63 復興
それから時が経ち、復興が進んでいく。
コレクターのガラス面を磨き続ける掃除ロボットたちは、百年以上も働き続けていた。
なぜそれほどの長きにわたり簡素な作りのロボットが稼働し続けてこられたのか。
そして、セレスがいなくなった今、なぜ次々と停止していくのか──誰にも答えはわからなかった。
修理をするため、コレクター清掃ロボットのリバースエンジニアリングも進められているが、まだまだ解析には時間がかかるらしい。
コレクターは定期的に清掃して透明な状態を維持していないと、発電効率が低下するらしく、コレクターの清掃のために人手が必要になった。
ラヤたちハレカゼ商会は若い人材をたくさん雇い入れ、セレスに変わりソーラーアップドラフトタワーの維持管理の仕事を、中央庁電力科より請け負っていた。
それにともない商会規模も大きくなって、特二等から正式に二等商会に昇格した。
街への貢献度の高さから、特一等商会への昇格の話も打診されているらしい。
ウィンドリムの子供たちの間で、弓矢が大流行した。
最初はハルトからすれば笑ってしまうような品質の弓だったが、職人気質の高いウィンドリムの商会たちは競うように改良を重ねていき、今ではハルトが自作できる弓よりも、使いやすく精度が高い弓が量産されるようになっていた。
矢も質の良いものが大量に作られ、ハルトは矢をわざわざ自作せず、買えば済むようになった。
ラヤの発案で、北区にハレカゼ商会所有の弓道場が作られ、毎週日曜日にはハルトの弓矢教室が開かれた。
ハルトは子供たちに弓の引き方や心構えを教える。ラヤは儲かると笑っていた。
そんなことをしていたせいか、子供たちからは羨望の眼差しで“ハルトお兄さん”と呼ばれ、子供たちの間で大人気になっていた。
ジノーには「英雄さんは大変だね」と笑われた。
英雄だなんて……本当にそうなのだろうか。
もしもセレスがいたら、暴力に暴力で答えたハルトになんて言っただろうか──そんなことを、ふと考えてしまう。
命こそ奪わなかったが、ハルトはセレスの思いを裏切り、ヤマじいの教えに背いて、人に矢を放った。
その事実は変えようがなかった。
崇高な事を語り、ウィンドリム経済圏の村を次々と火の海にしてきた狂信者の集まり、灰の使徒。
しかし、やってることは、ただの強盗と変わらなかった。
灰の使徒たちは、文明を否定しながら各地の村を襲い、食糧を奪い、暴力をふるい、火を放ち、次の町へ移っていった。
ウィンドリムが、その最終標的だった。
彼らに正当な裁きを下すべく、街では陪審員制裁判が行われた。
裁判開始から三ヶ月後に、灰の使徒たちには終身刑が言い渡された。
ウィンドリムにはもともと刑務所など存在せず、急ごしらえの檻が建てられた。
科学を否定する彼らに、文明による衣食住で生きながらえなければならない状況は、おそらく耐えられない苦痛なのだろうと、ハルトは思った。
ハルトには、今のアップドラフトタワーは、少し広く、少し寂しく感じられた。
風に乗って、セレスがいた頃の記憶が、そっと胸に戻ってくる──。




