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なろうラジオ大賞

雪解けの散歩道

作者: 地野千塩

 復職に失敗した。焦りすぎていたのかもしれない。


 坂下深雪はブラック企業に入ってしまい、あっという間に鬱病に。なんとか退職できたものの、三か月の休職中も焦りが消えず、夜勤の工場勤務の仕事についた途端、三か月でバーンアウト。また仕事を辞め、医者に勧められた散歩を始めていた。


 今は三月初旬だ。道には雪が残り、風も暖かくはない。


 OLやサラリーマン風の人間とすれ違うと心臓がドキドキと騒ぐ。怠け者だって責められているみたいで苦しい。ネットを見てもそう。子供部屋おばさん、メンヘラ、ニートといった刃物のような言葉が転がりすぎている。まさか自分が鬱になるとは想像もしていなかった。一寸先は闇なのか。


 そんな時、スマホのトークアプリにメッセージが届いていた。あのブラック企業の先輩からだった。彼も心を病み、休職中だという。


「焦るな。ゆっくり休め」


 その言葉は深雪ではなく、自分に言い聞かせているみたいだったけど、氷のように固くなっていた深雪の心は少し溶けた。


 それから毎日先輩からメッセージが届くようになり、散歩中に眺める。


「大丈夫」


 そんな優しい言葉を見ているだけで、心から何か温かいものが溢れてきそう。決して自分へ向けた言葉でもないはずなのに。


「仕事辞めてわかったよ。本来、人間は何もしてなくても価値がある。本当は生きているだけで良いんじゃないか?」


 今日はそんな言葉が届く。


「そっかな……」


 その言葉の全ては信じられないけれど。


「坂下もそうだって。どうせ上司達も世間も俺らが死んでも何とも思わない。だったら、もっと図々しく、太々しく迷惑かけながら生きても良いんじゃない?」


 わからない。深雪には他人に迷惑かけていいという感覚はさっぱり分からないが。


 気づくと散歩道の雪も溶けかけていた。風もほんの少し柔らかい。もう三月中旬だった。


 ずっとこのままという訳でもないらしい。時間は確実に動いている。


 次の日もまた先輩からのメッセージが届く。


「絶対、大丈夫」


 深雪の現実は何一つ変わっていないが、雪解けしていく道を眺めながら、春の気配を感じていた。

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