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さとりの彼女は良い女

作者: 桑鷹三好

こういう投稿は久しぶりなので腕がなまってないか不安ですが頑張りました。でも普段からもっと短い物ばっかり書いているからもう少し描写入れた方が良かったかな?

「おはよう」

「おはようございます」

「おはようさん」

「おはよ!」

 他愛無い挨拶がされる。朝の日差しがさすいつもの変わらない日常だ。皆が制服に身を包み、学業の場に向けて歩を進めるそんな場所である。

『う○こ漏れそう!』

『昨日のドラマ良かった』

『宿題また写させてもらおう』

『あいつ浮気していたとかマジでありえない!』

 こうして、聞かれたくない人たちの秘密も聞こえてしまうのも、慣れたものである。




 私の名前は科野花梨しなのかりん、高校二年生だ。普通の高校二年生と言わなかったのは、私が人間ではなく妖怪であるということが理由である。

 妖怪は土地神に近かったり人間の想像から生まれたり様々であるが、人間がいると思ってくれない限り生きられない不思議な生き物である。妖怪に詳しい人が言うには、この世に姿を繋ぎ止めるための妖力が人の思いや信仰心に委ねられているためにそうなると言っていたが、詳しい話は私にはわからない。

 しかし、妖怪は一時期本当に数を減らした時代があったらしい。というのも、ほとんどの人間が妖怪どころか神も信じなくなったために、日本という国において妖怪が生きるには厳しい時代が来ていたという。その時に、妖怪たちは必死に生き延びる方法を模索して、どうにか人間と一緒に生活するためのあらゆる条約を締結したらしい。そして、今では日本中で妖怪たちは表を歩きながら人間たちと生活をしている。




「おはようございます」

「はい、おはようございます」

 その声が聞こえて、私はまたあの人の声が聞こえるのかと身構えた。

「おはようございます」

「はい、おはようございます」

『ああ、花梨は今日もかわいいな』

 その心の声が聞こえているのを知りつつ、私は顔に出さないよう必死に堪えながらそしらぬふりして校門を通り抜ける。毎朝校門で挨拶をする生徒会長の幼馴染である男、常盤雲雀ときわひばりの姿を横目に。

「おはようございます」

「はい、おはようございます」

 優しい笑顔で今日も全校生徒に挨拶をする人たちに手を振っているのを、今日も私は見ていた。




 国立御斎ヶ原学園。日本中どころか世界中から妖怪たちを受け入れて、人間と共存する生活をするために共同で授業と生活をさせている特権的な学園であり研究機関。そこの機関で私たち妖怪は人間と互いの生活をよくするため、または共存する上での障害について話し合っている。


「それでは、やはり考えていることは自分の意志ではコントロールできないんだね」

『はあ、早く今夜のデート行きたい』

「はい」

「ちなみに今私が何考えているか分かる?」

『下着の色何がいいかなあ』

「デートに着ていく下着の色の事考えています」

「正解」

 これで教師なのだからこの人本当にすごいと思う。小野塚先生は何か手元のカルテにあれこれ書いた後、私に退室を促す。

「じゃあ、今日はこれで終わりだからまっすぐ教室に帰るんだよ。くれぐれも生徒会室には寄らないようにね」

「生徒会でもないのになんでそんなこと言うんですか」

「だって、愛しの彼氏君がいるじゃない」

『常盤君と相思相愛なのに何で付き合わないかな?』

「先生訴えますよ?」

 そうして私は医務室を後にした。



「それで彼氏にまた振られたの! 今度は一週間で逃げられた!」

「雪菜ちゃんもう付き合うたびに彼氏さんと同棲しようとするのは止めたらどうなのです?」

「それは絶対に嫌」

 クラスの友達と一緒にお弁当を食べる昼休み。この時間だって、私にしてみれば人の心が聞こえてしまうそんな時間だ。

『なんでどの人も私と一緒に住もうとするの嫌がるの。ちょっとお風呂に入ったりトイレに入っただけでしょ。後首輪つかったり手錠使ったりしただけなのに、監禁とかなのに大袈裟じゃない⁉』

『彼氏さんが出来るの羨ましいのです。私なんかロリコンさんしか寄ってこないのに』

 このように。

 一人は雪女の雪菜ちゃん。顔は白人と見間違えちゃうほどのきれいな顔に白色の髪が似合っている美人さんなのに、彼氏に逃げられた数が今年だけで二桁、通算なら四桁も目前の残念美人さんである。

