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W.B.C !!  作者: 平一平
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十章 情報収集

「やっぱり、グラウンドにはいねぇな……」

 専用グラウンドの外から確認してみるが、遊理の姿は見当たらない。

 あれだけ目立つ容姿をしているのだから、いるなら即座に見つけることができるはずである。

「ここにいねぇなら、どこにいんだよ……」

 克弥は、深いため息をついて、途方に暮れた。

 すると、傍らを何本ものペットボトルを抱えた人物が通り過ぎる。

 西に傾いた陽光に照らされ、キラキラと美しく光り輝く、銀色の髪――

「…………ん?」

 克弥は何となく、その人物を視線で追いかける。

 視線の先の人物は、野球部専用グラウンドに入っていき、近くにいた部員たちに呼びかけた。

「先輩方、注文のドリンク買ってきました!」

(……見てはいけないものを見た気がする)

 克弥はそう思ったものの、呆然とその光景を眺め続けていた。

 爽やかな表情を浮かべ、パシリにされている少年こそが、目的の人物、西岡遊理であった。

遊理は克弥の存在に気付くと、驚きの表情を浮かべた。

 一応、手をあげて挨拶をする克弥。

 反射的に、手をあげようとした遊理だったが

「おう、そこ置いとけ。そんで早く出て行けよ。ここは才能の無い一年が入れる場所じゃねぇんだからよ」

 などと、辛辣な言葉を野球部の先輩と思しき人物に投げかけられ、さらに突き飛ばされる。

 克弥はその光景を見て驚き、さらに怒りも感じたが、遊理の方はすぐさま突き飛ばした人物に対して、

「すみませんでした」

 と謝り、専用グラウンドから出てきた。

 そして、彼は何故か大グラウンドの方に向かっている。

 克弥は慌てて遊理の後を追う。

「遊理!」

 追いついた克弥は遊理の肩を掴む。

「……何か用?」

 遊理はいつもの爽やか青少年の皮を被らず、不機嫌そうに克弥に聞く。

「あ、あぁ、その、なんだ……」

 勢いで追いかけて呼び止めた克弥は、用件を言うことができない。というより、言える雰囲気ではない。

「……僕の実力じゃ、パシリが精一杯なんだよ」

 克弥が黙っていると、ぼそりと遊理が呟き始めた。

「中学の頃はさ、リトルシニアのチームでベンチ入りもしてたけど、それぐらいの奴は名門の志士高校にはたくさんいるんだよ。それこそ、どこぞのチームのエースだったって奴がいっぱいね。そんな中じゃ、ベンチ選手だった僕なんて、一山幾らくらいの存在なんだよ。専用グラウンドにも入れてもらえず、こっちの大グラウンドの隅っこで基礎練をするくらいしかできない存在さ……」

