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梅田小鳥の異世界探遊記  作者: 朝顔
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旅の始まり

「ふわぁ~」

 眠そうに欠伸(あくび)をしながら梅田小鳥は歩いていた。

「昨日、ゲームに夢中になり過ぎたなぁ、反省…」

 小鳥はこの前の日曜に、ようやく手に入れたゲームソフトに夢中になり、気がついたら夜中の二時過ぎまでゲームをやっていたのである。

「…こんな事、お母さんにバレたら滅茶苦茶怒られるよ…」

 小鳥の母・梅田千鶴子は高校の数学教師で、非常に厳格な母親である。

 当然、子どもがゲームをする事を大変苦々しく思っており、出来れば廃止させたいと思っているくらいである。

 そんな母親に娘がゲームに夢中になり過ぎて夜更かしした、なんて事が知られたら即座に取り上げられた挙げ句、次の試験で全教科八十点以上を強要されるに決まっている。

「それは、絶対に避けたいよねぇ」

 一人そう呟き、溜め息を吐く小鳥。



 正直、小鳥は特に勉強が苦手では無い。読書は昔からの趣味だし、知らなかった事を知るのは楽しい。

 しかし、だからと言って全てが得意という訳では無い。当然ながら得手不得手はあるのだ。

 小鳥は基本文系で、小学生の頃から国語や社会科は成績が良かった。数学(小学生は算数)と理科は苦手というほど出来ない訳では無いが、目立って良い成績という訳でも無い。

 しかし、母親は自分が数学教師だからと小鳥が数学を得意としない事に大いに不満を持っており、数学が一番良い点数でないと非常に不機嫌になってしまうのだ。

「本当、面倒くさいよねぇ」

 ついつい溜め息が出るというものである。

「私とお母さんは違う人間だっての!」 

 その事で母親に小言を食らう度に心の内でそうボヤく小鳥であった。



「おはようございま〜す!」

「おはよう〜」

 そんな事を考えながら歩いているうちに学校へ到着。小鳥のクラス一年三組は既にクラスメイトたちが賑やかにおしゃべりをしていた。

「おはようございま〜す」

 気怠(けだる)げに挨拶し、小鳥は自分の席へ向かう。

「おはよう、梅田さん」

 そんな小鳥に挨拶してきたのはクラス委員長の村原季実子である。

「おはよう、村原さん」

 小鳥も若干面倒臭げに挨拶を返した。

「何だか疲れた顔をしているけれど…何処か調子が悪いの?」

 季実子は心配そうに尋ねてくる。

「ううん、別に。少し寝不足なだけ」

 小鳥はニッコリ笑って答えた。…そうしなければ、いつまでも季実子の追求は止まらないのだ。

“はぁ〜! メンドクサ!!” 

 内心そう思うが…そんな事を表に出したが最後、クラスの連中が()って(たか)って

「梅田さん、酷〜い!」

「折角、季実子さんが心配してあげているのに!」

「小鳥さん、サイッテー!」

 等等等…好き勝手に非難されるのがオチである。

“そんなの、小学生の時だけで充分だっての!!”

 そんな面倒臭い事態は真平ごめんである。



 そして授業が始まった。

 “ふわぁ~、退屈…”

 現在は数学の時間である。

 この教師の授業は眠くなる事で有名で、過去には授業開始十分で、クラス全員が夢の世界に旅立ってしまったという逸話の持ち主だったりする。

 そんな訳で、この教師の評判は教師の間では余りよろしくは無い。しかし、何故かこの教師が担当したクラスは総じて成績が伸びる傾向にあり、生徒や保護者の間では、高評価だったりする。

 授業開始からおよそ十五分。そろそろクラスの半数近くが夢の世界へ旅立ってしまったらしい。それまで何処か(ざわ)ついていた教室内の空気が何となく静まり返ってきた。そして

 “う〜、眠い…”

 小鳥もまた猛烈な眠気に襲われ、段々と瞼がくっつき始めた。



 ふと気がつくと、小鳥は全く見覚えの無い場所に一人立っていた。

 “え?”

 小鳥は慌てて周囲を見渡すと…

「ここ…何処(どこ)?」 

 目の前に広がる光景は、何処(どこ)からどう見ても現実の…地球のものでは有り得ない。 

「な…何なの此処(ここ)? クラスの皆は!?」

 小鳥は他の誰の姿も見えない事に不安になり、必死に誰かいないか見回してみる。しかし、目に映るのは何にも無い、ただ無機質なモノトーンの空間が広がっているばかりであった。



 小鳥はどうして良いか分からず、ただその場に呆然と立っていた。

 どれくらいの間そうしていたのか、不意に背後から何かの気配を感じ、恐る恐る振り向くと…

「…先生?」

 そこには、先程まで授業をしていた数学教師・藤原日美子が立っていた。

 小鳥は我が目を疑った。何故ならば…

「先生。その格好は…?」

 日美子は何故かスーツ姿では無く、いわゆる巫女服を纏っていた。

「梅田小鳥さん」

 日美子は数学の授業の時とはまるで違う厳かな口調で小鳥に呼びかけた。

「は、はい!」

 思わず背筋が伸び、直立不動になって返事をする。

「貴女に…お願いがあります」

 


「お願い、ですか…?」

 小鳥はオズオズと反芻する。この状況で普段とはまるで様子が異なる数学教師にいきなり「お願いがある」と言われ、ホイホイ承諾出来る訳が無い。

「はい」

 日美子は頷いた。

「…それで、お願いとは?」

 正直、聞きたくなど無い。聞きたくは無いが、これを聞かなければ先には進まない。小鳥は覚悟を決めて尋ねた。

「貴女に、異世界へ行って欲しいのです」



「……は!?」

 小鳥は耳を疑った。今、日美子は何と言った!?

「…あの、今、異世界に行って欲しい、と聞こえたのですが?」

 小鳥は恐る恐る尋ねる。

「ええ。間違い無くそう言いました」

 日美子は至って真面目に答えた。

「あの…一体どういう事でしょうか?」

 取り敢えず小鳥はそう尋ねる。今のままでは訳が分からなさ過ぎる。

「今はまだ、詳しくは話せませんが…·」

 そう言って日美子は何やら考え込んだ。



「そうですね。貴女の協力を得るには、ある程度の事情は明かすべきですね」

 しばらく考え込んだ末、日美子はそう結論付けたようだ。

「今からお話する事は、全て事実です。貴女にとっては到底信じられない事だとは思いますが…」

 日美子は真っ直ぐ小鳥を見つめる。



本作をお読み頂きありがとうございました。

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