 もう一人は座敷童のあずさちゃん。高校生にもなっているのに見た目や口調から小学生に勘違いされることも多いかわいそうな子で、彼氏募集中なのに見つからないか変な人を誘っていると勘違いされやすい女の子である。

「花梨ちゃん何をすましたような顔しているのです?」

「どうしたの、べつに何もないよ」

「もしかして、彼氏出来ない私の声聞いていたの?」

「それは聞こえちゃうから仕方ないでしょ」

 二人だって、聞こえちゃうのを承知の上で私と食事をしてくれているのだから。

「ねえ、私の何がいけないのか教えてよ」

「それは良い考えなのです」

「ええ」

 二人にそう言われ、別に恋愛の相談のプロじゃないしなと思いつつ困ってしまう。

『次こそは失敗したくないの、お願い』

『お友達さんならお願いしたいのです』

 友達と言う言葉に弱いしな、私。

「分かった、出来ることまではやる」

「わーい、良かったのです」

「ありがとう! 花梨大好き!」

「ちょっと、抱き着かなくっても分かるから」

 内心嬉しくなりつつも、私は雪菜を離してから相手の話を聞く。

「まず、どんな一日送っていたのか教えてくれない」

「一日って、彼氏との?」

「うん」

「えー、恥ずかしいな」

「もったいぶらないで、ほら話す」

 少し不貞腐れた様子だが、雪菜は話始める。


「えっとね、朝は私が六時に起きて朝食を作るでしょう。それで、六時二十七分から三十二分の間にベッドの手錠の鍵を外しに行くでしょう。それで彼氏が起きるでしょう。その後は三分以内にトイレに行くように促して、排便させるでしょう。体調管理は重要だから排便は毎日回収して……」


