35 〈17年前3〉
火事が起きている地点がメインモニターに映し出されていて、オリバー達は必死に火を消そうと鎌を振っていた。
それを、ラヤは見守るしか無かった。
初期火災なら、スプリンクラーによる消火が第一に優先される。
火災が広範囲の場合は、スプリンクラーによる消火では乱流が起こりタービンに負荷がかかる。
それを避ける為に、火災区画を隔離するシャッターが、柱と柱の間には備え付けられている。
それでも間に合わない最悪の事態には、タービンを守るために緊急閉鎖弁を閉じる必要も出てくるが、その場合、事態の収束が確認されるまで、発電が不能になる。
現状では、火災の規模はまだ初期段階にとどまっていた。
けれどスプリンクラーが動作不良で使えない以上、セレスに残された選択肢は──ただひとつだった。
コレクターを支える柱と柱の間に、鉄のシャッターが走り、火災が起きている箇所が一瞬で密閉された。
中に取り残されたオリバーたちが、シャッターを叩く様子がメインモニターに映されていた。
「セレス! オリバー達を出してあげて! はやく!!」
「鎮火が確認されるまで、該当区画の閉鎖は解除できません……たとえ少数の犠牲が出たとしても、この塔の維持を最優先しなければならないのです」
「セレス……お願い、お願いだからオリバーたちを……! 開けて……! 一瞬だけでいいの! このままじゃ、オリバー達が死んじゃうよ! お願いだから!!」
泣き叫び、セレスの腕を掴み、ラヤは何度も揺さぶった。
けれどその体は、機械のように揺らがなかった。
モニターでは、ひとり、またひとりと一酸化炭素中毒で倒れていく。
「……申し訳ありません、一度開けてしまえば、新鮮な酸素が一気に送り込まれて、取り返しがつかないことになってしまうんです」
とセレスは呟く。
文明の再興の為の発電施設を守る為には、少数の犠牲を厭わない。
その非情とも言える判断は、人間である博士達が作った緊急対応プロトコルだ。
だから、セレスは──迷いながらも、それに従った。
ラヤはセレスを見る。
彼女の顔は無表情で、目はどこか遠くを見ていて、冷たく感じた。
そうして、完全に鎮火が確認され、生き残った者のいないその区画のシャッターが上がったのは、次の日の朝だった。




