表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/65

36 紫煙

 ハルトの頭を撫でながら、ふと、そんなことを思い出していた。

 そしてラヤは考える──なぜこの子は、毎朝セレスに会いに行くのだろうかと。

 あの事件以来、ウィンドリムの住人たちはセレスと距離を置くようになった。

 塔を管理する、機械仕掛けの人形。

 人の形を模した文明の管理者。

 ハルトが彼女に救いを求めているならば、それはきっと──救われない。

 たとえ彼女に救いを求めたとしても、ハルトの心が癒えることはないだろう。

 機械に頼ったところで、人の痛みは、きっと癒されない。


「……あたしたちを頼ってくれればいいのに」


 そう呟いて、ラヤは静かに視線を落とした。

 ハルトの頭を撫で終え、下に降りていくラヤ。


「いつまでハルトを置いておくんだ?」


 ジノーが問いかける。

 くるくると器用に手の中でジッポを回して遊びながら、窓を少し開けてタバコに火をつける。

 ジノーは開けた窓の外へ、タバコの煙を肺に入れて吐き出す。


「あの子は優秀だよ。理解も早く、素質もある。囲い込んでおいて、損はない」


 ラヤはそう言いながら、大人の表情を浮かべて、ジノーのタバコを奪った。

 何のためらいもなく大きく吸い込み、深く、煙を吐き出す。

 まるで、自分の中にあるものを見せないために、煙で隠すように。


「……ラヤさん、やめたんじゃなかったの?」

「……たまになら、別にいいでしょ」


 ルウォンがティーカップを差し出しながら窘める。

 ラヤは顔を窓の外に向けたまま、ゆっくりと大きく吸って、静かに煙を吐き出した。

 タバコを奪われたジノーは、もう一本を無言で取り出し、再び火を灯す。

 タバコを吸う二人を、ルウォンとヴィータが眺めていた。

 ラヤが吐き出した煙が、街灯の光に揺らめきながらゆっくりと空へと昇っていく。


 それは、自分の中にある言葉にならないものを、空へ逃がすかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