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しまねことサヨ〜猫の言葉がわかるあたしと島猫たちの、まったりスローライフ〜  作者: 川上とむ
第一章『しまねこと、春に拾った少女』

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第11話『謎のキャベツ』


 ……ヒナが佐苗島(さなえじま)に来てから、数日が経った。


 今日は平日なので、あたしたちは学校がある。


 おじーちゃんも日中は本土に出かけるということで、ヒナは学校近くの村長さんの家で預かってもらっていた。


「それでね、朝起きたらウッドデッキの上にこんな大きなキャベツが三つも置かれてたんだけど、誰が持ってきてくれたのかわからなくて。なっちゃん、心当たりない?」


 お昼の休憩時間。いつものようになっちゃんと席をくっつけてお弁当を食べながら、あたしはそんな質問をする。


 朝起きたら新聞受けに大根が刺さっていたり、玄関先にカボチャが置かれている……なんてことは、この島ではよくあることだ。


 けれど、誰がくれたのかわからないことが多く、もらった側としてはすごくモヤモヤするのだ。


「うーん……今の時期はどこの畑も春キャベツだらけだし、ちょっとわからないかなぁ」


 なっちゃんは桜色のごはんを箸で持ち上げながら、首を傾げていた。


「そうよねー。野菜もらえるのはありがたいんだけど、せめて名前書いといてほしいわ」


「あはは、一理あるかもね。今度おすそ分けするときは、うちも名前書こうかな」


 天井を見上げながらため息まじりに言うと、それを聞いたなっちゃんはクスクスと笑っていた。


「……あ、おすそ分けといえば、お父さんが渡したいものがあるらしいの。学校が終わったら、うちに寄ってくれる?」


 その笑顔を見ていると、思い出したように彼女が言う。


「どのみち村長さんの家にヒナを迎えに行く予定だからいいけど……まさか、キャベツ?」


「さすがに違うと思うよ。うちの畑、キャベツは育ててないし」


 つい顔をひきつらせると、なっちゃんは苦笑しながら言い、ミニコロッケを口に運んだ。


 ……そ、そうよね。正直、これ以上キャベツもらっても食べきれないわよ。


 少しだけ安心しつつ、あたしもおかかが乗っかったご飯を頬張ったのだった。


  ◇


 学校が終わると、約束通りさくら荘へと足を運ぶ。


「それじゃ、ちょっと待っててね」


 木製の門を開けて、なっちゃんは母屋へと入っていった。


 さくら荘はその敷地の中に民宿の建物とは別に母屋があり、なっちゃんたち家族はそっちで暮らしているのだ。


「サヨの姉御、こんちゃーっす」


 門の近くにある石塀に背中を預けていると、足元から声がした。


 視線を送ると、そこには一匹の猫がいた。


「久しぶりねー。元気?」


 この子はハナグロさん。さくら荘で飼われている子で、一見みゅーちゃんに似ているけど、名前の通り鼻の周りに黒い模様があるのが特徴だ。


「たまにはしまねこカフェにも顔を出しなさいよー?」


「テツローの旦那やナツミお嬢がたくさんゴハンくれるっすから。足を伸ばす必要もなくなってまして」


「それはいいことだけど、トリコさんが寂しがってるわよー。対等に話せる奴がいないって」


「そいつはありがたい限りっすね。それなら、また近いうちに……」


 ハナグロさんとそんな会話をしていると、母屋の玄関扉が開いて、ビニール袋を持ったなっちゃんが出てきた。


「おまたせー。これ、お父さんが朝獲ってきた魚だよ」


 差し出された袋の中を確認すると、そこには特徴的な顔をした魚が何匹も入っていた。


「わー、メバルだー。これ、本当にもらっちゃっていいの?」


「うん。あまり大きくないから、唐揚げにするといいよー」


 ニコニコ顔で言うなっちゃんにお礼を言って、あたしはその袋を受け取る。


 彼女の言う通り、今夜はメバルの唐揚げがいいかもしれない。


 皮はサクサク、身はジューシーな唐揚げを想像して、思わずお腹が鳴りそうになった。


「それじゃ、また明日だね。ハナグロさんもおいでー。ごはんにするよー」


「ナツミお嬢、お世話になりまっす」


 笑顔のなっちゃんに見送られて、あたしはさくら荘を後にする。


 ヘコヘコしながら彼女についていくハナグロさんが、妙に印象的だった。


 ……そうだ。ヒナを預かってもらったお礼に、この魚を村長さんにおすそ分けしよう。濃いめの味付けにすれば、おつまみにもなりそうだし。


 そんなことを考えながら歩いていると、やがて村長さんの家が見えてくる。


 その門の前には数人の若い男性がいて、村長さんと何やら話をしていた。


 全員見たことがないし、島の人間ではないようだ。どういう人たちなのだろう。


 思わず立ち尽くしていると、背後からスクーターのエンジン音が聞こえてきた。


「……あら、小夜(さよ)ちゃんじゃない。こんなところで立ち止まってどうしたの?」


 とっさに道の端に寄りながら振り返ると、その運転手さんから声をかけられた。


 ヘルメットに半分隠れたその顔をよく見てみると、雪絵(ゆきえ)さんだった。


 彼女は島で図書館を兼ねたカフェを経営していて、裕二の母親だ。


「あの人たち、何の集まりなんですかね?」


 いまだに話し込む団体を眺めつつ、そう訊いてみる。


「最近、村長さんが農園を始めたらしくて。その関係者じゃない?」


「服装もバラバラだし、業者さんには見えないんですけど」


「有志が集ってくれている……って言っていたわ。つまりボランティアね」


「あー……言われてみれば、なんかこう、使命感に溢れている気がしますね」


「そうでしょう? 朝一番の船でやって来て、最終便ギリギリまで農作業をしてるらしいの。すごいわよねぇ」


 うんうんと頷きながら、雪絵さんは感心しきりだった。


 この小さな島に本土からあれだけの人を呼ぶなんて、村長さんはどんな手を使ったのだろう。


 しかも無償だと言うし、全てはあの人の人望がなせる業なのかもしれない。


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