「ちょっと待って」

「何?」

 これだけで既に怖い話になってきたために私は一度話をストップさせた。

「あのさあ、毎日その分単位のスケジュール徹底させているの?」

「そうだけど?」

「……」

 だめだ、何が悪いのか分かっていない彼女は本当にきょとんとしている。

『排便ってう〇ちのことですよね? そんな汚い物、どうして集めているのです?』

 あずさも心の中ですんごく困惑したように考えごとをしていた。

「とりあえずまずはその束縛を止めてあげたらいいと思うよ」

「何で⁉ なんで花梨も束縛だって言うの⁉」

 だって事実束縛としか思えないのだもの。

「食事中に静かに出来ないのかしら?」

「何よ」

「いや、もてない女は可哀そうだなって」

「何ですって!」

「止めなさい。サキュバスなんかに付き合っている数で勝ち目はないって」

「だからって」

『まあ、あいつら金づるかパパだし彼氏じゃないけれど』

『悔しいよ何も言い返せないのが!』

 雪菜には悪い、でもここでトラブルを起こせば雪菜が悪者になっちゃう。

「それはそうと、あなたに用事があるのよ。確か科野さんかしら」

「そうだけど、何」


「私今日常盤さんに告白するの」


「は?」

「だから、生徒会長に今日告白するの。だいぶ前から今日校舎裏に来てねって言っていたのよ」

「それで、どうして私にそれを言いに来たの」

「いや、確か誰かが今日誕生日らしいけれどいつまでも告白しないならその席もらっちゃおうかなって」

「あんた」

「大丈夫だよ、雪菜」

「でも花梨!」

「あいつは間違いなくあんたを振るから。これは幼馴染として絶対に言える」

 私は、毅然とした態度でそう言いきった。

「あっそ、まあいいわ。じゃ、それだけだから」

 そう言うと、名前も知らないサキュバスの女生徒はどこかに行った。

「花梨ちゃん」

 あずさちゃんが不安そうに私を見る。私は、平静を装うのが精いっぱいだった。


 結局私は気になって校舎裏に来ていた。

「常盤雲雀先輩」

「なんだい、今日は大事な用事があって急いでいるんだ」

 あのサキュバスの女の子後輩だったんだ。そう思いつつ、私は二人の様子を隠れながら見た。

「先輩、今日はお願いがあってきました」

「お願いとは?」

 その時、直感的に私は嫌な予感がした。止めようとした、しかし。

「先輩、私の彼女になってください。私の催眠で『はい』って言うだけですよ?」

 遅かった。彼女は今確かに、能力を使ったのだ。

「先輩聞いていますか、そこで隠れている科野先輩ですよ?」

「……気が付いていたの」

「声上ずっていますよ。まあ良いです。だってこうしてあなたの好きな人を奪えたんですから」

「あんた」

「報告しますか? でも先輩が証言してくれますよ、嘘を言っているのは科野先輩だって」

「あんた」

「邪魔ですね。もう『帰って下さい』」

 その言葉を聞いた私は、意識が奥深くに無くなって行き、そのまま帰るようにその場を後にした。




 私の名前は科野花梨しなのかりん、高校二年生だ。普通の高校二年生と言わなかったのは、私が人間ではなく『さとり』という妖怪であるということが理由である。

 さとりとは、相手の考えていることを読んでからかったりする妖怪である。

 そんな私にとって、誕生日は凄く憂鬱な日である。

 思い返せば幼少の頃、両親や幼稚園の同級生達や常盤たちは私たちに大切にしてくれた。だからこそ、誕生日会には私が好きなものを考えてくれたり、サプライズをしようとあれこれ企画してくれた。


『ありがとう皆! 一か月前からずっと考えてくれていたの知っていたよ! ありがとう!』


 私は自分の言葉でサプライズパーティーをめちゃくちゃにした。

 両親は自分がさとりだから気がついちゃうんだねと笑ってくれた。

 でも人間の幼稚園の先生や同級生は面白くなさそうだった。


『次はお歌でしょう!』

『私の読みたかった本だよね! ありがとう!』

『隠し味知っているよ! 本当にありがとう!』


 何もかも知っていた。サプライズしたかった内容を全部言い当てた私は主役なのに、褒められなかった。むしろ、人を離してしまった。同じことは、小学校や、中学校でもあった。

 今度は失敗しないようにと必死にこらえていたが、みんな気が付いていた。私がサプライズに気が付いていたから、後ろから脅かそうとしたり、何処に何を隠したりしているか、その他いろいろな用意を知っているが黙っていることに。そうして私は友達を失った。


『考えを読まれるなら読まれたくないことを普段から考えないようにすればいいだけなじゃないですか。私は読まれて嫌な事などありませんから、友達になりましょう』

『私はどんな人とでもお友達になりたいのです。だからお友達になりましょう』


 そんな風に言ってくれる友達を、新しく二人も作って、やっと楽しい学園生活を送れそうだったのに。また、誕生日が嫌な日になる。


『科野花梨さん、科野花梨さん。至急生徒会室まで来てください! 繰り返します、科野花梨さん、科野花梨さん。至急生徒会室まで来てください!』


「!」

 校門まで来た時だった。その校内放送によって、意識が戻ったのは。思い出したのは、何があって私はここにいるのか。そして、意識を失っている中で、私が下駄箱の中で見つけたが鞄にしまったものの存在を。

「これ」

 そう言って私は鞄から出した手紙を読んだ。

『生徒会室に十七時に来て欲しい』

 常盤の文字。奇麗なその文字は何度も呼んだことのある文字である。間違えるはずがない。なのに、私は。

「急がなきゃ」

 私は急いで校舎に戻って、生徒会室に向かった。初めてそこに向かった。

「生徒会室」

 噂によると、特別な学園だからこそ都合の良い設備がある一方で生徒のためにあらゆる事象に対処する学園の要。

「初めて来た」

 普通の生徒は入室の許可すらなく、普段入る事すらないそんな場所。しかし、私は確かにここに呼ばれた。だからこそ私は、扉を開いた。


 時は戻り、常盤雲雀の生徒会室での一幕。

「俺の幼馴染にサプライズパーティーをしたい」

 俺の言葉に、全員が『何を言っているんだ』という顔をした。

「幼馴染って、科野さんですか」

「うん」

「科野さんってさとりですよね。サプライズしようにも、ばれるんじゃ」

「ばれないよ」

「どうしてですか?」

 財務担当の言葉に俺は強く答える。

「彼女の能力は確かに周囲の沢山の人間の意識を拾ってしまうが、あくまでも『声が聞こえる』人間だけだ。距離が離れている人間や壁越しの人間の心の声は拾わない」

「何でそんなこと知っているんです?」

「生徒としてのカルテにそう書いてあった。生徒会長だからこそ、特権的に閲覧出来た」

「普通に越権行為で草ですわ」

 笑顔で返してくる書記や、庶務などのあきれ果てた顔にひるまず俺は話を進める。

「まあ、だがこれで彼女に例外的にサプライズをさせられる場所が見つかった」

「どこですの?」

「まさかこの『生徒会室』と言うんじゃないでしょうね」

「そうだよ」

 副会長の言葉に、俺は素直にそう答えた。

「この生徒会室なら普段から出入りするのは俺、副会長の渡辺、財務の石田、書記の草埜、そして庶務の逸見だけだ。全員がもれなく科野と別クラス。どんなに計画しても友達じゃないからこそ、ばれるリスクの低減が出来る」

