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23 名物

 クロム商会のある店の前は、北区のハレカゼの店がある通りとは違い、道筋が入り組み、建物の並びも曲がりくねっていて、どっちから来たのかすぐにわからなくなりそうだった。

 そのままラヤたちの後ろについていくと、すぐに大通りに出た。


 その大通りの先に、広場が見えた。

 人通りを眺めていたら、手前にある大通りに面した大きな建物のガラス窓の内側に、クロム商会にあったのと同じような服を着た人形がいた。それも、三体も。

 その建物に人が出入りしていて、賑わっているのがわかった。


「こっちが本来のクロム商会のお店だよ。さっき行ったのはこの店舗の裏口の、お得意様用の入り口なんだ」


 しげしげとそれを眺めながら、ラヤ達について広場の方へ向かっていった。

 広場には、簡素な作りの店がずらりと並び、人々がひっきりなしに行き交っていた。

 見たことのない野菜や、用途の分からない道具が所狭しと並び、ハルトの好奇心を強く刺激した。

 広場の中程まで来ると、遠くに風の塔が見えた。

 逸れたら、たぶん帰れなくなる──そう思うと、胸の奥が少しだけざわついた。

 ハルトは誘惑に駆られながらも、ラヤとヴィータの背中を見失わないように歩いた。


 すぐに大きい簡素な小屋の前に、ずらりと人が並んでいるのが見えた。

 派手な看板に、いろいろと、読めない文字で書かれている。

 ラヤとヴィータがそれに並ぶので、自分も一緒に並んだ。

 すぐに後ろにも人が続き、ハルトたちは行列に飲まれた。

 肉が焼ける香ばしい香りと、じゅうじゅうと言う音が響く。


「案外すぐだから」


 ラヤの言う通り、行列はどんどんと進んでいった。


「普通のハンバーガー単品で三つね!」

「はいよろこんで! バーガー単三!」

「あいよ、バーガー単三了解!」


 店員達は活気に満ちていてとても忙しそうだった。

 ラヤが紙幣で支払いを済まして、列の横にずれる。

 すぐに奥から別の店員さんが紙袋に包まれたいい匂いのする物を三つ、ラヤに渡した。


 ハンバーガーと言う食べ物を屋台で買い終えて、食べながら広場を散策することになった。

 包み紙を捲ると、中はほかほかと湯気が立っていて、昨日食べたサンドイッチとはまた形の違う、パンで肉を挟んだ物だった。

 手に持つだけで脂のいい香りが食欲をそそった。

 その肉は、見た目が肉とは違い、何かを練り固めた物のように見える。

 しかし香りが肉であると主張していた。

 一口齧るとその美味しさにまたもやハルトは痺れた。

 確かに肉なのだが、柔らかくて、筋がない。獣の臭みもない。

 ──もしかしたらこれもリバースエンジニアリングされた物で肉ではないのかもしれない。

 そう不安になって聞くと、二人に大笑いされた。

 ハルトには、何がそんなにおかしいのか、よくわからなかったが、でも、二人が笑っているなら、きっと食べても大丈夫なのだろうと思った。


「ごめんねハルト、おかしくってさ。安心して、それは豚と羊と鶏の、合挽肉を焼いたものだよ」

「合挽肉?」

「そう、ミキサーっていう道具でお肉をぐちゃぐちゃに混ぜて、香辛料とかを混ぜ込んで、丸く形を整えて焼いた肉だよ。美味しいでしょ?」


 話を聞いても、不思議なものは不思議だったが、赤いソースが絶妙にこの合挽肉という肉の旨味を引き立てていた。

 間に酸っぱい漬物の薄切りも入っていて、これもまたいいアクセントになっていた。




 その後も、2人の女性は、ウィンドリムの観光を行ってくれた。

 喧騒の広がる雑多な広場を抜けると、椅子が並んだ憩いの場に出た。

 初めて噴水を見たハルトは水が噴き出している光景に釘付けになり、仕組みを聞く。


「ポンプって言ってね、プロペラが回転して水を押し上げて水を吸い上げるんだ、ウィンドリムはそれで川のそばに建てられた上下水道施設から清潔な水を引いているんだ」


 とヴィータが解説するが、ハルトには珍紛漢紛だった。


「……つまり、そのプロペラっていう羽根車で水を押して、そこに詰めてあった水が上に出るってこと?」

「まあ、そんな感じだね」


 とヴィータは笑った。


「そもそも、ウィンドリムの水源はとても澄んでいて濾過しなくても問題ないんだけどね」


 そうラヤが言う。

 確かに、風の塔を目指して居た時に近くの川で一度野営したけれど、そこの水はとても透き通っていたのを思い出す。

 水が噴き出ている噴水は綺麗な装飾の石細工で囲われていて、人工的な美しさをハルトは感じた。

 街はまだまだ広くて、色んなお店があった。


「この東区はリバースエンジニアリングを行う商会や個人の工房と、できた商品を売る販売店が多いんだ」


 ヴィータが説明してくれて、大通りに立ち並ぶ、いろんな商会のお店の内を、ガラス窓越しに眺めて回る。

 眺めていると、目の前から、大きな動物が何かを引いてこっちに向かってくるのが見えた。


「な、何あれ!?」

「馬車だよ。馬は見たことないの? 北側には居ないのかな?」


 馬車を初めて見るハルト。馬だとラヤが教えてくれた。

 馬を初めて見て、その大きさに驚く。

 馬という生き物は、生命力が溢れていてとても美しく感じられた。

 大きな車輪のついた移動式の小屋のような馬車を見送る。


「主にウィンドリム経済圏の物流を担っているのが、あの馬車だよ。南区に行くと、たっくさん見れるよ!」

「この街で作られた道具を買い込んで、ウィンドリム経済圏の村々に商人が運ぶんだ。そうしたら、帰りはその村々の特産品を買い込んでこの街まで帰ってくる」


 ラヤとヴィータが説明してくれる。


「物だけじゃなくて、人を運ぶのを仕事にしてる商会の馬車もあるし、大手商会は自分たちで使う馬車も持ってるのよね。あたしたちも、いつかは自家用馬車を持てるくらいになりたいもんねぇ」


 ラヤはそう言って目を細めて微笑んだ。

 その顔は、いつもの少女みたいな元気な顔じゃなくて、大人の、商人の顔だった。

 ハルトはその横顔を見て、今まで見たことのない“ラヤ”を感じた気がした。


「さっきの馬車見たいにさ、四つの小さな車輪のついた同じくらいの大きさの乗り物が遺跡にはたくさんあったんじゃない?」

「あー、確かにあったよ、それはなんなの?」


 ヴィータが口を歪めて笑いながら、楽しそうにハルトに尋ねた。


「それは大崩壊前にね、電気の力で、走っていた乗り物なんだ。昔の人たちはその乗り物で移動して暮らしていたんだ。馬車なんか目じゃない速さで街と街とを移動していたんだよ。すごいでしょ?」


 確かに遺跡には、錆と蔦に覆われた乗り物の残骸が、そこかしこに乱雑に残されていた。

 あれが、さっきの馬車みたいに走っている世界が、昔はあったんだと思うと、ハルトは楽しくなった。

 なんでも楽しそうに、わかりやすく語ってくれるヴィータに、少し影響されたみたいだった。

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