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3.最果ての地

 外から見た通り、屋敷の中は広かった。装飾や調度品などはほとんどないが、かなりしっかりとした造りとなっていた。

 

 広い廊下の両側にいくつもの扉が並んでおり、ほぼ全ての扉が開け放たれていた。ラミーナに連れられてレジスは屋敷の奥へと向かう。

 無防備に背後を見せる魔女だが、レジスは警戒の気持ちを解かず、一定の距離を保ち、いつでも剣槍が打ち込めるよう握る手を意識する。


 開け放たれた扉から廊下に並ぶ部屋の内部を覗くと、異様な光景があった。

 ラミーナが言った通り、先ほど屋敷に突入した兵士達が全員、床で眠りこけていたのだ。

 ある者は壁に持たれかかるように、またある者は体を丸めて……。大の字になって豪快に寝ている者もいた。

 そしてその誰も彼もが皆、無防備な寝顔を晒していた。


 強制的に眠らせたのか……。昏睡魔法というやつか? にしても……この人数を相手に自分も相手も無傷で無力化させるとは……。

 屋敷の各部屋に兵士が四、五人ずつ雑魚寝していた。ラミーナが歩きながらレジスの方に振り返る。


「どうです? 殺してなかったでしょ?皆さんぐっすりスヤスヤですよ」

「そうみたいだな……」


 突き当たり手前の部屋には一団を率いていたシャノン大佐がうつ伏せの態勢で寝ていた。最後まで強烈な眠気に抗ったのか、手は床を掴むように伸ばされていた。


 突き当たりの一際大きな扉の前に立ったラミーナが扉に手をかける。


「さあ、こちらの部屋ですよ」


 他の部屋よりもかなり広いその部屋には壁一面、天井までびっしりと本で埋められた本棚。そして怪しい実験道具などが並べられた広いデスク。その少し離れた位置にはテーブルとソファが置いてあった。


「どうぞどうぞ。今、お茶でも入れますので寛いでください」

「いや、茶は結構だ」

「ん、そうですか……」


 少しへこんだようにラミーナがソファの方に向かい、レジスにソファに座るよう促した。レジスがソファへ腰掛けると、彼女はその対面に腰を下ろす。


「さて、さっきの話の続きですね」

「ああ。お前は何故、メルトスピアの事を知っていた?」


 美しい顔をニコニコとほころばせて、ラミーナがレジスを見据える。


「そのメルトスピアという魔法は私が作ったんですよ、レジス。だから知ってて当然なんです」

「作った?」

「ええ。作ったんです」


 レジスは思わず布に覆われた自分の左腕に目をやった。


 

 現在この大陸ではほとんどの魔法は失われている。以前は火の玉を生み出したり、氷の槍を生み出して相手に突き刺したり、瀕死の人間を全快させるような魔法隆盛の時代もあったらしいが。

 だが今ではせいぜい焚き火の火種にするとか、少量の飲み水を生み出すとかの程度の生活魔法しか存在しない。

 治癒魔法というのも骨折を回復させるぐらいが限界で、治癒師と呼ばれるごく一部の人間にしか扱えない。

 その要因は人間の魔力の低下と、他の技術の進歩にあった。代を重ねるごとに落ちていった人間の魔力。それを補う為に銃などの火器や様々な技術が進歩した。少なくなった魔力で魔法や魔術を引き継いでいこうという人間は、ほとんどいなくなってしまった。

 

 強化魔法という魔法はまだ一般にも使われているのだが、それもその名の通り人や物の強度や身体能力を一時的に向上させる効果の魔法だ。

 メルトスピアのような攻撃魔法というものがこの大陸から消え失せて随分と経っていた。


 攻撃魔法を作った? この魔女が?

 そんな事が出来るのか?


