選んだつもりでしょうが選ばせたのですよ。
久しぶりにお題のない物話です……お手柔らかにお願いします。
美醜は、異世界でも似たようなものだった。
整ったものが美しい。
崩れたものは醜い。
私が前世を思い出したのは、10歳の誕生日に濡れた大理石の床で足を滑らせ尻もちをついた時だ。頭は打ってないし、意識もあった。
「絶対骨折れたわこれ!」
私が思わず叫んだ言葉は、前世の夫の口ぐせだ。万事が大げさな人だったが、いつのまにか口癖がうつっていたらしい。前世を思い出したと同時のこのセリフなだけに、我ながらガッカリしたものだ。
生まれ変わった私の名は“リーチェ・ヘイワード”
そこそこ名の知れた貴族の家に生まれた。
美醜でいえば美ではない。癖のある茶の髪に、眠たげな瞼、鼻も低い。醜というほどでもないが特徴のない容姿だ。
まわりの同じ年頃の令嬢たちのほとんどには婚約者がいるのに、私は打診されたこともない。両親や姉妹が美形なだけに肩身の狭い幼少期を過ごした。
10歳のリーチェは既に卑屈になりかけていた。誕生パーティーの主役なのに、抜け出してからだいぶ時間が経っても誰も探しに来ない。
涙で目の前がにじんでいたから、使用人が床に水をこぼしたのも気がつかず足を滑らせた。
リーチェは心も痛めていた。
私に主導権を譲り、彼女は休息に入った。
――――大丈夫よ、リーチェ。逆転するわよ!
* *
私は、頑張った。
前世、美容師だった知識を総動員させ、美の意識を改革することに猛進した。
ウェーブの髪を流行らせ
アンニュイを流行らせ
美は一つではないという価値観を浸透させた。
そして私は20歳になり、公爵に見染められ婚姻した。玉の輿だ。
数ある肖像画から私を選んだのだ、と満足げな様子の旦那様ですが、まんまと騙されましたね。
貴方が選んだのではなく、私が選ばせたのですよ?
知らぬが仏とはこのことです。
後で読み返したらセリフが一言しかありませんでした。