表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しまねことサヨ〜猫の言葉がわかるあたしと島猫たちの、まったりスローライフ〜  作者: 川上とむ
第二章『しまねこと、夏を連れた旅人』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/39

第5話『なっちゃんの誕生会 前編』

 夏休みに入って数日後。早めの朝食を済ませたあたしは、しまねこカフェのテラス席に座ってモーニングコーヒーを飲んでいた。


 まだ朝一番の船も港で待機している時間だというのに、半袖のパジャマから覗く二の腕に当たる風はどこか生ぬるい。その風に触発されるように、島のセミたちは合唱を始めつつある。


「サヨ、おはよー」


「おはようだネ」


 背後からの声に振り向くと、いつしかココアとネネがやってきていて、並んで顔を洗っていた。


「あんたたち、顔洗うのはいいけど、今日は雨降らさないでよ?」


「大丈夫だと思うよ。少なくとも午前中はネ」


 せっせとひげを整えながら、ネネが言う。


 猫が顔を洗うと雨が降る……なんて迷信と思われがちだけど、実は科学的根拠があったりする。


 雨が近くなって空気中の湿気が多くなると、猫のひげは元気がなくなる。それを直すために猫は顔を洗うそうだ。


「別にボクたちが雨を降らせるわけじゃないんだけどなぁ。サヨ、どこか出かける予定でもあるの?」


 続いて毛づくろいに移りながら、ココアが訊いてくる。


「どこにも行かないわよー。今日、なっちゃんの誕生日だから、晴れてほしいってだけ」


「ありゃ、それはめでたいネ」


 そう伝えると、二匹は揃ってしっぽを動かす。この子たちもなっちゃんにはお世話になってるし、お祝いしたい気持ちがあるのかもしれない。


「ここで誕生会をやる予定だけど、あんたたちも出る?」


「出る出るー。他の皆にも伝えなきゃネ」


「なっちゃんとこのハナグロさんにはもう伝えてあるから、それ以外の子たちによろしく。帰ってきたら高級猫缶あげるから、いっちょお願いね」


「おまかせあれ! ほらココア、いくよ!」


「ええっ、ボクは缶詰好きじゃないんだけど……」


 高級猫缶、という単語に反応したネネが、ココアを連れ立ってしまねこカフェを飛び出していく。これで島猫たちへの連絡は大丈夫そうだ。


「あとは飾り付けしないとねー。ヒナやおじーちゃんにも手伝ってもらわなきゃ」


 折り紙とかどこに置いてたかしら……なんて考えながら和室へ向き直ると、あたしは手に持っていたコーヒーを飲み干して気合を入れたのだった。


 ◇


 やがて9時を過ぎた頃、しまねこカフェでなっちゃんの誕生会が始まった。

今日はカフェもお休みで、貸切状態だった。


「なっちゃん、誕生日おめでとうー!」


 皆でお祝いの言葉をかけたあと、ケーキのロウソクの火が吹き消される。


 ちなみに、定番のクラッカーは鳴らさない。理由は簡単。カフェに集まってくれた十匹近い猫たちが驚くから。


「皆、わざわざありがとねぇ」


 なっちゃんは目を細めながら、少し恥ずかしそうにそう口にする。


 この場には主賓のなっちゃんのほか、あたしとヒナ、裕二(ゆうじ)、そして新也(しんや)の五人が集まっている。


 おじーちゃんは部屋の飾りつけを手伝ってくれたものの、直前になって用事があると出かけていった。あたしたちが楽しめるよう、気を使ってくれたのかもしれない。


「ナツミお嬢、お誕生日おめでとうございます!」


 誕生会が始まる前からなっちゃんの膝を独占していたハナグロさんも、彼女の誕生日をお祝いしてくれていた。あたしはその台詞を、そっくりそのままなっちゃんに伝える。


 普段は民宿さくら荘の敷地からほとんど出ない彼も、今日ばかりはしまねこカフェにやってきていた。


「それじゃ、あたしたちからも。なっちゃん、誕生日おめでとー」


 改めてそう口にして、それぞれがプレゼントを渡す。


「わ、猫柄のクッションだー。小夜(さよ)ちゃん、ありがとう」


 この猫、どことなくハナグロさんに似てるね……なんて付け加えながら、なっちゃんは笑顔を見せてくれる。島だから大したものは用意できなかったけど、喜んでくれているようで良かった。


「……夏海(なつみ)、これ、やるよ」


 次に新也がプレゼントを贈るも……わざとそっけない態度を取っているのが、あたしでもわかった。


「わー、エプロンだ」


「た、たまたまコンビニヨシ子に売ってたんだよ。使ってくれ」


「ありがとう。大切にするね」


 満面の笑みでお礼を言うなっちゃんに対し、新也はわざとらしく視線をそらしていた。


 立派なエプロンだし、たまたま売っているような品物じゃない。間違いなく、本土から『お取り寄せ』した品だと思う。


 ちなみに、裕二は本を贈っていた。タイトルは見えなかったけど、文庫本のようだった。


「そういえば哲朗(てつろう)さん、今日は朝から大はしゃぎだったんじゃないのー?」


 続いてケーキを切り分けながら、あたしはそんなことを訊いてみる。


「そ、そうだね……朝起きると同時に抱きしめられて、プレゼント渡されちゃった」


「テツロー、相変わらずの親バカだネ」


「ネネさん、違うっす。テツローの旦那は子煩悩なだけっす」


 ネネとハナグロさんの会話を聞き流して、あたしたちはケーキに舌鼓を打つ。


 このケーキも栄子(えいこ)さん……なっちゃんのお母さんの手作りだそう。


 島ではクリームもフルーツも手に入りにくいので、愛娘を大事にする両親の気持ちが、これでもかというくらいに伝わってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