34 〈17年前2〉
轟音を立てる風の塔へ近づくと、いつもよりも風が強い気がした。
ラヤの髪は煽られてばさばさになる。
ようやく塔の壁面までくると、セレスが大きなドアを開けて、二人で中に入る。
セレスがドアを閉めると、ぴたりと轟音が静まりかえる。
ツインテールにしていた髪は風でぐしゃぐしゃになってしまっていた。
ラヤはそれを一度解いて、指先でそっと梳きながらセレスの後を追う。
こつん、こつん──規則的に響くセレスの足音を聞いていると、どこか心が落ち着いていくのを感じていた。
癖っ毛は、一度絡まるとなかなか梳けない。
だから、セレスの綺麗なストレートの銀髪には、いつも憧れていた。
モニターがたくさん並ぶメインコンソールの前の金属製の椅子に座り、操作盤を使ってかたかたと音を立てながら操作するセレス。
ラヤはそれを眺める。
モニターの見方は、前にセレスが教えてくれたから、ラヤにもなんとなくはわかる。
エラーらしいエラーは見当たらない。
「直りそう?」
そうセレスに尋ねた。
「消費水量には確かに変動が見られます。でも、該当区画のスプリンクラーのエラーが検知されていません。センサーそのものに不具合があるようです。……これは、わたしの失態ですね」
不安になるラヤを安心させるように、ラヤの方へ向き直り、微笑みながらラヤの髪を梳かすのを優しい手つきで手伝う。
「大丈夫ですよ、ラヤ。わたしがなんとかしますから」
「ありがとう、セレスお姉ちゃん」
その時、突然、警報器が鳴り響いた。
赤い警告灯が回転し、異常事態を知らせる。
「え……どうしたの!?」
慌てるラヤを抱きしめて安心させ、左手で操作盤を操作して、監視カメラの映像を切り替えてメインモニターに写す。
「……火災です。該当区画からの出火が確認されました」
「え……火災? どうして……?」
セレスはそう言うと、ラヤから離れて、流れるように椅子に座り直し、操作盤の近くからケーブルを引き出す。
セレスは首の後ろのポートを開くと、そこへコネクタを繋ぎ、中央管理デバイスへ有線で直接接続した。
「── 緊急対応プロトコルを発動します」
風が吹き込むアップドラフトタワーのコレクターの構造上、一度火の手が上がると瞬く間に火の手は広がってしまう。
塔を守り、文明を守るためには、火災を迅速に収める必要があった。
緊急対応プロトコルは、博士達が作った──最優先命令。
「お前、ちゃんと消したのか!?」
オリバーがタバコを吸っていた男の胸ぐらを掴んで、問い詰める。
「し、しっかり消したよ!! 俺はしっかり消した……!」
「じゃあこれはなんなんだよ!」
「知らねぇよ!!」
「……おいおい、そんなことは後にしろよ! なんとかしなきゃ!」
火の手に気がついてから、炎が辺りを包むのはあっという間だった。
オリバー達六人は、パニックに陥っていた。
手にしていた大鎌を、とにかく全員で振り回した。
「……該当区画のスプリンクラー、応答なし。──区画を緊急閉鎖します」
「……え?それって……どういう意味なの?」
ラヤの問いに、セレスは応えなかった。
赤い光が点滅を繰り返し、警報器が鳴り響く音だけが、塔の中に満ちていった。
ラヤはそれ以上、何も聞けなかった。聞いてはいけないような気がした。




