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丸の内ドライジンジャー  作者: 一二 一め(ひとつ はじめ)
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開店後ほどなくして本日の口開けのお客さんの来店。


「あら吉住さんいらっしゃい」そういって絹はカウンターに近寄る40代の猫背でころっとしたお腹の男性に声をかけた。




「絹さんこんばんは。今日も寒くなってきたね」そういいながら吉住は左から2つ目のスツールに腰掛けビールを注文した。




「花ちゃん、吉住さんビールねー」「はい。いらっしゃいませ」


花はビールサーバーからハイネケンを注ぎながら「吉住さん久しぶりですね」と声をかけた。


「たまに来ていたんだけど、さやかちゃんの日が続いてたからかな。偶然だよ、狙って来ているわけじゃないよ」




余計な一言を聞き流し、花はビールを時計柄のコースターにのせて吉住に「おまたせしました」と笑顔で提供した。




さやかとは花と同じくこの店で働くスタッフで、週末以外は花とさやかの交代で出勤することになっている。ボーイッシュなさやかはテキパキと仕事をこなす元気な先輩。




休みの日はお芝居や映画を観に行くのが趣味で、「花も今度一緒に行こうね」と誘われている。お互いが休みの水曜に舞台を観に行くことになっている。舞台を観に行ったことがない花は何を観るかはさやかに任せているので今から楽しみだ。




金曜と土曜は来客も増えるので狭いカウンター内を3人で走り回って対応しているが平日はそこまで混雑することもないし、そもそも6席しかないので二人がちょうどいい。




定休日の水曜以外、絹は毎日店に立っているのだが本人は楽しそうに働いている。店長兼オーナーだと心構えも変わってくるのだろう。花は気楽な自分と比較してしまう。




「今日はもうお仕事おわりですか」絹が尋ねると、吉住は「うん、月曜から早番だったからもうくたくた」


近くのファーストフード店の店長をしている吉住は、早番の時にたまに立ち寄っている。




「たまにはバイトの子たちと来てくださいよ」花が声をかけると、


「いやここは一人がいいよ。隠れ家的な」


「バイトの人は学生が多いんですか」花が聞くと「そうだね、でも昼間は主婦のパートとか、夜は仕事帰りの社会人の掛け持ちもいるし、いろいろだよ」




「いいな、私も『いらっしゃいませ、ハンバーガーセットでございますね、ご一緒にポテトはいかがですか、こちらで召し上がりになりますか』ってやってみたかったです」花がおどけてレジ打ちの真似をしているのを見て吉住は、


「花ちゃんならすぐにでも採用だよ。でもここより時給安いよ」


横から絹が「うちの看板娘を引き抜かないで下さいね」と言って笑った。




そんな話をしていると二人組のお客様が来店し、絹と花はそれぞれ笑顔でいらっしゃいませと声かけ、右端の席に案内した。


「そうだ吉住さん、この近くで変な人見ませんでした?」ビールにレモンを入れたカクテルのクラーラを吉住の前のカウンターに置きながら、緑男の話したくてしたくてしょうがなかった花は出勤前の顛末の話をし始めた。


「そこってこの近くだよね、見なかったな。うちの店にも来なかったと思うし」

クラーラを一口呑んで目じりが下がって口角が上がった吉住は「バラエティのドッキリとかじゃない?そのうち花ちゃん出てたりして」と、私と同じような考えを笑顔でそういう吉住の顔を見るとそうなのかなとも思うが

「でも撮影の人たちいなかったし、ああいうのって終わった後『ドッキリでしたー』みたいなのするじゃないですか」

「そもそもドッキリしたわけじゃなくて、どちらかというと不信者っぽくて」


その横で絹は二人組のお客さんを前に「ごゆっくりどうぞ」と赤いカクテルをカウンターにサーブした。

この所作が花は好きだ。

絹の時だけは置くのではなく、サーブすると言いたくなる。少し手前に置いたコースターの上にグラスを置きグラスの底を指で添え、すっと前に押し出す。水面は一切波打たない。一拍置いて手を放し、ごゆっくりどうぞ。かっこいい。


顔をすっとこちらに向けた絹は微笑みを残したままで

「その緑の人なら平気だと思うな、もう当分来ないと思うし」こともなげに言った。

「え、絹さん知ってたんですか、なら早く教えてくださいよ」

「花ちゃんから聞いたの今だったし」それもそうでした。

「で誰ですかあの人?」

「名前とかは知らないけど」

「今度さやかちゃんに聞いてみたら」さやかちゃんの友達って感じはしないですよと反論しつつ、今度会ったら早速聞いてみようと花は思った。


ところでなぜさやかちゃんが知っていると絹さんは思ったのだろうと疑問に思い聞いてみると

「ふふふ」と茶目っ気のある笑顔で絹はこちらを見つめ、

「前にさやかちゃんも同じような恰好で出勤してきたことあったのよ」

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