 独り言のように、愚痴を呟く遊理に、克弥はどう反応したらいいか困ってしまう。

 そう、反応に困った上で、

「……俺たちのところに来ないか?」

 思わず、そんな風に声をかけていた。

 何故かは分からない。もしかしたら、同情してしまったのかもしれない。いや、とにかく単純に嫌だったのかもしれない。友達の落ち込んだ表情をみることが。

 とにかく、克弥は遊理を誘っていた。

「お前たちのとこ? ……あぁ、昼間、桃が言ってたニューベースボールクラブのこと?」

「実は、野球部と試合をすることになった」

 この一言に、遊理は怪訝な顔つきで尋ねる。

「はぁ? 試合って何のこと?」

「桃がむちゃくちゃなことを言い出してだな――」

 克弥は、先程まで行われていた桃のとんでも行動について、説明する。

「――マジ?」

 事情を聞き終えた遊理が、呆れたような表情を浮かべていた。

「マジだ」

 至極、真面目な顔で克弥が答える。

 遊理から『バッカじゃないの? なに考えてるんだよ?』などと言った台詞が返ってくるのを予想して、同意をする準備まで万端の状態だ。

 しかし、

「――くくく! はははははっ! あ、相変わらず、くく、面白いことするなぁ! くふふ!」

 予想外の反応が返ってきた。

 先程の愚痴から考えても、ストレスが溜まっていそうだったから、壊れちゃったかな? と思わず心配になってしまう。

「そ、それで、お前ら五人しかいないのに、どうやって、ま、守る気なんだ?」

 笑いを堪えながら、遊理が克弥に問いかける。

「あ、あぁ、桃には何か考えがあるらしいが、俺にはどうも不安で仕方がない。経験者であるお前がいてくれたら心強いんだが……」

「ふーん……」

 克弥の言葉を聞いて、遊理は考える素振りを見せる。

 そして、

「……悪い、こっちの部活でまだ頑張ってみたいんだ」

 断りの返事が返ってきた。

「――そうか」

 ある程度、予想は出来ていた。

 プライドが高く、執念深い遊理が、この程度で野球部を辞めるわけがない。

 そう分かっていた上での誘いだった。

「それで、用はそのことだけ?」

 気のせいか、先程より晴れやかな表情で遊理が尋ねてくる。

「あ、もう一つあるんだが……嫌だったら、正直に嫌と言ってくれ」

「前フリがすでに嫌な感じだね。本当に嫌なことだったら、お前を呪うから」

 もはや、猫を被る気が全くないらしく、本来の調子になっている遊理に、克弥は当初の目的を告げる。

「野球部の情報、少しくれないか?」

『はぁ? 何言ってんだよ。所属している部の情報を対戦相手に話すわけないだろ』と言う答えが返ってくるだろう、というより、それが自然だ、と克弥は考えていた。

「あぁ、別にいいよ」

 しかし、またも予想外の返答。今日の遊理は、とことん克弥の予想に反するつもりらしい。

「え? いいのか?」

「ま、少しくらいなら。僕も少し、さっきの件でむかついてるし……」

 理由を聞いて少し納得。遊理の本質は根暗で執念深い。先程の先輩の言動にはさぞかし恨みを抱いていたのだろう。

「あ、ありがとな、遊理」

 一応、礼をいう克弥。照れくさいのか、遊理は顔を背けて対応する。

「――で、レギュラーの打撃情報だけでいいの?」

「あぁ、むしろそれ以上は覚える気がねぇ」

 遊理は克弥の言葉に呆れたものの、すぐに専用グラウンド近くで、レギュラーの説明をしてくれることになった。

「レギュラーっていっても、まだ争ってるポジションもあるから、確定しているのは六人くらいなんだ」

「そうなのか?」

 遊理がサボってる、もしくはスパイをしていると思われると不味いので、堂々と見学するつもりがこそこそとした偵察になってしまったが、問題はないだろうと克弥は考える。

「まずは、キャプテンの宮本先輩だね」

「あぁ、その人の顔は分かる。さっき会ったし」

 遊理が指を差した先を見ると、確かにそこには先程まで桃と会話していた野球部のキャプテンの姿があった。ちょうどバッティング練習をしている最中のようだ。

 左打席にキャプテンが入り、打撃フォームを取る。

「あの人は、なんていうか、本当に野球を楽しそうにする人で、練習も人一倍こなすから、監督を含めて部員全員から信頼を得てる。勿論、実力も半端じゃない」

 遊理が説明を始めると同時に、宮本キャプテンがバッティングピッチャーから投げられた球を鋭いスイングで弾き飛ばす。恐ろしいほどの高速スイングに克弥は驚きを隠せない。

 速いライナー性の打球が、張り巡らされた防球ネットに突き刺さる。

 素人が見ても分かるほど、強烈な打球だった。

「天性のパワーに、磨きこまれた技術……超高校級と言われ、プロからも注目されている」

 遊理からの情報を聞きながらも、克弥の目は宮本キャプテンのバッティングに釘付けになってしまっている。

 彼の動作から、目を離せない。催眠術にでもかかったかのように、引き込まれてしまう。

 同じ高校生だとは思えない輝きを放つ彼に、見入ってしまった。

 しかし、克弥は自分の頬を自分で張って、なんとか意識を正常に戻す。

「……何してんの?」

「いや、このままじゃ戦う前からオーラに飲まれそうだったんで、気合を入れなおした」

 遊理の不可思議なものを見る目とともに投げかけられた疑問に答えて、克弥は見入るのではなく、分析するために宮本キャプテンを観察する。

「なんか、苦手なコースとかないのか?」

 克弥の質問に遊理が首を振って答える。

「絶対的に苦手ってコースはないね。どんなコースでも、自分のバットの届く距離ならスイングしてくる。しいていうなら、外側低めのコースだけど、ここは誰でも苦手と言えるしね。変化球を苦にするタイプでもない。さっきのスイングスピードなら長く球の動きを見てられるしミートも巧い。プロ注目も納得の実力さ」

「本気で凄え人だな……弱点はなし、か」

「いや……」

 克弥の言葉に、遊理が顎に手を当てて考えるような素振りを見せながら答える。

「そういうわけでもない。さっきも言ったとおり、自分の届くところならスイングしてくるケースが多い。それがボール球でも、ね。つまり、あの人を追い込むこと自体はさほど難しくない。難しいコースに投げてファールでカウントを取るって戦法が取りやすい……それが弱点とも言える部分なんだけど……」

 遊理は宮本キャプテンの弱点らしきことを話すが、途中で言いよどむ。

「追い込んだ後が面倒なんだろ?」

 話の流れを読んで、先に克弥が続きを告げる。

「その通り。下手したらどんな球を投げてもカットされて、完全なボール球は見極められる。そして、球数をドンドン増やされていき、根負けして甘いコースに変化球が抜けたり、力任せの棒球なんて投げようもんならジ・エンド」

「……厄介なバッターってことは十分に分かった」

 しかし、その厄介なバッターに勝たなければ、廃部一直線だ。

 正直、こんなクラブ、無くなったってどうでもいい、と克弥は思っている。

 しかし、負けたときのことを想像すると、勝ちたくなってくる。

 負けたときの桃のことを考えると、途端に負けるものか、と気合が入る。

 いや違うぞ別に桃のためじゃない俺が負けず嫌いだからだ、と誰にするわけでもなく心の中に生じた言い訳を掻き消し、

「――遊理。他のレギュラーの情報もくれ」

 己に課された情報収集の任を全うすべく、遊理に情報提供を促した。


年内に後一回、更新予定。詳しくは活動報告にて。

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