 ラミーナは実に楽しそうに微笑みながら、


「また何でって顔してますね。レジスは思っている事がすぐ顔に出る人なんですね」

「そんなことよりどうやってこんな攻撃魔法を作った?」

「んー、作り方については魔術の難しい話になるからそれは今度にしましょう。それよりなぜ作ったのか、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()() そっちを知りたくないですか?」

「じゃあ、あの魔術書を作ったのはお前なんだな?」

「はぁい!そうです!そうです!」


 眩しいくらいの笑顔でラミーナが答えた。


◇◇

  

 約一年前、レジスはある街で、依頼を受けた魔獣を討伐した報酬のおまけとしてあの魔術書を受け取った。

 依頼をした商人は使い道も分からず、処分に困っているからという理由で、半ば強引にレジスに報酬と一緒にその魔術書を押しつけてしまった。


 何も分からず魔術書を開いたレジスだったが、その瞬間に魔術書から出た光がレジスの左腕に吸い込まれ、この刻印が浮かび上がったのだ。

 その日からレジスは攻撃魔法メルトスピアを左腕から放つ事が出来るようになった。


 攻撃魔法のメルトスピアを使えるようになったが、レジスは誰にもその事を話していない。

 それどころか魔獣ハンターとして魔獣と戦う時もほとんど使用した事もなかった。


 王国軍の兵士といい、このラミーナといい、何故俺がメルトスピアを使える事を知っていたんだ。


「その刻印……私の方に引き寄せられる感覚ないですか?」

「……ある。それもお前が?」

「はぁい!それも私です」

「何故この刻印はお前に引き寄せらようにしているんだ?」

「それはもちろん、あの忌々しい結界を破壊する為です」

「という事は……このメルトスピアは結界を破壊する為にお前が作ったということか?」

「ご名答です。理解が早くて助かりますね。なので、あの結界が破壊するという目的を達成した今、私はとてもご機嫌というわけです」


 さっきからずっと笑顔なのはそのせいか。

 自分が作った魔法だから感知できて当然だが、兵士どもは何故感知できた?


「この王国軍の兵士どもも俺がメルトスピアを使えることを知っていたが、それはどういうことだ?」


 ラミーナは整った眉を上げて目を瞬かせる。


「ありゃら…そうなんですか?てっきりレジスが兵隊さん達にメルトスピアが使えることを売り込んだとばかり思ってました」

「いや俺からは一言も言っていない。街に着いてすぐに兵士に声をかけられた」

「へぇ~、何て声をかけられたんです?」

「攻撃魔法が使えるだろうってな。それで破壊して欲しいものがあると……」

「なるほど……」


 ラミーナは顎に手を当てて考えだすと、視線をレジスから外して何かぶつぶつと呟きだす。そしてすぐにレジスに目を向けると、


「他には何か聞いてませんか?」

「いや、色々聞き出そうとしたが、結局ほとんど何も聞けなかった」

「よく引き受けましたね。そんな胡散臭いお願い」

「報酬を出すと言われたからな。それに依頼主はこの王国の侯爵だ」

「侯爵が……ですか」

「ああ。‘’魔女狩り’’をするから協力しろという依頼だな」

「なるほど……じゃあその魔女狩りは失敗ですね」

「……まあ、そういうことだな」


 この屋敷に突入した兵士は全員眠らされている。この魔女はこの隙に逃げようと思えば逃げられるだろう。


「じゃあ、レジスに報酬は出ないんですかね?」

「さあな。俺が依頼されたのは結界の破壊だけだからな。それを兵士ども(こいつら)が証明してくれるかどうか、だな」

「そうですね」


 この兵士どもの目的は魔女狩りだ。目を覚ませばおそらくまたラミーナを狙うだろう。この魔女はどうするつもりなのか。


「で、お前はどうするんだ?この兵士どもにトドメを刺していくのか?」

「そんな面倒くさい事はしませんよ。やっとあの忌々しい結界が失くなったんです。私をこの山に閉じ込めた奴を懲らしめに行きます」

「ほう……誰が閉じ込めたんだ?」

「それは……まだ分かりません」

「知らないのか」

「でもすぐに見つけ出してやりますよ!‘‘最果ての地’’へ行けば、大陸の何処に居たって見つけられるはずですから」


 レジスの表情が固まった。そして身を乗り出してラミーナの両腕を掴む。剣槍が床に転がる音が部屋に響く。


「お前、‘‘最果ての地’’が何処なのか知っているのか!?」


 レジスは乱暴にラミーナの体を揺すった。

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