表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/65

35 〈17年前3〉

 火事が起きている地点がメインモニターに映し出されていて、オリバー達は必死に火を消そうと鎌を振っていた。

 それを、ラヤは見守るしか無かった。


 初期火災なら、スプリンクラーによる消火が第一に優先される。

 火災が広範囲の場合は、スプリンクラーによる消火では乱流が起こりタービンに負荷がかかる。

 それを避ける為に、火災区画を隔離するシャッターが、柱と柱の間には備え付けられている。

 それでも間に合わない最悪の事態には、タービンを守るために緊急閉鎖弁を閉じる必要も出てくるが、その場合、事態の収束が確認されるまで、発電が不能になる。

 現状では、火災の規模はまだ初期段階にとどまっていた。

 けれどスプリンクラーが動作不良で使えない以上、セレスに残された選択肢は──ただひとつだった。


 コレクターを支える柱と柱の間に、鉄のシャッターが走り、火災が起きている箇所が一瞬で密閉された。

 中に取り残されたオリバーたちが、シャッターを叩く様子がメインモニターに映されていた。


「セレス! オリバー達を出してあげて! はやく!!」

「鎮火が確認されるまで、該当区画の閉鎖は解除できません……たとえ少数の犠牲が出たとしても、この塔の維持を最優先しなければならないのです」

「セレス……お願い、お願いだからオリバーたちを……! 開けて……! 一瞬だけでいいの! このままじゃ、オリバー達が死んじゃうよ! お願いだから!!」


 泣き叫び、セレスの腕を掴み、ラヤは何度も揺さぶった。

 けれどその体は、機械のように揺らがなかった。


 モニターでは、ひとり、またひとりと一酸化炭素中毒で倒れていく。


「……申し訳ありません、一度開けてしまえば、新鮮な酸素が一気に送り込まれて、取り返しがつかないことになってしまうんです」


 とセレスは呟く。

 文明の再興の為の発電施設を守る為には、少数の犠牲を厭わない。

 その非情とも言える判断は、人間である博士達が作った緊急対応プロトコルだ。


 だから、セレスは──迷いながらも、それに従った。

 ラヤはセレスを見る。

 彼女の顔は無表情で、目はどこか遠くを見ていて、冷たく感じた。

 そうして、完全に鎮火が確認され、生き残った者のいないその区画のシャッターが上がったのは、次の日の朝だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