表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/25

5.消えた魔女と男

 悪い微笑みを浮かべたラミーナは片膝をついたまま、床に寝転がる貴族令嬢ベリンダを見下ろす。そしてレジスに視線を向けた。


「レジス。この小娘はアルビッグス侯爵の令嬢ですか?」

「さあ? お前はアルビッグス侯爵を知っているのか?」

「直接は知りません。けどこの辺りを治めている貴族だっていうのは知っています」


 さっきこのベリンダとかいう小娘はシャノンの名前を叫んでいた。年長のシャノンに対して呼び捨てで呼びかけていたから、アルビッグス侯爵の関係者で間違いないと思うが……。


 ラミーナはすくっと立ち上がると、レジスの前に歩み寄る。


「もしこの小娘がアルビッグス侯爵の令嬢であれば()()は兵隊さんに追われずに済むかもしれません」

「どういうことだ?」

「今はまだ詳しく話せません。色々と確認をしないと……」

「で、どうするつもりだ?」

「まず街に向かいましょう。準備が必要です。手伝ってくれますよね?」


 レジスが目を細めてラミーナに目を向ける。


「嫌だと言ったら?」

「うーん……だとしたらエビラバエは1人で探さないといけませんね。しかも兵隊さん達に追われるかも……です。私といる所をバッチリ見られちゃいましたからね」

「むぅ……」


 悩むレジスにラミーナが追い打ちをかける。

 

「もし私を手伝えば、私というエビラバエに繋がる道案内を獲得することが出来ます。上手くいけば……侯爵から貰い損ねた今回の報酬も手に出来るかもしれませんよ?」

「むむぅ……」

「何を迷っているんですか?ちゃちゃっと決断してください?」


 ラミーナが両腕を広げ、形の良い胸を突き出した。視線がその胸に下がりそうになるのを、レジスは鉄の意志で自制する。

 そもそもこいつ(ラミーナ)が‘‘最果ての地’’の場所が分かるというのも本当なのか?

 しかしこれまで5年間、‘‘最果ての地’’の手がかりすらほとんど掴めなかったのも事実だ。

 こいつの言う事に従うのが、ここでは最良の選択か……。

 意を決したレジスがラミーナの顔を見返す。


「分かった……手伝おう。で、具体的に何をするんだ?」

「ふふーん。良い判断です。とりあえず一緒に街に行きましょう。詳しい話はそれからです」

こいつら(兵士)はこのままでいいのか?」

「そのうち勝手に目覚めます。放っておいて大丈夫です。ところでどうしてそんなにエビラバエに行きたいんですか?」

「お前には言わん」

「……ケチですね」

「何とでも言え」


 ラミーナはすぐに旅支度を整えると、レジスと共に屋敷を後にした。


 ◇◇


 昼に近くなり、高く昇った陽光が屋敷の中で眠る兵士達に差し込んでくる。

 目覚めた瞬間、シャノン大佐は自分の状況を即座に理解する。

 油断なく立ち上がり、腰の剣に手をかける。しかし狙うべき魔女の姿はない。部屋の床には数人の部下が静かに寝息を立てて寝転がっていた。

 くっ……全員眠らされたのか。魔女(ヤツ)は何処だ!?

 周りを警戒しながら一番近くで眠る兵士の傍らに移動する。


「おい!起きろ!おい!」


 床で転がる兵士が呻き声を上げて覚醒した。こちらはまだ状況が飲み込めず、目を瞬かせていた。


「私は奥の部屋を見てくる。お前は周りの奴らを起こして回れ」

「は、はい!」


 ようやく状況を理解した兵士が飛び起きて、同じ部屋で転がる兵士達を起こしに行く。


 廊下に出たシャノン大佐は、突き当たりのひと際大きな入口近くに寝転がる豪奢なドレスを着た人物に気付く。それが誰なのか気付いたシャノン大佐はすぐにその人物の側へ駆け出した。


「お嬢様!ベリンダお嬢様!」


 シャノン大佐の腕の中で目を覚ましたベリンダが、自分を見下ろすシャノン大佐の視線に気付く。

 

「お嬢様!ご無事ですか?お怪我はありませんか?」

「シャノン!ああ!シャノン!」


 金色の髪の少女はシャノン大佐の胸に抱きついた。シャノンは優しくベリンダの頭を撫でる。


「どうしてここまで来たんですか? 魔女の屋敷なんですよ」

「ご、ごめんなさい……。どうしても早くお母様の病気を……」

「お気持ちは分かりますが……少しは私を信頼してください」

「ごめんなさい……」


 シャノンが優しく頭を撫でると、再びベリンダがシャノンの胸に顔を埋める。

 そこへ数人の兵士がやって来て、シャノンは鋭く目を向ける。


「負傷者は?」

「いえ。死傷者はいません。全員眠らされていただけのようです」

「魔女は?」

「今、屋敷の中を捜索しておりますが、何処にも姿は見えません」

「そうか……あの男は? 突入の前に屋敷の側まで来ていただろう。メルトスピアを使った男だ」

「屋敷には……屋敷の周辺にも居ないようです」


 その報告をシャノンの腕の中で聞いていたベリンダが弾かれたように顔を上げる。


「魔女と一緒にいた男がいたわ!体の大きい……目つきの悪い男でしたわ!」

「レジスだ。あの男……魔女といるのか!」


 シャノンが兵士に命じる。


「屋敷を捜索する者と、街に戻る者に分けるぞ。屋敷に残る者は目的の魔術が残されていないか徹底的に探せ!街に戻る者は街に魔女とレジスが下りてきていないか捜索だ」


 周りに集まった兵士達は鋭く返事をすると、素早く行動に移す。

 シャノンの腕の中からベリンダがシャノンの顔を見上げる。


「シャノン。貴方はどうするの?」

「私は街へ……いえ、侯爵邸に行きます。ガラティア様へこの件を報告せねばなりません」

「そう……分かったわ。私も一緒に行きます」

「そうですね。ガラティア様も心配されていますでしょうから……」


 先に立ち上がったシャノンが手を取り、ベリンダも立ち上がる。ベリンダをエスコートしたシャノンがベリンダに話しかける。


「この屋敷にもう魔女は居ないかもしれませんが、まだ街の近くにいればガラティア様なら見つける事が出来るでしょう」

「そうね。お母様の魔術ならきっと見つけられますわ」


 シャノンとベリンダは手を取り合って屋敷の入り口へと歩きだした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