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02『歩み出す一歩』

 ハッピーエンドを迎えるためにはどうすればいいか。状況を整理しよう。シビア師団に魔力を吸い込む装置あり、友達なし、陰湿な人あり、恋愛のことは内緒、『ミネシャ』としての記憶はないが知識は残っている。魔力制御は仮説証明段階、レニオーブが『一般魔法』の応用トレーニングを提案して、兄ちゃんから『変化魔法』の改良式をもらった、一年はあと残り約五ヶ月。レニオーブは褒められ慣れてないようだ。彼は私をおぶって運んでくれて、手を繋いでくれて、お姫様抱っこで救ってくれて、私は彼にあーんをしてあげた。


「おはよう、ミネシャちゃん。昨日はよく休めた?」


 ふぎゃあっ、こ、この明るくて和やかで心の不安なんか吹き飛ばしてくれそうな優しさが込もった蕩けるような声は、まさにそのレニオーブのものではないか。登校中に話しかけられるとはね。油断していたから驚いた。心を引き締めて後ろを振り返った。


 整然とした眉毛に長いまつげ、はっきりとした目鼻立ちに、上がった口元が顔を眩しくさせていて正に眉目秀麗。目が離せないほどのずば抜けて艶やかな美貌に思わずうっとりする。昨日あれだけ見たのに目がこれっぽっちも慣れてない。むしろこれが現実だと実感しているから細かいところまでその麗しさが感じられる。

 特出した長所があるわけではない私みたいなふつつかものでは到底彼と釣り合わない。今さらながらよくもあんなことやこんなことを平然としやがったな。厚かましい。


「ミネシャちゃん顔赤くない? 熱?」

「ふはっ、赤くなってる? あなたのことを考えていたからかな」

「うん? 一体どんなのを?」

「昨日あったことを思い返してた。それよりね、魔力制御に必要なのが何なのか分かった気がする!! これは私のお兄ちゃんの仮説だけどさ、証明さえできれば答えにもなるし、お兄ちゃんも別で調べてくれると言ったんだ。それにね、私コントロールうまくなったよ! これで研究は順調だね」

「仮説? 何があったの、一晩でコントロールがうまくなるなんてそんなによく効く方法を見つけた? あれだけ試してもだめだったのに、危ないことじゃないよね?!」

「何かを担保に力を手に入れたみたいなのじゃないからね?! あのね、うちのお兄ちゃん、セザルン・ルメンという学者なんだけど、知ってる?」


 レニオーブはぱっちりした目をさらに大きく開く。彼は見識が広いから兄ちゃんのことも当然知っているのか。兄ちゃんのような天才が私の身内だとは想像もつかなかったんだろうね。似ているところが一つもないし。


「そりゃこの分野に一番精通している方だから。隣国の研究所所属だと知っているけど、連絡を取り合っているの? 珍しい名字ではあるけど、ルメン夫妻の事例もあるからたまたま同じなのかと。ミネシャちゃんは尊敬できるお兄さんを持っているんだね」

「実はあそこに暮らしているとかじゃないけど、そうだよね、私の周りにはあなたといい、お兄ちゃんといい、尊敬できる人物だらけだよ! それで、そのお兄ちゃんの話によると、高い魔力の制御には意志力の強さが肝要だって。そして誰かのことを思う心の力はそれをより高めてくれる。精神力というのは急に変わることはあまりないから、今までそういった事例がなかったんじゃないかな。お兄ちゃんも個人の変化よりグループの共通点を見つける方向性で研究したんだ。けど想いは実験ができる。昨日だって効いていたみたいだし、私その想いの力と魔力制御の関連性を確かめたい!」

「キミのお兄さんが本気でそんなことを言ったの? 制御に影響を与えるのが意志や想いなどの精神的なものだと? そんな仮説、一度も耳にしたことがない。そういうことならキミのコントロールは最初から上手なはずなんじゃない? オレよりも何倍もキミの心の方が強いから」

「私よりあなたの心の方がずっと強いよ。頑張り続けることができるのは精神が強いという証拠だから。私なんてすぐ思い切ってしまうんだ。考えも覚悟も生半可で、高い魔力の制御には到底足りていなかった。力に担保はいらないけど代償、精神力は必要なんだ。私は力を手にしたいんじゃないけど研究の成功のため、あなたのために強くなりたい」

「オレのため……今資料とか持ってるのはある? あとで返すから貸してくれない、整理したいから。考えたいことも多いし。実験の前提条件は『互いのことを思い合う』でいいよね?」


 思い合う=愛し合う?? それって具体的にどんなことを? 想いというのも正直何なのかよく分からない。試行錯誤を経験すれば分かるようになるのかな。資料を渡して改良式が書かれた紙を見せるとレニオーブはこれを成功させたのかと、こんなことまで見せてもらっていいのかと言って私の許可を取ってからその紙の写真を撮った。


 研究の方は何とかなるとして交友関係はどうしよう。推しのルートでは周りから認められてから交際し始めるが、それはヒロインの人柄が誤解されていたからだった。クラスメイトが証言をして濡れ衣を着せようとする人を説得しなければならなかった。

