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3 風の街

 ハルトは、あまりに多くの人に囲まれていた。

 世界にはまだこんなに人間がいたんだと、呆気に取られていた。

 ここに集まっているだけで、自分の住んでいた村の半数くらいの人が居るように感じた。

 そのうえ、人集りはどんどんとその数を増やしていた。

 透明の天井を抜けた後、石畳の道が敷かれていて、木組みの街へと続いていた。

 その石畳の精巧さは、遺跡で見たものに近かった。

 色々な図柄が石で描かれていて、歩きながら見入ってしまった。

 石畳に見惚れながら下を向いて歩いていたから、ふと、影に囲まれている事に気がついて顔を上げたら、目の前は大量の人間に囲まれていたのだ。


「君は見かけない顔だねぇ、旅人かい?」

「遺跡で拾ってきたものとかは持ってないかい? 高く買うよ!」

「まぁまぁ若いのに旅人なんて関心だね! うちの店の二階が空いてるから泊まっていきなよ!」


 集まった人々はハルトに興味津々の様子で、矢継ぎ早にそれぞれが話しかけてきて、銀髪の少女の時とは違った意味で、ハルトは声が出せなかった。

 ただただ圧倒されて、言葉が出なかった。

 集まった人々は、見慣れない綺麗な服装をしていた。

 肌の色も、白っぽい人と、黒っぽい人とがいた。

 髪の色は茶色や赤色、栗色と、さまざまだったが、見慣れた黒髪も、見慣れぬ銀髪も、一人もいなかった。

 まるで異国にでも迷い込んだような気分だった。


「おいおい、なんだよここにいたのか! 探したよ!」


 活気で満ちた人集りの喧騒の中でも、よく通る大きな高い声がした。

 ハルトより背の低い、小柄な女の子がそう言いながら、人集りをするりするりとすり抜けて前に出てきて、ハルトの腰に平手をぽんぽんと当ててきた。

 女の子の髪は後ろで一つに括られた、黄金色をした癖っ毛だった。

 胸元まで布のある、肩紐で吊るされた、不思議な形のズボンを履いていた。

 彼女の笑みは、みた人も釣られて笑顔になるような、暖かい満面の笑みだった。


「えっと……君は──」


 ハルトがそこまで言うと彼女は小声で、「話しを合わせろ」と囁き、どう言った意味があるのかわからないが、透き通った新緑色をした瞳の、片目だけを器用にパチリと瞬きした。


