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33 〈17年前1〉

 17年前の夏。その年は一際暑かった。

 ソーラーアップドラフトタワーと言う仕組みを支える、太陽光を集め上昇気流を発生させる直径5kmにもおよぶ特殊ガラスで覆われた採光部、“コレクター”。

 そのコレクターの下部に広がる草原──塔の南側の一部区画で、散水用のスプリンクラーに不具合が出ていた。

 その影響で、家畜の飼草用に育てられていた牧草地は、瞬く間に枯れ草に変わっていた。


 ラヤの両親は、共に代々ウィンドリム生まれだった。

 そして、共に遺物の発掘や新しい通商路の開拓など、街の外での活動を主な任務にする、中央庁直轄のウィンドリム正規発掘隊に所属していた。

 当然、街の外に幼い娘のラヤを連れて行けるわけもなく、ラヤは父親の親友である畜産家、オリバーに預けられていた。

 ラヤはたまにしか会えない両親より、いつも傍にいてくれる優しいオリバーを、実の親のように慕っていた。

 その日、オリバーはラヤを連れ、仲間の畜産家たち五人とともに、枯れた牧草地の確認に来ていた。

 酷く暑い日だった。

 湿度は低く、不快な暑さではなかったが、コレクターの内部は中心のアップドラフトタワーへ向かって風が吹き、それは温風のようだった。

 人が集まっていることに気づいたセレスが、様子を見に現れた。


「セレスお姉ちゃん、こんにちは!」


 ラヤが元気よく挨拶する。

 セレスは白いワンピースに青いジャケットを羽織ったいつもの姿で、銀色の髪は先日ラヤが編み込み、後ろで団子にまとめた、そのままだった。


「こんにちは、ラヤ。今日は暑いから、熱中症に気をつけてね」


 セレスは優しく微笑みながら応じた。

 オリバーたちは、セレスに対して、怒っていた。


「塔の管理がセレスさんの仕事だろう? これは一体どう言う事なんだよ」

「このままじゃ困るな、なんとかならないか?」

「とりあえずこの辺りは一旦刈り込まないとダメだな」


 彼らは口々に不満をぶつけ、苛立ちを隠せなかった。


「申し訳ありません、スプリンクラーが正常に動作していないようですね。中央管理デバイスでは異常は確認されていませんでしたが、再確認します」


 そう言って、お辞儀をしてから、セレスは塔へ戻ろうとする。

 ラヤはそれについていった。

 いつものことなので、オリバーたちは特に心配するわけでもなく、ラヤをセレスに任せて枯れた牧草の刈り取りを始めた。


 一人の男が一本のタバコを吸い終えて、足元にぽとりと落とした。

 火のついたままのタバコを、無造作に靴でぐりぐりと踏みつけた。

 しかし煙は、消えず、じわじわと立ち上っていた。

 誰もその事に気が付いてはいなかった。

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