 でもこれは誤解されているとかではなく、単に私みたいなのがレニオーブに補助役を任せて親しくしているのが気にくわないからなのでは? 羨ましくて焼く気持ちは分かるな! 攻略人物がクラスメイトだとこうも変わるのか。恋愛のことを内緒にしたのはレニオーブが嫌なことを言われないように『ミネシャ』が決めたんだろうな。


 昨日見た限りでは私のことを悪く言った女の子が三人で、他にも彼に気がありそうなのが一人いた。女学生は九人だから私を含めて過半数が彼に好意を寄せている! 凄まじい! 彼の周りには回りながら男の子達が後を絶たなかったが、たまに女の子達が口をはさんでくるときも親切に相手していた。

 割り込む隙も資格もない。気が重いな。私は皆に愛されている彼を横取りしようとしてるのか。違うな、横取りする気はない、堂々と隣に立ちたいだけだ。仲間入りしたい。残り四人の中の三人は推しルートで友達だったから余地があるのではないか。

 教室に着いたらまだ時間が早くて人が少ない。登校中も人目が少なかった。仲間入りできたらこんなの気にしなくなるのかな。その三人は来ているんだね、真面目だから早起きなのかな。


 一人目は姫カットをしたバーガンディーの腰まで届くストレートヘアに切れ長目と朱色の瞳のヴィミュ・ザビート。二人目は杏色の前髪を左に流し右にヘアピンをして、後ろ髪は端正ではなくて肩にも届かない、猫目に琥珀色の瞳のトアラ・キュダーレ。三人目は桃色の腰まで届く髪の一部を両側に厚く三つ編みにした、桜色のどんぐり眼のアザリン・ローデンだ。


 キュダーレさんは鞄から大きい薄卵色のぬいぐるみを取り出して机に置いた。右の方だけ黒い長くて丸い耳に犬の尻尾、つぶらな瞳に白いパーカー、おなじみのこの見た目は【カバナス】のマスコットキャラ、フーディーくんではないか。グッズもあるのか。


「あんたはんらこれ知ってるか、校長主体で作ってる魔動人形の試作品だって。親父がそのプロジェクトに加担しててテスターに選ばれたから送ってもらった。これって要求する魔力がバカデカくてさ、いくら機能がすごくても使い物にならないんだよ。何でこんなもんを作ってるんだろう。ここの校長って物好きだな。あたいらの学費をこんなとこに使ってるのかよ」

「そこまで言うってことは、トアちゃんの魔力でさえまともに動かせなかったということなのね。そんなの、お金持ちのご遊戯になら使えるのかしら。それが作られた目的は何なのよ」

「さあな。今まで出した技術をこれ一台で全部使えるようにしたらしいけど市販用でもないみたいでさ、用途は何だと親父に聞いてもはぐらかされるばかりだったぜ。大人の事情ってもんてか。呆れてあんたはんらに愚痴を言おうととりあえず持ってきた。呆れたところはそこだけじゃないがな」

「今までの技術ってことは生活のサポートをしたり、知識が豊富で適切なアドバイスをしてくれたりするのですかしら。妾は動くところが見てみたいですわ。技術に興味ありますし」

「あたいも見せたい気は山々だけどな」


 ぬいぐるみではなく、AIロボットだった。どう見てもロボットという概念がないだけなのでは。とにかくこれはチャンスかも。もし私のこの膨大な魔力であの人形を動かすことができたら、彼女達の私への認識は変わるだろう。なにより彼女達の喜ぶ姿がみたいし。


「あの、よかったら私が魔力を入れてみてもいいかな」

「あー? あんたはん……昨日制御に失敗して爆発を起こしたんじゃないのか。午後はへっちゃらに授業を受けてたが、大丈夫だったのか?」

「何ともなかった。気に掛けてくれたんだね。今度は爆発にならないよ、どうすればコントロールできるかコツを掴んだんだ。信じてほしいとは言えないから少し離れてて。人形は壊したら弁償するよ」

「どうしてきじょがこれを動かせようとするのよ。きじょは今まで自分と関係ないことに首を突っこんだりしなかったよね。そのコツとやらを試したいだけなら他を当たったらどうかしら」

「あなた達はこれが動いてる姿が見たいんじゃない? 私に手伝えることがあるなら、試してみたいと思ったんだ。だって、できたら皆喜んでくれそうだったから」

「喜んでほしいだけ? 危険を甘受することですのに? 嘘をついてるようには見えないですわね、お人好しのお節介さんなんですかしら。この学校では珍しいですけど、信頼はしてもいいんじゃないですかしら、其方たち」

「できるかどうかくらいなら試してみてもいいんじゃないかしら」

「あんたはんら正気か?! おい、ケガしても知らないぞ」


 万が一のために人形を私の席に運び、手を伸ばして魔力を込める。大量の魔力を込めるべきだから、想いの力というのが使えたならいいが、それが具体的にどういうことを示しているのか分からない。

 後ろからレニオーブの声がする。さっき昨日の装備を師団に置きに行くと言ったのに行かなかったのか。こちらを見ている気がする。私のことを気に掛けてくれているのか。

「これ倒れたらあたいらがおぶるカンジ?」

「そのときは任せるわ」

「なんでだよ! 試してみろと言ったのあんたはんだろ、せめて手伝えよ!」

「その必要はなさそうですけれどね。妾たちの出る幕ではなさそうですし」

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