「なんだぁ、ラヤちゃんのお客さまなの?」

「それじゃあオークションかい! 開催はいつなんだい?」

「開催は準備でき次第! ……もしかしたら今夜かもよ? まぁ、そんなわけなんで、とりあえずみんな、道を開けてくれよな!」


 笑顔の女の子が場を仕切り、集まった人集りが解散していく。

 「久しぶりのオークション楽しみだなぁ」と言う声がハルトの耳に届いたが、ハルトには“オークション”と言う言葉の意味がわからなかった。

 女の子は戸惑っているハルトの手を引いて、グイグイと街の中を進んでいった。


「えっと、ありがとう、助かったよ」


 ハルトが腕を引く女の子に、お礼を言う。彼女が仕切ってくれなかったら、どうしたらいいのかわからず、今も途方に暮れていただろう。


「いいっていいって、それよりさ、アンタ、“アーティファクト”は持ってるかい?」


 腕をぐいぐいと引いていた女の子は、ハルトの腕から手を離して、後ろ歩きをしながらそう聞いてきた。


「えっと、アーティファクト? って何かな?」

「遺跡に残ってる、大崩壊前の遺物の事だよ」


 質問を返すと、女の子は大袈裟な手振りをしながら答えてくれた。


「へぇ、それをアーティファクトって言うんだ」

「で、もってる?」


 彼女は期待に目を輝かせて、またハルトの右腕にしがみつく。

見つめてくる翡翠の瞳が、髪の色によく映えて綺麗だなと、話と関係ないことを考えながらハルトは答えた。


「ああ、それなら峠を越える前に遺跡を一つ探索して、気になったものを幾つか持ってきたけど……」

「峠っていうと、東の峠道を越えてきたの?」

「えっと……たぶん、ここからだと北だと思う」

「……おいおいまじか! ……よしよし!! 若いのにアンタ凄いじゃないの! あそこの角の先がウチだから、そこで詳しく話しを聞かせておくれよ!」


 元気の塊みたいな女の子はころころと表情を変える。

 そんな女の子を見ていると、人間と再開できたんだ、と言う実感がふつふつと、しかし確実に湧いてきていた。

 名前も知らない女の子に手を引かれ、見慣れない木組みの街の中を進む。

 透明な板が嵌められた窓が、どの家にも付いていた。

 あの塔の周り、天井の一面を覆っていた巨大な透明な板と比べると、家の窓についている板は少し歪んでいるみたいで、反射した背景がうねってみえた。


 手を引く女の子は街の人たちに慕われているみたいで、横を通り過ぎていく人から声をかけられては、手を上げてそれに応えている。

 女の子と街の人が自分のことを話しているのが分かったので、ハルトも会釈を返しながら通り過ぎた。

 自分の前を腕を引いて歩く小さな女の子の金色の髪の毛が、歩くのに合わせて左右に揺れていて、触ったらきっとふわふわしていそうだと、ハルトはそんな事を考えていた。


「ようこそ、我がハレカゼ商会へ!」


 そう言って恭しく、女の子には似合わない大人がやるみたいなお辞儀をして、ドアを開けてくれた。

 家が立ち並ぶ道の先、日当たりはあまりよろしくない突き当たりの木組みの家は、ひっそりしていて趣があった。

 ハルトは開けられたドアを潜る時、遺跡を探索していた時みたいなワクワクした気持ちになった。

 そして、そのワクワクは期待通りだった。

 悪く言えば雑多な、良く言えば自由な、所狭しと並んだ品々は、どれも個性的で目移りしてしまう。

 沢山の見たことのない物に溢れた家だった。

 少しだけ陽の光が差す窓辺には、見たことのない不思議な形をした大きな葉っぱの植物が飾られていた。


「あれ? ラヤさん忘れ物でもした?」


 七三に綺麗に整えられた茶色い髪と、襟にあるひらひらした飾りが目を引く服を着た小太りの男が、向かっていた机から顔を上げ、椅子から立ち上がり中腰になりながら、部屋の中に入ってきた女の子を見て声をかける。

 そしてすぐに、部屋の内装に見惚れて遅れて入ってきた大荷物を背負ったハルトに気がついた。


「違う違う、お客様だよ! 早くお茶淹れて! 上等なやつで!」

「なるほど、了解ですボス」


 小太りの男はテキパキと見たことのない道具をいじりだすと、カウンターに備え付けられた金属の筒から水が出て、その水をやかんに注ぎ入れ、手慣れた動作で横にある台の上に置いた。