「ふざけているんですか」

 その言葉に、渡辺がそう切り捨てた。

「ここは遊び場じゃないのですよ。私的利用は許可できません。それが例えあなたの頼みだとしてもです」

「私的利用じゃないさ、教員の許可は取っている」

「は?」

 そう言って俺は、一枚の紙を取り出した。

「利用目的は『さとりの予想外の刺激に対してのバイタルの変動に関する実験』だ。この実験のために妖力を計測する機械を使っていいかと言われ、生徒会室なら特別にとむしろ『生徒会室だからこそ』許可が下りた」

「もう下りたって、既に許可取っているんですか⁉」

「ああ、事後報告で済まない」

「本当に済まないと思っているんですか⁉ と言うか、誰が教員として許可したんですか⁉」

「小野塚先生だ」

「小野塚先生って」

「医務室の先生ですか⁉」

「カウンセラーとしても面白い試みだと快く引き受けてくれたよ」

「何で許可しちゃったんですか……」

 渡辺は崩れ落ちそうになりながらそう呟いた。

「俺はな、割とこの学園のままじゃ窮屈だと思うんだ」

「窮屈?」

「私達妖怪は大分満足していますが」

 逸見と草埜がそう答える。しかし、俺は違う。

「自分達の能力の限界を知って対処するのは良い。しかしそれが限界だと知って何もしなくなるのが怖いんだ。のみの天井って知っているか?」

「自分で限界を知って、何もしなくなるって例えですよね」

「あいつ自身がそうなんだよ。自分は誰の声でも聞こえてしまうから、サプライズパーティーなんか縁遠いって勝手に決めつけている」

「……」

「だからな、そんな常識を破る起爆剤になってほしいんだ。そのためなら例え私物化だろうと言われようがやってみせる。それだけだ」

 そこで俺は多数決を取った。

「俺を除いて四人で話し合ってくれ。これに賛成できるか反対か。どうだ」

 結果は、渡辺が反対。他の全員が賛成。

「お前達! それでいいのか!」

「別に面白そうですしいいじゃないですか」

「私は一向に困りませんわ」

「妖怪としては、こういう企画は嬉しいですね。同族が喜ぶところみたいです」

「……ありがとう」

 こうして、俺達の計画が始まった。


「だから、俺は戻らなきゃいけないんだ」

「何で、何で私の催眠が効かないのよ」

 俺はどうにか意識を取り戻し、目の前のサキュバスの女と対峙していた。

「外的刺激に極端に弱く、本人が催眠をかけられたと意識するだけで簡単に解ける。なるほど、カルテ通りだな」

「嘘よ、私の催眠が弱い何てこと」

「だけれどこうして俺には効かなかったな。さて、能力の許可外での使用。それも生徒会長にとは。どう落とし前を付けるか」

「い、いや!」

 そう言って、彼女は走り去ってしまった。

「逸見! 聞こえるか」

 俺は急いで電話を取った。

「逸見! 草埜に今科野が何処にいるか探させろ! 雪菜さんとあずささんには待機させておけ! 俺も今から向かう!」

『会長何処に行っているんですか! で、科野さんが、え! もう下駄箱にいる⁉ なんで⁉』

「急いで放送室に行け! それで呼びかければもしかしたら呼び出せるかもしれない!」

『ちょっと! 突然放送室に行ってどうするんですか!』

「何でもいいから呼びつけろ」

『ああもう、知りませんよ!』

 間に合ってくれ!



「お誕生日、おめでとう!」

 生徒会室に入った私を待ち受けていたのは、クラッカーの音においしそうなケーキや派手な飾りつけの室内だった。

「どうにか成功しましたね! 会長!」

「全く、これで失敗したらどうするところだったんですか」

「本当に良かったですわ!」

「どうにか、間に合った!」

「おめでとう、花梨!」

「おめでとうなのです、花梨ちゃん!」

 その言葉に、私は次の言葉が出てこなかった。

「おめでとう、花梨。やっとお前に気が付かれることなくサプライズパーティーしてやることが出来たな」

 ああ、これがサプライズパーティーって奴か。私はその言葉にようやく頭が動き始めて。

「ちょっと、お前泣いているのか?」

「泣いて、なんか」

 泣いてしまった。だからこそ、私はこう伝えた。

「でもね、あのね。常盤」


「……」

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