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20 デート

 まだ夢でもみているのではないかと、浮ついた気持ちのまま、ハルトは賑やかになりつつある大通りを戻っていく。

 相変わらず視線を集めるが、今日は何故だか気にはならなかった。

 通りを曲がると、ハレカゼ商会の店が見える。

 昨日よりも、帰ってきたと言う気持ちが大きいことにハルトは気がついた。

 ここが自分の居場所だと思える感覚が、心に少しだけ根を張っていた。


「おはよ、ハルト! ……そんな格好で寒くなかったの!?」


 ドアを開けて中に入ると、ラヤとヴィータの二人がローテーブルの前でお茶を飲みながらくつろいでいる様子だった。

 帰ってきたハルトに気がついたラヤが声をかけるが、ハルトの薄着を見て驚いていた。

 いつもより、二人とも装飾の凝った綺麗な服を着ていた。

 ラヤは初めて見る髪を結っていない姿で、金色の綺麗な髪がくねりながら腰まで届いていた。

 その髪をみて、さっき見てきた流れる雲を思い返す。

 ラヤの対面の席に座ると、ヴィータも「おはよう」と挨拶し、ハルトも二人に「おはよう」と返した。


「外套は、目立つから……」

「痩せ我慢したってわけね。確かにマントなんて旅人ですって言ってるようなものだからね」

「そんな薄着じゃどのみち目立ったでしょ」


 ヴィータが苦笑いして、ラヤも困った顔をしながら言った。


「寒かった……」


 正直にそういうと、二人とも吹き出した。

 ハルトも釣られて、三人で笑い合った。


「それじゃあ今日は、ハルトの洋服、買いに行こっか?」

「え?」

「今日は日曜日だからね、お姉さん二人とデェトよハルト」


 ラヤが服を買いに行くと言って立ち上がり、ヴィータはハルトを揶揄うようにデェトと言って足を組み直した。

 ヴィータが足を組み直した拍子に、丈の短いスカートのすそが揺れて、白い脚がちらりと覗いた。

 一瞬、胸がどきりとして、ハルトはあわてて目を逸らした。


 ラヤが準備してきなと言ってハルトの背中をぽんぽんと叩く。

 ラヤに急かされるように三階に行って、リュックから紙幣を何枚か抜いて、畳んでポケットに突っ込んだ。

 布袋を広げてから、歯ブラシとして使っている木の枝を取り出して小刀で削って尖らせる。

 愛用のコップを持ってその枝を噛みながら下の階へ、降りていく。

 浴室の手前にある洗面台へ向かって歩いていると、広間のラヤと目があった。


「……なんで木の棒なんて咥えてるの?」


 ラヤが目をぱちくりさせた。


「なんでって、歯を磨くのに……」


 ラヤに驚かれて、逆にハルトが驚く。

 噛んでほぐした繊維を見せると、ラヤは感心したようにそれをみたあと「ちょっと待ってね」と言って、ぱたぱたと足音を立ててこちらに来ると、そのまま通り過ぎる。

 浴室の手前の水の出せる小部屋、その洗面台の下の戸棚を開いてごそごそと物を探して、毛の生えた棒を取り出した。


「これあげる。発掘品の未使用の歯ブラシもあるけど、これはウィンドリムで作られた新品だよ」

「……僕はこれでいいよ」

「まぁまぁそう言わず使ってみてよ!」


 ラヤに押し切られる形で、歯ブラシを受け取った。

 白い細い毛がたくさん生えた、不思議な材質の細い柄は手によく馴染む感じがした。

 確かに磨きやすいけれど、ハルトは長年慣れ親しんできた木の枝の方が好みだった。

 口を濯ぎ終えたあと、木の枝と歯ブラシを、並べるようにコップに立てて洗面台の隅に置いた。

 準備といっても、他に思いつくこともなく、ハルトはラヤたちのいる広間へと向かった。

 ヴィータはそれに気がついて立ち上がって、背中を逸らして伸びをした。

 セレスみたいな、踵の高い靴を履いていて、今日のヴィータはハルトよりも背が高かった。

 ラヤとヴィータはハンガーにかけられていた上着を手に取り着込む。

 ラヤがハルトの外套もハンガーから外して手渡してくれる。


「それじゃあ、行こっか!」


 そう言ってラヤは大きな帽子を被った。

 ハルトは帽子をかぶったラヤを見て、少しだけ微笑んだ。

 もこもこしていて、可愛らしくって、それは彼女によく似合っていた。

 子供にしか、見えなかった。

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