 興味津々でそれを眺めていると、後ろからちょんちょんと女の子に肩を叩かれた。


「もしかして、こう言うの初めてみる?」

「えっと、うん。どれもこれも……初めてのものだらけで、すごく、戸惑ってるよ」


 まじまじとお茶を淹れている様子を眺めていると、小太りの男が笑みをこぼした。


「ハハハ、子供らしくてかわいい子だねラヤさん。僕はルウォン、よろしくね」


 そう言うとルウォンはカウンター越しに身を乗り出して右手を前に出してきた。それに応えて、ハルトも身を乗り出して右手で応えて握手をする。


「えっと、僕はハルト、よろしくルウォンさん」

「よろしく、ハルトくん」


 茶色い瞳が細められ、ルウォンは柔和な笑みをハルトに向けてくれた。

 ルウォンは背が高いだけあり、握手した手は大きかった。


「へぇ、ハルトって言うんだね、良い名前だね。あっ! 自己紹介がまだだったね! あたしはハレカゼ商会の会長、ラヤだよ、どうぞご贔屓に!」


 そう言って元気に手を差し出してきた彼女の握手にも応える。

 彼女の手は、やはり小さかった。

 まだ小さいのに、この子はしっかりしているな、とハルトは思った。

 村の若者たちと比べても、これほど手際よく人を動かせる子はいなかった。年下の子どもにここまで助けられることがあるとは、正直、思っていなかった。

 ラヤに、部屋の奥にある使い込まれたローテーブルの横にある、不思議な形をした大きな椅子に座るように促され、背負っていた大荷物を先に床に下ろした。

 この家の中は外に比べて暖かくて、羽織っていた外套を丸めて、そのリュックの上においた。

 大きな低い椅子に座ると、ハルトの想像外にフカフカしていて、とても座り心地が良かった。


 すぐにお盆にふたつのカップを乗せて、ルウォンがローテーブルへやってきた。

 大柄な彼にはちょっとこの部屋は狭そうな感じがするが、慣れているのか上手い具合にすんなりとテーブルのところまできて、ハルトの前にカップを置いてくれた。

 嗅いだことのない初めての香りだった。

 ありがとうと言うと、ルウォンは優しい笑顔を返してくれた。

 このカップと下に引かれた皿は、遺跡でみた物に良く似ていた。


「気がついた? これも本物のアーティファクトだよ」


 ハルトの対面の椅子に腰掛け、ルウォンからティーカップを受け取ったラヤは、左手に皿をもち、右手でカップを優雅な雰囲気を出しながらつまみ、子供っぽくない、大人びた笑顔でニヤリと笑った。


「ラヤさんくらいですよ、アーティファクトのティーカップを実用品として使ってるのは」

「飾って鑑賞してるだけの方がおかしいんだよ、アーティファクトは道具なんだ、使ってなんぼだろうに」


「それで、ハルトはいったいどんなアーティファクトを持っているんだい?」


 似合わない大人っぽい雰囲気はすぐに掻き消えて、そう言うラヤの顔は楽しみでうずうずしているのが見てわかった。

 ルウォンも、切望の眼差しをむけている。

 ハルトはリュックを開いて、布袋を取り出すと、遺跡で集めたものを並べていく。

 どれも小ぶりで、何に使うのかがわからないものばかりだ。

 深い理由は特になく気になったり、なんだか見た目が気に入っり、そんな気軽な気持ちで拾ってきた小物たちだ。

 それとポケットから、火を灯す道具も、取り出して並べた。


「高級なボールペンか、……インクを足せば使えそうだね」

「ライターはフリントの予備もありますよ」


 ラヤとルウォン、二人とも白い手袋をして、ハルトが机に並べた品々を手にとり、それらが何なのか知っている様子で、品物を分解したりしながら確認していく。


「これは……珍しい、古いタイプの携帯端末だね、ルウォン、ケーブルを取ってくれ、タイプCだ」

「はいボス」

「……お! 生きてるぞこれ! モニターが点いた! これ……動いたら、マジで桁が跳ねるかも……」


 つるっとした手触りの黒い板にラヤが線を繋ぐと、しばらくしてから赤い絵が浮かび上がり、それを見た二人は明らかに気持ちが高揚している様子だった。

 それから、じっとその板を眺めていた。

 突然、赤い絵の浮かんだ黒い板が、遺跡で見たような、まるで風景を切り取ったような絵に切り替わった。それはハルトには、まるで魔法のように見えた。

 ラヤは指で絵をつーっとなぞる。すると絵が違う模様へ切り替わる。


「まじか……これはとんでもないよ……すごいよハルト!」

「これを発掘してきたことは、誇りに思っていいよハルトくん!」


二人は興奮した様子でハルトを誉めてくれる。

絵が変わる板なんて、凄いものなのはハルトにも分かるが、二人の喜び方は、ただそれだけではないようだった。


「あとは手巻き式の腕時計に、体温計、記念硬貨……どれもこれも状態がいいですねラヤさん!」

「北側は発掘隊ですら野犬に手を焼かされて避けてるからな、手付かずなんだろう」

「え!? ハルトくんまさか北の峠を越えてきたのかい?」


 喜んでいる2人を眺めながら、どこか現実味を、ハルトは感じられなかった。

 ルウォンは綺麗にアーティファクトを並べていく。

 ラヤは一通り確認が済んだ様子で一度頷くと、


「ハルト、この品々を、オークションで売り捌かないかい!?」


 ずいっとテーブルに両手をついて、子供っぽい笑顔でそう言った。

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