表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W.B.C !!  作者: 平一平
1/14

プロローグ 無死満塁


 九回ノーアウト満塁。

 一発出れば、いや、ヒット一本で逆転サヨナラの大ピンチ。

 そんな状況下に置かれたキャッチャーの心理を、まさかリアルで味わうとは、俺も予想していなかった。嫌な汗が止め処なく流れていて、正直、全てを投げ出したい気分だ。

 実際には、九回ではないのだが、このイニングを押さえなければ負け、という意味では同じと言ってもいいだろう。

 キャッチャーの俺ですら、こんなにびびってるんだ。マウンド上のピッチャーは、もっと緊張してんだろ、と普通の人なら考えるだろう。

 しかし、残念。うちのピッチャーはそれこそ満面という言葉がぴったりなぐらいの笑顔だ。

 気が狂ったのか、とも考えられるが、あいつは正真正銘、正気そのものだ。

 それもそのはず、このピンチはあいつがわざと作ったものだった。

いきなり、最初のバッターに敬遠気味のフォアボール。それを後の二人にも続けて、この状態を作り出したのだ。

あいつは、不敵な笑顔で、

「ハンデはこれくらいで十分か?」

 対戦相手に向かって、こんなことまで言っている。

 勿論、相手からは野次やブーイングの嵐。代わりに観客からは大歓声。

俺はただ呆れるだけだった。

 まぁ、でも、そのほうがあいつらしい。

 お前はいつでも笑ってろ。くだらない緊張や悩みなんかと無縁なんだ。お前は野球をしているときが一番楽しいんだろ? 楽しいから、笑えるんだ。

 俺はお前に無理やり付き合わされてるだけだ。お前ほど、野球に真摯じゃあない。今、お前を鼓舞させるために声をかけまくってる、内野の四人も俺と同じだ。いや、一人くらいは本気で野球をやってるやつがいるだろうが、大体はお前の無茶にただ付き合っているだけの、人の良い奴らだ。

 だから、こんな試合、ホントはどうでもいい。そう、どうでもいいはずなんだ。

 でも、俺の心はそんなこと、一ミリも……いや、一ナノほども考えていない。

 矛盾してるって? だって、仕方ないだろ。ホントのことなんだから。

 勝ちたい。

 ただ、それだけを考えている。

 自分が思っている以上にガキなのか負けず嫌いなのか、

 それとも、男の子ってのは、こんな状況になると、燃えるように出来ちまっているのか……。

 もし、そうだとしたら、男の子の単純な精神の造りに絶望しちまうところだ。

 だが、生憎だったな。男の子だから、という理屈は、ある理由により考えられない。

 ということは、俺がガキか負けず嫌いなだけらしい。

 十五年も生きて、新しい自分を発見だ。だからといって、何も嬉しくはない。

「さぁ、奪三振劇の始まりだ、瞬きなんかして見逃すなよ!!」

 マウンド上には、笑顔で三振宣言をしている馬鹿がいた。

 その眼は冗談を言っている眼ではない。炎を灯したように燃えている眼だった。

 この場にいる誰よりも緊張すべき立場のはずなのに、誰よりも熱く燃えているこいつの、胆の据わり方は尋常ではない。精神力だけなら、メジャークラスだ。

 ただ、こっちは一般人なんだ。勝ちたい、と強く思っているが、正直、胃が限界に近い。

 こんなプレッシャーを背負いながらプロは毎日を過ごしているのか、と思わず、テレビを通して見る野球選手たちの凄さを実感。

 ごめんよ、これからは極力、野次らないことにするよ、とか思いつつ、俺の手は自然とミットを構えていた。

 子供のころから、あいつに付き合って、あいつの球を取ってるんだ。あいつの投球の間は分かってる。

 サインなんかいらない。そもそも、サインなんか作ってない。

 ただ、あいつが投げたいところに投げて、俺はそれを受けるだけだ。

 キャッチャー失格? ほっといてくれ。さっきも言ったように、俺は付き合わされてるだけなんだ。

 いつも、あいつは俺の事なんか考えないで、俺を巻き込む。正確には、俺とその他四人か。

 そう、このチーム作った、あの日だってそうだった……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