表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/65

59 それでも

 痛みを必死に堪えて、ハルトはゆっくりと立ち上がった。

 肋骨が折れたらしく、息をするのに合わせて鋭い痛みが走る。

 それでも、構わずにハルトは叫んだ。


「お前ら、突然やってきて……なんでこんなことするんだよ!!」


 それを眺めていた男たちだったが、数珠を手にした痩せこけた男が、口を開いた。


「私たちは、君たちを救うために来たんだよ」


 そう諭すように言い、続ける。


「文明を取り戻そうとするなど言語道断。科学とは人間が手を出してはいけない禁忌の力なんだよ」

「この塔は破壊されなければならないんだ」


「……これは救済なんだよ。少年」


 眼孔の落ち窪んだ男の顔には、柔和な、優しそうな笑みが溢れていた。


「意味が、わからないよ……!」

「やれやれ。科学は便利で、まるで生活を豊かにするように感じるかもしれないが、それはまやかしだ」


 男が首を横に振る。

 まるで演劇の演者のように、腕を掲げて続ける。


「科学はまるで魔法みたいだとは思わなかったかい?」

「科学が行き着く先は神の領域で、それは世界の破滅を引き起こすんだ」

「神はそれを危惧し、行き着く前に大崩壊を引き起こして、人類に過ちを見直す機会を与えてくださったんだ!」


 語るにつれてだんだんと熱を帯びる演説。

 うっとりとした男の目は、異様なほどにぎらついていた。

 そして、その瞳が、セレスに向けられる。


「その神の御心を無碍にするこの街は、同じ人間による祈りの火で焼かれなければならない……!」


 そこまで言うと、痩せこけた男は左手で再びセレスの髪を掴んで顔をあげさせ、腰に下げていたナタを右手で鞘から抜き放った。

 磨かれていない、鈍り、刃こぼれしたナタが、警告灯の赤い光を反射する。


「……勝手に神の声を語るなよ……!」

「……なに?」


 男は視線をハルトへと戻す。

 その表情は先ほどまでとはうって変わって、憎しみに満ちているようだった。

 ハルトは怯まずに、男たちを睨みつけた。


「お前らが壊そうとしてるのは、僕たちと……ウィンドリムに暮らすみんなの暮らしだ」


 ハルトは途切れそうになる意識を繋いで、吼えた。


「人類の再興のための、ほんの少しの希望の光なんだ!」

「それを──なにが救いに来ただよ!! 奪いに来ただけじゃないか!!」


 一歩、ハルトは前に足を踏み出す。


「科学が魔法みたいだって? ああ、そうさ。でも魔法みたいな科学を恐れて火をつけるなんて、それはただの臆病者のやることだ!」


 また一歩、しかし確実に。


「僕は、僕の目でちゃんと見て、考えて、選ぶ」

「神が科学を否定するっていうなら……そんな神様のほうが間違ってるって、僕は言ってやるよ!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