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時は流れ、クラベル14歳、ガロファーノは19歳になった。この頃には、「バラの乙女」候補は4名まで減っていた。クラベルは日に日に美しくなり、令息たちからの熱い視線が途切れることがない。隠しているが首元のバラの蕾のあざは年齢と共に濃くなり、ここに印があることを主張しているようである。ガロファーノの体つきや顔も精悍なものとなった。同世代の交流会では2人は王家の姫君と騎士さながらの様子で、令嬢たちの羨望と嫉妬のまなざしが痛いほどである。
来月、クラベルは社交界にデビューする。この国の成人年齢は15歳だが、婚約者探しのために14歳でデビューし、人脈を広げるのである。春バラが咲き誇る5月に行われるル・バル・デ・デビュタントのために、クラベルとガロファーノは伯爵夫人と相談しながら、1年前から準備を進めてきた。デビューしたその日から、クラベルには縁談の申し込みが殺到することが予測できていた。賢く、美しく、未だに婚約者のいないクラベルは、跡継ぎではない令息たちにとって垂涎の的であり、なんとしてもその心を射止めようとデビュー前からあの手この手を使ってきていたのだ。これまでは穏やかに男たちをいなしていたガロファーノだが、これからはそうはいかないということに気づいていた。ガロファーノの出自が明かせない以上、家の力を使ってガロファーノを潰そうとする者が現れるかもしれない。衣装の最終チェックをした後、デビュタントが楽しみだと明るく話すクラベルに、ガロファーノは意を決して語りかけた。
「ベル、よく聞いてほしい。今まで僕はベルを一番近くで守ることが許されてきた。でもデビュタントが終わったら、今の僕の立場ではベルを守れない。それは僕が何者か明らかにされていないからだ。ベルはとてもきれいだし、僕と一緒に勉強も頑張って、賢さも他の令嬢とは一線を画している。今のベルなら、公爵令息や他国の王族に望まれることだったあるだろう。だけど、僕は嫌だ。ずっとベルの傍で、ベルと一緒にいたい。ベルはどう思っている?」
「ガロ、1つだけ教えて。ガロが私と一緒にいたいというのは、兄のようにということ? 騎士としてということ? それとも……」
「僕はベルを愛している」
「ガロ、ありがとう。うれしい。でも1つ気になることがあるわ」
「何だい?」
「もしガロと一生一緒に暮らせるようになるとしたら、私が『バラの乙女』に選ばれなかったということでしょう? ガロは私に『ヴェレッド王のバラ』を咲かせるために一生懸命いろんなことを教えてくれた。それは、ガロが私に『バラの乙女』になってほしいからだと思っていたの。もし、私が『バラの乙女』に選ばれてしまったら王太子妃になってしまう。私、あなたのどちらの望みをかなえたらいいの?」
ガロファーノは押し黙った。クラベルは確かに自分を愛してくれている。だからこそ、『バラの乙女』にならなくていいのか、と聞いてくれる。全てのからくりを知るガロファーノは、まだ全てを言えぬ自分が恨めしい。
「『バラの乙女』を目指すんだ。ベルは王太子妃になってしまうかもしれない。ベルが『バラの乙女』になったら、僕は『バラの乙女』を育てた功績で何か1つ希望を叶えてもらえるんだ。そうしたら、君の護衛騎士になって、ずっと傍で守るよ」
「私は、ガロの隣がいい」
「今はそのベルの気持ちだけで十分だ。もし『バラの乙女』にならなかったら、きっと僕の奥さんになってくれるかい?」
「もちろんよ!」
「わかった。いいかい、僕たちは両思いなんだ。でも貴族が自分の思いだけで動いてはならないということも、ベルはよく分かっているはずだ。全責任を全うし、その上でできる限り自分も幸せになれる道を選ぶ。僕たちに与えられた仕事は、そんじょそこらの貴族にできることじゃない。この国を守るための、機密に当たるほどの重要案件なんだ。必ず『ヴェレッド王のバラ』を咲かせよう。いいね?」
「分かったわ。貴族ですもの」
本当は2人ともそんなことは分かりたくない。だが、分かったふりをしてやるしかない。そのためにも、ガロファーノはクラベルの気持ちを確認したかったのだ。
デビュタントまで2週間となった頃、クラベルはお茶会に招待された。ガロファーノに執心していた、あの公爵令嬢からの招待である。本当は行きたくなかったが、上位貴族からの招待は招集と同義である。クラベルはガロファーノをエスコート兼護衛として訪問することにした。
お茶会当日、クラベルはガロファーノの緑の瞳と同じ色のドレスを選んだ。ガロファーノはアシェル騎士団の礼装用騎士服に、クラベルの青い瞳と同じ色のリボンで長い髪を結んでいる。剣帯の青い房飾りは、ガロファーノがクラベルにお願いして手づから作ってもらった、ガロファーノお気に入りの一品だ。
「ルーチェ公爵令嬢、本日はお招きくださいまして、ありがとうございます」
クラベルは主催者であるルーチェ公爵令嬢オルテンシアに挨拶をした。オルテンシアはクラベルをちらと見た。
「あら、来たのね。婚約者でもないのに見目の良い男を侍らせて茶会に来るなんて、はしたないわね」
ああ、この人は私に嫌な言葉を浴びせて、私を貶すために呼びつけたのだ、とクラベルは気づいた。
「ならば、公爵令嬢も同じですね。あなたの周りを、見目の良い男性が5人も取り囲んでいます」
ガロファーノの声は低く、その気は威圧を放っている。ルーチェ公爵家の護衛騎士が近づこうとしたが、威圧に負けて足が動かない。オルテンシアと周りの貴族令息たちは顔が真っ青になり、ガタガタと震えて、声も出せない。
「何も言い返せないご様子ですね。お招きに応じて顔は出しましたので、私たちはこれで」
ガロファーノの威圧を間近に見たのが初めてだったクラベルは、そのあまりの気配に驚いてしまった。だが、ガロファーノが公爵令嬢を黙らせ、これ以上嫌な思いをしなくても済むようにしてくれたことが、本当にうれしかった。
「ガロ、ありがとう、私を守ってくれて」
帰りの馬車の中で、クラベルはガロファーノにお礼を言った。ガロファーノは優しく微笑んだが、デビュタントの時に何か仕掛けてくるかもしれないから気をつけよう、と言った。
「ああいう連中は、自分が悪いと思っていない。恥をかかされたと逆恨みして、ベルを傷付けようとするかもしれないからね」
「ガロさえいれば、大丈夫よ」
「ああ、必ず守るよ」
2人は今日のことをアシェル伯爵にも報告した。
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