊長、熱いですね」
歳の近い部下たちにそう茶化されても、構いはしない。
四年前とは違う。
もう大人と子供くらいの身長差になってしまったから、立ち上がると、彼女の頭はちょうど手を乗せられる高さにある。
癖っ毛の金髪は、もふもふしていて、とても撫で心地がいいのだ。
「ハルト、お腹の子の名前……何がいいかな?」
「……は? え? ちょっと待って? え?」




