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死んだ遺体が、ずらりと、田んぼに並べられた

青と黒の毛布にくるまれた

その屍は、一種独特のミイラとも取れるが

中身は、内臓の臓器が、そのまま入り

もうに三日もすれば、この炎天下では、悪臭を巻き散らしながら

腐りきることは、目に見るよりも明らかである

太陽は、天気予報を、そのまま鵜呑みに信じるのであれば、あと三日は、雲一つない晴天が、続くようであり

これは、夏を過ぎ去ろうと言う時間は、到底、遺体の鮮度を、持ち続けられるような

時期に合致している今時分は、持つほどの冷帯的、時分ではないのが、非常に、残念である

しかし、こんな場所に、いつまでも野ざらしにしているわけにはいかないが

それでも、火葬場に行けないと言うのも、また、いかしかたがないどうしようもない理由が、切迫し、そこには存在していることを、私は、伝えなければならないだろう

私は、燃え尽きることの出来ない

太陽の明かりを、直視しながら

田んぼのあぜ道の草の中に立ちながら

考えるでもなく、立ち尽くす

周りに、参列者のような、黒い服装の人間達が、立っており

どうすることもできない、現実の前に

この田んぼの近くの道で、火葬する事を、話し合っていた

別段、火葬場が、爆破されたり、故障したわけではない

ただ、火葬する順列が、多すぎて、到底、順番が、回ってこないのである

このまちには、火葬場は、一軒ばかり

そして、先日の大洪水により、多大なる

被害を、この盆地は、被ることになる

それは、一つのダムの崩壊と

度重なる雨と、鉄砲水により

深夜

それは、一夜にして、巨大なお椀の中に、味噌汁を、入れたように

その堤防を、茶碗の土手とし

その街は、知らぬ間に、沈んだのである

誰も、声を上げることはなく

ただ、家の天井

屋根ほどまでに、せりあがった

黄土色の味噌汁は

ただ、生命のスープとは、残酷なまでに

人を、水の中に、うずめていった

決壊した水は、本来であれば、守るはずの堤防を、逆に、逃げ道のない線として

この一帯を、死の調理場として、ただ、ただ、泥臭く埋めていった

水が引いたのが、それから、三日後

高台にあった

火葬場は、難を、のがれたが

しかし、人々の哀しみたるや、到底、言葉にすることもできず

動かない車の代わりに

荷台を、使い

または、ただ、家の中を、泥の中を

荒れ狂った跡を、見ながら、人を、探した


「しかし、薪が、皆湿っていて、ガソリンでも、かけても、燃えますかね」

泥のこびりついた廃材は、何処からともなく流れ着いて

辺りに散乱している

流木のようなものだ

しかし、角材なところを見ると

今回の洪水で、何処からか、人家の近くだろうが

流れて来たものと予想はできる

遺体は、いったんの田んぼ全てを、色とりどりの毛布で、覆い

辺りを、カラスの群れが、飛び回って居た

夜通し、誰かが居るので、いまだに、動物は、ここには、寄り付かないが

それでも、昆虫の類は、血気盛んに、匂いにつられているのか

じりじりと、田んぼの周りから、中央へと、必死に攻め立てている

私は、家から持ってきた

灯油の缶を、集められた一角に置きながら

いつ頃燃やすかの試案の輪の外にいた

一家全員居ないものも居れば

その日は、外出していたもの

三階建ての上だけ助かったもの

それは、人それぞれ、各自各自であった

国の支援は、堤防の決壊により

通路の修復が遅れたのと

家々が、主要な道路を、完全に、百メートルほど、ふさいでしまったがゆえに、ヘリが時折

降りては来るが、物資の安定供給は、遮断された

道の中で、細部まで、血管を、通り、伝えるほどのポンプ圧は無いように思われた

また、遺体の進行に、置いても、急ごしらえの

火葬場を、作る予定だと言うが

それも、十日後のことを考えると、到底、間に合う時間は、無い

その地区ごとに、遺体が、それぞれ集められ

それは、汚泥と木とわらが、まじりあった

緑一面だった田んぼに、時々、奇妙な物体として、浮かび上がらせていた

それは、各集落で、集められれ

その周りには、烏のような、黒い集団が、取り囲み

到底、火を燃やすと言う格好ではなかった

時間は、いつ頃からだろうか

誰かが、時計を見て、火をつけた

陽炎が、強烈な勢いを上げて

その田んぼに積み上げられた

遺体の上から、燃え上がる

木々が、ガソリンのせいで

無理やりに、着火し

黒い煙を、巻き散らし

それに、寄り添う赤い火が上に上がっていった

坊主が、急ごしらえの

長テーブルの後ろで、お経を唱え

あるものは、火の管理をし

あるものは、お経を、唱えていた

ただ、陽炎が、もうもうと、白く色を、変えながら、あがっていく

私は、死について

ただ、太陽を見ながら

考えていた



「それで、さ」

学校の前の席の幸子が

こちらに、お菓子の話題を、振ってきた

私は、教科書を、机の上に、置きながら

一体どのお菓子だったかと、スーパーのおかし棚のことを、考えて

言葉をとぎらせそうになるが

その商品名を、答えた

この学校の生徒も、三分の一程に、減っている

教師のいない教壇の後ろ

私はただ、笑っていた

彼女も、私を見て

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