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21 髪の色

「この布はね、機織り機っていう道具で作るの。何十本もの糸が交差して、一つの模様になるんだよ。どう? すごいでしょ?」


 ヴィータが首に巻かれていた布──ストールと言うらしい、を広げて、その精巧な模様をハルトに見せながら目を輝かせて言った。


「ヴィータは機械おたくなんだ」


 とラヤが笑う。

 帽子を被っていても、やっぱりラヤは人の目を引くようで、通り過ぎる人に度々挨拶されて、その度に元気よく挨拶を返していた。


「金色の髪って、珍しいの?」


 挨拶がてら知り合いと会話を始めたラヤを眺めながら、ハルトはヴィータに聞いてみた。


「そうね。ブロンドは劣性遺伝って言ってね、中々遺伝されにくいのよ」

「僕は、人はみんな黒い髪の毛をしているんだとずっと思ってた」

「黒髪は優勢遺伝って言って、受け継がれやすいんだけれど、この街の始まりに黒髪の人が居なかったから、この街ではあまり見かけないのよ」


 初めて見る短髪の年上の女性、ヴィータにたいして、ちょっとだけ苦手意識を抱いていたハルトだったが、こうして話してみると、とても優しいお姉さんだと言う事がわかった。


「ヴィータさんって色々詳しいんだね」

「アカデミー主席は伊達じゃないのよ?」


 そう、得意げに言ったが、アカデミーがなんなのかハルトにはわからなかった。


「それじゃあ、銀色の髪も、その劣性遺伝なの? それとも、元々この街に居なかったの?」

「うーん、銀髪は本来人間には居ないんじゃないかな……あんな美しく輝く銀色の髪は、いくら脱色しても人間には無理よ」


 そう、ちょっと困った顔をして笑った。ヴィータは笑う時に、口が少し歪む癖がある。

 その癖が、大人びたヴィータの表情に少しの柔らかさを与えていて、ハルトも釣られて微笑んだ。


「なになに、なんの話?」


 会話を切り上げて戻ってきたラヤが二人の隙間に体を捩じ込んできた。


「髪の色と遺伝の話」

「そんな小難しい話じゃ、ハルトにはわかんないでしょ?」

「そんなこと、……ない」


 ハルトは少しむすっとして、ラヤに頬っぺたを指で突かれた。

 そんな事をしながら歩いて、一つのお店の前に来た。

 透明な板──ヴィータに聞いたところによると、ガラスと言うらしい。

 そのガラスで内側が見えるようになった大きな窓からよく見える位置に、人の形をした服を着た人形があった。


「クロム商会だよ。主に婦人服を扱ってる大手だけれど、男の子の服も取り扱ってるよ」


 ラヤが自信満々に胸に手を当て腰に手を当て「この服もクロム商会の新作なんだ」と言う。

 機能的ではない、飾りのための布のつけられた服は、ハルトにとっては見慣れないものではあったが、確かに厚手の生地なのに体のラインがわかる、美しく洗練されたデザインに見えた。


「服飾業界のリバースエンジニアリングでは一日の長がある。さっき話した機織り機や、糸縒り機、足踏みミシンなんかが有名だね」

「そんなこと言われてもわかんないよねー?」

「わか……らな……い……」


 ラヤに揶揄われ、少しの悔しさを噛み締めながら、そのドアを開くヴィータとラヤの後に続く。


「いらっしゃいませ! あら、ラヤちゃん、ヴィータちゃん! 今日は噂の男の子をお連れで……あらあら、もしかしてその子のお洋服?」


 肉付きがよい背の高い婦人が、甲高い声で迎え入れてくれた。

 襟には、ルウォンの着ている服みたいな、ヒラヒラした飾り布がふんだんについていて、

 深い紫の縁取りが、ただの装飾というにはあまりにも重厚で立派だった。

 婦人は右目に、金属の縁に丸いガラスが嵌ったものを付けていて、ハルトはド派手な服装よりもそれが気になった。


「話が早いね! そう、ハルトの洋服を買いに来たんだ、とりあえずサイズ合いそうなの色々見せてよ」


 ラヤが腰に手を当てて、婦人と話を進める。

 婦人が手をぱんぱん、と叩くと、扉の奥から二人の女の子が出てきて、ハルトたちにお辞儀をしてから、夫人の横にきて何やら話し込み始めた。

 すぐに会話は終わって、二人の女の子は扉に戻っていった。

 クロム商会の三人とも、同じ意匠の服を着ていて、テキパキと動きながらも背筋がピシッとしていて、見ていて心地よかった。

 女の子たちは、ハルトと歳はそう変わらなさそうなのに、大人みたいだった。

 言葉にできない何かが、自分との違いをはっきりと示している気がして、ハルトは思わず背筋を正した。


「それじゃあ、始めましょうか……!」


 そう言って笑う婦人。

 ラヤと、ヴィータも、笑う。

 空気が一段、引き締まったように感じた。

 まだ何もだ始まっていないのに、なぜか背中にじんわりと汗がにじんだ。

 三人の笑顔が、少しだけ怖くて、ハルトは後退りした。

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