4 オークション
“オークション”とは、いったい何なのだろうか? 小さな顔を見つめながら、知らない言葉にどう反応していいのか分からず固まっていると、
「ただいま戻りましたー! 無事、契約取れたっすよー!」
「ほんっと空気読めないって武器よね……私は冷や汗もんだったわよ」
二人組の男女が、店に入ってきた。
赤毛で短髪の快活な若い男は、あまり筋肉質ではなくすらっとしていて、肌の色は陽に焼けたみたいに黒っぽかった。
やんちゃそうな雰囲気のこい茶色の目はすぐにハルトを見つけた。
隣の若い女は、栗毛色の細い髪の毛を男のように短髪に切りそろえていた。
短髪だが、目鼻立ちのくっきりとした顔つきや、女らしい体つきから、女性だとすぐにわかった。
女は髪が長い、という固定観念のあったハルトは衝撃を受けたが、その髪型は彼女に似合って見えた。
二人とも、同じ意匠のしずく型の耳飾りをつけていて、男は左耳に、女は右耳につけていた。
「おかえり二人とも。こちらは本日のお客様の、ハルトだ」
そう言ってラヤは椅子に座り直しながら二人にハルトを紹介した。
「もう噂話は聞いてるよ、ジノーだ。よろしくハルト。ハレカゼ商会の営業をしてる」
ジノーがローテーブルの前まで来て手を差し出す。
ハルトも立ち上がり、握手を交わした。
「うわー、こりゃすっごい。みんなオークションだってはしゃいで銀行に押し寄せてたっすよ?」
椅子に座りながら、テーブルに並べられていた、ハルトの持ってきたアーティファクトをしげしげと眺めて、先の2人と同じようにジノーも楽しそうに呟く。
「またフカシだったら今度こそウチの評判落ちますよ? ヴィータよ、よろしくね」
目を細くして、視線だけラヤに向けながら若干呆れ気味に小言を言ったヴィータが前へ出て、ハルトに手を差し出してきた。
ハルトはその手も握って応えた。
「へぇ、まだ子供なのにすごいわね……本当に今夜開催するの?」
「もちろん今夜だよ! 今夜オークションを開こうハルト!」
ヴィータはジノーの隣に腰を下ろして、同じくテーブルのアーティファクトを眺めて感嘆し、ラヤに聞く。
ラヤは自信満々にヴィータの心配を吹き飛ばすように言った。
自然と、その場の全員の視線が、ハルトに集まった。
みんなが当然のように盛り上がっているのに、ハルトだけがその言葉の意味を掴めずにいた。
それが少し恥ずかしかったけれど、黙っていることもできなかった。
「えっと、その……オークションって何ですか?」
そう言ったハルトの言葉に、みんな一瞬、呆気にとられたような間を置いてから、同じように納得の表情を浮かべた。
「ははっ、オークションってのはな、欲しい奴同士で値段を競って、いちばん出したやつがモノを手に入れる、そう言う仕組みだよ!」
そうジノーが笑いながら教えてくれた。
ハレカゼ商会の面々が笑顔になる。
「ハルトが持ってきたこのアーティファクトたちを、今夜お金に変えようって話だよ」
ラヤが笑いながらジノーの説明を補足してくれる。
「あ、ちなみにお金はわかるかな? ウィンドリム経済圏で使える共通紙幣があるんだ」
ルウォンは紙幣って見たことあるかい? とハルトに穏やかに尋ねた。
わからないハルトは首を振ると、ルウォンはズボンの後ろポケットから革でできた袋から紙を数枚、取り出した。
「これが1ミル札、こっちは10ミル札、そして50ミル札、100ミル札、1000ミル札だよ。金額が大きいほど価値がある……大体、パン一つが100ミルくらいなんだ」
「お金と言う仕組みがあるから、色んな人がいても、色んな仕事があっても、みんなでまとまって生活ができるんだ」
ルウォンはそう言いながら一枚ずつハルトの前に紙幣を並べてくれる。
ハルトは紙幣を手に取ることはせず、ただまじまじと見つめた。
数ヶ月前まで、小さな村が世界の全てだったハルトには、色んな情報が一度に説明されても、理解が追いつかなかった。
絵と数字が書かれた小さな紙切れに価値があるだなんて、どうしても不思議に思えてしまう。
ハルトはまだ少し怪訝そうな顔をしていた。ルウォンはそれに気づき、にこやかに付け加えた。
「たとえば……君の住んでいたところでは、魚をあげたら野菜をもらう、みたいに交換してなかったかい? お金ってのは、それをいちいち直接交換しなくてもよくするための道具なんだ。お金があれば、誰とでも交換ができるようになる」
その例えで、なんとなく、ハルトにもお金と言うものがどういったものなのかは、わかることができた。
横からジノーがテーブルに置かれた1000ミル紙幣をこっそり奪い取ろうとそろり、そろりと腕を伸ばし、ヴィータに叩かれていた。
そんな光景を見ながら、ハルトは小さな決心をした。
「その、オークションっての……やってみたい」
全然理解は追いついてないけど、ハルトはこの、自分を受け入れてくれた人たちが喜んでくれるならと、オークションを開催する事を決心した。
その言葉に、ジノーが拳を握り、ルウォンとヴィータは安心したように息を吐いた。
ラヤは嬉しそうに笑って言った。
「じゃあ、準備、始めよっか。今夜はきっと、ウィンドリムが沸き立つ夜になるよ!」
ハルトはその意味がまだ分からないまま、うなずいた。
けれど、心の奥で何かが動き出したような気がしていた。