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31 キラ石

 ジッポを預けて、少し寂しい気持ちになりながら、歩いていると、ジノーが曲がり角を指差す。


「俺はこのままヴィータと合流するから、ハルトは一人で帰ってくれ」

「え……道、わかんないよ」

「あそこに中央庁舎が見えるだろ? まずはあそこまで行けば、北の大通りに出られるから。そしたらきっとわかるよ」

「わ、わかった……」

「迷ったらその辺の人に聞けばいいさ、じゃあ行ってくるよ!」


 そう言ってジノーが笑顔で曲がっていった。

 ハルトは取り残され、しばらく立ち尽くした。

 けれど言われた通り、遠くにちょこんと頭を覗かせている中央庁舎を目印に、ゆっくり歩き出した。


 すぐに昨日立ち寄った広場に出た。

 なんとなく昨日歩いた道を思い出しながら中央庁舎へ向かって行くと、塔が正面に見える北の大通りに無事たどり着くことができた。




「ハルトくん、今ちょっと急いで書類を仕上げなくちゃなんだけれど、これも今日中に届けなきゃいけないんだ。代わりに行ってきてくれるかい?」


 ハレカゼの店に戻ると、ルウォンにお使いを頼まれた。


「困ったら人に聞けばいいからね! あたしはこの後商会連の会合に行かなきゃなんだ、頼んだよ」


 ラヤはそそくさとコートを羽織って、商会連の会合と言うのへ行ってしまった。

 ルウォンに簡易的な地図を手渡される。

 目的地には、ハルトが読める文字で、“きゅびすしょうかい”と書かれていた。


 自分の愛用のリュックに、渡された布で包まれた拳三つ分くらいの何かを入れて背負う。

 そこそこの重さもあり、金属でできた何かだとハルトは思った。

 北区は道が綺麗に区画割りされているので、比較的わかりやすく、簡易的な地図でも迷わないでたどり着ける気がした。

 地図を見ながら、大通りから小道に入ろうとした、その時──腰のあたりに何かが横からぶつかる衝撃があって、ハルトはよろめいた。


「いってー……」


 どうやら、地図を見ていて気が付かなかったが、自分よりも背の低い子供が飛び出してきて、ハルトにぶつかったようだった。


「君、大丈夫? ごめんね、僕前見てなかったよ」

「ぼくのほうこそ、ごめんなさい……あっ、キラ石が……!!」

「キラ石?」


 倒れた子供に手を差し出して引き起こすと、子供が地面に落ちていた二つのかけらを拾いあげた。

 そっと掌に包んで、唇を震わせた。

 それは、二つに割れた、不思議な色をした丸い玉だった。


「せっかく……完成したのに……うぁあぁぁん」


 子供が泣き出して、ハルトは困惑する。

 周りの人たちの視線を集めて、慌ててハルトが子供をあやす。


「ごめんね、割れちゃって悲しいよね、それ大切なものだったの?」

「……うん、ようやく磨き終わって玉になったところだったんだ」

「自分で磨いて玉にしたの? すごいね」

「でも、割れちゃった……せっかく綺麗なキラ石手に入れて、丸くしたのに……」


 ぶつかってしまい、どうやらこの子の宝物の“キラ石”という物が落ちて割れてしまったらしい。

 困ったハルトは、何かないかとリュックを探る。 そういえば、遺跡でみつけて拾って、リュックのポケットに入れっぱなしにしていた金属のかけらがあった。

 それは、光を受けて綺麗に虹色に輝く、金属でできた結晶だった。

 形は人工のようでいて、どこか自然の摂理を感じさせる、幾何学的な美しさを放っていた。


「これ、よかったらあげるよ。これもなかなか綺麗でしょ?」

「……え!? ほんとにいいの? お兄ちゃん?」

「うん、そのかわりに、このキラ石を僕にちょうだい」

「わかった、交換ね! ありがとう黒髪のお兄ちゃん!」

「走っちゃダメだよ! また誰かにぶつかるよー!」


 子供は渡すと大喜びで走り去っていった。

 その後、無事キュビス商会に品物を届けて、紙を受け取ると、そのままハレカゼの店へと戻った。

 初めてのお使いは、なんとかやり遂げられた。




「これは子供達の間で流行ってる、溶解スラグを磨いたものだね。燃えるゴミを燃やした灰を更に加熱して、道を作る材料にしてるんだけど、材料を作るときにこう言う模様の綺麗なカケラができることがあるんだよ」

「そうなんだ。確かに綺麗だもんね」

「なんでハルトくんがそんなもの持ってるんだい?」


 ハレカゼのお店に戻って、少年からもらった割れた玉を見せると、ルウォンが説明してくれた。

 事のあらましを伝えると、ルウォンが取り乱した。


「ハ、ハルトくんそれってもしかしてビスマス結晶なんじゃ……」

「ビスマス結晶?」


 ルウォンが絵を描いてくれる。地図もわかりやすかったけど、ルウォンは絵が上手だった。

 描かれている絵は、少年にあげた金属の塊と似てる同じような感じだった。


「多分これだと思う」

「……この事はラヤさんには内緒にしようね」


 ルウォンが声をひそめて笑った、その瞬間──


「ただいまー! あーしんどかった、ルウォンお茶入れてー!」


 理由を聞く前に、ラヤが元気よく会合から帰宅してきた。

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