表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/65

52 襲撃

 街の灯りがぽつり、ぽつりと消えていき、街灯だけが静かに灯っていた。

 それを見下ろし見守るかのように、巨大な塔は赤く明滅を繰り返していた。

 夜も更け、深夜の静けさに包まれた街を、冷たい風が吹き抜けていた。


 物流を担う商会の、大きな建物の立ち並ぶ南側の大通りは他の大通りよりも幅が広い。

 終わりにある門の柱も、大きかった。

 そこに、普段は姿を見せることのない門番が二人、立っていた。

 黒い制服に白い腕章をつけた、自警団の団員だった。


「さっぶ……本当にそんな輩が来るんですかね?」


 と若い自警団の男が、隣に立っている歳上の団員に尋ねる。

 若い団員はポケットからタバコを取り出して、年上の団員に一本差し出す。


「お、サンキュ」


 歳上の団員が咥えると、手を風除けにして青い炎の灯るライターでそのタバコに火をつける。


「……さあな、商会連がギャーギャー騒いでるようだが、来たら俺たちが守る、ただそれだけよ」


 最初に深く煙を吸って吐き出してから、歳上の団員はそう言い聞かせるように言った。

 若い団員もタバコを咥えて火を灯して、煙を吸い込む。

 自警団は、昨夜から、少ない人員で街の警備を担っていた。

 商会連からは無茶苦茶な警備計画を提出されて、幹部たちと商会連が衝突したらしいが、末端の彼らには関係のないことだった。

 割りのいい臨時手当が出ることくらいにしか、興味がなかった。


「ん……なんだ? あれ……」


 年上の団員が指差す。

 遠くにぼんやりと灯りが灯っていて、それがじわりじわりと近づいてきているようだった。


「え……僕には何も見えないですけど……」

「よく見ろ、あっちだよ」


 若い団員も目を凝らすが、見つけられない。

 しかし灯りはゆっくりと、しかし確実にその数を増やしていく。


「……あ、確かに、なにか……灯り?」


 灯りはそれぞれがばらけて散っていく。

 目を凝らしながら二人は不思議そうにそれを眺めていた。


 ここからでは、遠すぎて何が起こっているのか、いまいちよくわからなかった。

 警笛を鳴らすか、鳴らさまいか迷いながら、二人はそれを見守っていると、急に一際大きな灯りが灯った。

 そしてその灯りはどんどんとこちらに向かって近づき始める。

 遠くから蹄の音が響いて、馬が走っていることがわかった。

 目を凝らす二人組の手にしたタバコは、火だけが虚しく揺れ、すでに半分以上が灰と化していた。


「あ……あれは!?」


 若い団員が叫ぶ。

 こちらに向かって駆けて来る馬が引いているのは、炎に包まれた馬車だった。

 火の粉を撒きながら、猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 フィルターだけになったタバコを投げ捨て、腰の警棒を引き抜いて二人の自警団員が構える。

 けれど全力で走る馬相手ではどうしようもなく、二人は咄嗟に飛び退く。

 嘶く馬は火から逃れようと全力で駆けていく。

 街の中へと向けて、火のついた馬車が駆け込んでいってしまう。


 二人はあまりのことにあっけに取られていると、

 背後からガリガリと何か擦れる音が聞こえて咄嗟に振り向いた。

 街灯の灯りに照らされて、一人の人影がゆらゆらと揺れていた。

 どうやら、燃える馬車に捕まっていて、手前で飛び降りたようだった。

 その男は、黒いフードをかぶっていて、右手に何かを握っていて、ひきずっていた。

 それが石畳を擦るたび、ガリガリと耳障りな音が鳴った。


 二人は警棒を前に突き出してその男と対峙する。

 引きずっていたそれは、血がこびりついて、赤黒く染まった斧だった。

 若い団員はその異様に、足がすくんで震えていた。


「神に変わり我ら灰の使徒が執行を行う……神に祈りを」


 斧を引きずる男は、左手で胸の前で祈りの所作をして、そう呟く。


「神に祈りを──」


 再びそう呟いた瞬間、斧がゆっくりと持ち上がる。

 その刃先には、赤い光が鋭く反射していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